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episode45 『王と悟り』

4 時間前
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episode45


歩いたり馬車を拾ったり、交互に器用に立ち回った。今は西にどんどん距離を稼ぎたい。

やがてまた大きな山が立ちはだかったが、それは馬車道が通る山だった。

セントベレス山脈 『王と悟り』
セントベレス山脈 挿絵 by 生成AI

標高が上がるにつれて魔物の生息域も変わり、しばらく平穏だったのが嘘のように、魔物は強く険しくなっていった。

キメラはハゲタカとヘビが合成されたような獣である。

キメラ
キメラ

どこかの科学者が遺伝子操作でもしたのだろうか。空を飛び、炎を吐きだしたかと思えば、《ホイミ》で自分や仲間の傷を回復したりもする。

イエティは真っ白い毛むくじゃらのクマのような生き物だ。

イエティ
イエティ

二本足で歩き、剛腕で殴りかかり、こちらは口から吹雪を吐き出してくる。寒さにめっぽう強いらしい。


武器では苦戦するからと、必殺の《ベギラマ》を放っても、それでも魔物たちは倒せない。《ベギラマ》よりも強いレベルの魔物たちが巣食っている。つまりノーラやそのレベルの魔法使いは、この辺りに寄りつけないことになるのだろう。


山はとても大きかった。セントベレスは山脈と呼ばれていた。ずっと山が続くのだ。しかし馬車道があり、馬車が通る。

なぜなのかと言えば、この険しい山には強力な武器が必要であり、それを売る村が必要だった。山脈に点在する村を、商人たちは武器を運びながら旅をしていた。

武器を運ばなければ馬車道も村も必要なかったんじゃないかという気もするが・・・兎にも角にも、この山脈を渡りたいと願う人間が昔からいたようである。また、シルクという温かい布素材を東から西に運びつつ売ってきたらしい。

そしてそれは、メシア教とはまた異なる道派の巡礼的修行が礎であるらしかった。標高が4,000~5,000メートルもあるという。ソロはその数字にあまりぴんとこなかったが、富士山より高い地域が延々と続くと言えば読者はその険しさの察しがつくだろう。そして快適な街もブローチ屋もない、ホワイトグラタンもない寂れた土地を延々と歩くのだから、この巡礼はメシア教のそれよりもすさまじく難易度が高い。



山に入る頃、マーディラスやトウキョのような華やかな快適な街はもう終わるのだなと思った。少なくともしばらくの間は。それは寂しくもあったが、しかし少々険しく殺伐とした風景のほうが、旅をしている実感があるとソロは思うのだった。そして、素朴な地域にいる人間と語るほうが幾分面白いように思う。


セントベレス山の村 『王と悟り』
セントベレス山の村 挿絵 by 生成AI

最初の村に辿り着く頃、ソロは体調の悪さを感じていた。

高山病だ。しかしソロはそういうものを知らなかった。しかし、日ごろのコミュニケーションが彼を救った。出会った武器商人になんとなしに体調不良を訴えると、高山病というものの存在を教えてくれて、そして薬をくれた。

こういう時、薬などは高く売れるものだ。しかし商人はソロから金を取らなかった。

馬車は徒歩より楽だが、しかし山道では馬車に乗っていてもよく魔物が襲いかかってくるようだった。この山脈を行き交う商人たちは、その魔物を自分で蹴散らして進んでいた。戦士をボディーガードに雇っていたりはしない。この商人たちは高山病にも強く、魔物にも強かった。寒さにも天気の気まぐれさにも、そして退屈や物悲しさにも強かった。陽気に飄々と旅をしている。トルネコが強い商人だったが、やはり商人の中には戦士並みに頼もしい者がいることを思い知った。

ここらの商人は、武器や織物など売買することが金になるから、というだけではない男性的なロマンを抱えて行商人をやっているようだった。または密裡道者たちの巡礼を応援している。平地の街を行き来する商売のほうがずっと楽であろうに、美学があるのだ。

ソロはその村で、《毛皮のマント》を買った。山の寒さをしのぐ防寒具が要る。

皮のマント
皮のマント

山脈に点在する、2つ目の村に辿り着いた頃。

《チェーンクロス》は便利だが、この辺りの強い敵にはパンチが足りないと感じていた。もう少し強い武器が欲しい。

その村の武器屋を覗くと、強そうな武器がごろごろ並んでいる。ひょっとするとトウキョがそうであったように、こんな辺鄙な場所の武器屋も高めの値段で売っていたりするのかもしれないが、確かめようもない。サマンオサの武器の値段は覚えていない。

2,000ゴールドしか持ち併せていなかったソロは、その村の周囲で戦闘を重ねて金策に励んだ。標高の高い酸素の薄い、足場の悪い土地で手強い魔物と戦うのは、それも修行のようだった。褒めてくれる可憐な修道女も何もいないが、ソロは黙々と戦闘を重ねた。半分は心と体の修行のつもりだった。修行とは黄色い声援をモチベーションに行うものではない。

1週間の滞在で5,000ゴールドを貯め、ソロは《大金槌》を4,500ゴールドで買った。普通なら《破邪の剣》でも買っていそうなものだが、かなづちという渋い武器を選んだのは、本気で戦力アップを狙ったからに他ならない。

《大金槌》
《大金槌》

武「《大金槌》かい?そいつは強いがね!でも腕っぷしの強い戦士向けだよ。ひょろっひょろのアンタには厳しいよ」

ソ「そうですか?」細さのわりにそれなりに腕力に自信があるが。

武「持ってみろよ!」

武器屋はそれをソロに手渡す。ズシっ!

ソ「うっ!!」頭の上に持ち上がらない。もう腰を抜かしそうだ!

ソ「せ、戦士ってすごいんだな!」

武「はっはっは!商人にもそれを扱う奴がいるぜ!

 まぁアンタみたいな奴にはこの 《破邪の剣》とか・・・」

ソ「でも・・・こうだ!!」

ソロは諦めず、今度は両手で《大金槌》の柄をしっかりと握った。ぐいん!

ソ「おっとっとっとっと!」

よたつくが、両手なら頭の上まで持ちあがる。

武「おぉ!ご苦労さんなもんだぜ。でもそれじゃぁ盾が装備できないじゃないか」

ソ「僕、盾なんて持ってないんですよ」

武「なに!盾ナシでここまで来たってのか!」

ソ「えぇ。だから左手さんにも援軍を頼めますよ」


《大金槌》を買い、さらにこれを使いこなせるのか確認するために、慣れるためにさらに2日間戦闘訓練に費やし、それから旅を進めた。とりあえず振り回せるようにはなったが、さらなる筋力の強化が急務だ。腕力だけじゃない。振り回す体を支える足腰だって。

ヤクの乳の独特な味にもすっかり慣れた。山の寒さにもすっかり慣れた。

商人はこの村はダルバールという名だと教えてくれたが、そこに住む者たちは自分の村に「名前などない」と言うのだった。村名などというものを気にせずに生きているのだ。

おもしろいな、とソロは思った。


3つ目の村に辿り着いたとき、今度は鎧か何か、防具が欲しくなった。

そもそもここまでソロの装備は軽装すぎる。ソロは身のこなしが軽いため、魔物の攻撃を避けることが多く、または攻撃を喰らっても体を少し動かすことで致命傷を回避するようなセンスがあった。それは、彼が戦士としての訓練を受けていないがゆえに培った特殊能力のようなものだったと言える。普通戦士は、頑丈な鎧や盾を装備して戦い、それらでもって敵からの攻撃を受け止める。それが普通だと考えている。より筋肉を厚くし、より装備品を高級にすることでダメージを減らすものだと考えている。

しかし指導もお金もなかったソロは、避けたり受け流したりすることでしのぐしかなかったのだ。自然とそういう能力が高まっていく。


防具が欲しかったが、その村には本格的な武器屋も防具屋もなかった。そもそも村というよりは、より小さな野営地のようなものだった。

防具屋の代わりに、よろず屋のようなものがあった。ガラクタばかり並べる蚤の市のようなものだ。そこに、鎧がなかったわけでもない。しかしソロの目に留まったのは、ユニークな防具だった。

それはどうも、右側だけしかパーツがない中古品の鎧である。


「これは何なんですか?」と店主に問う。

店「盗賊か武闘家か何かが使ったらしいね。全部を着ると重いからさ、利き手のほうのパーツだけ身に付けたようだよ」

ソ「利き手のパーツ?ですか?」

店「あぁ、右利きの人は右手で剣を構えると、右半身になるだろ?体の右側が前に出るよ。どうせ敵から食らうダメージはその右半身ばかりだからさ、鎧も右側だけでいいんじゃないかって、そのほうが身軽でいいって、考えたヤツがいるんだな」

ソ「へー!」それは面白いな、とソロは思った。

ソ「これ幾らですか?」

店「えーっと、1,000ゴールドだ」と店主は答えた。

本当は、ずっと売れない品なので800ゴールドで売りに出していたが、興味深げなこの男ならちょっと吹っ掛けても買うかな、と踏んだのだった。

しかしソロにとって、1,000ゴールドでも買ってみたいと感じるのだった。

ソロとしては強くなった気がするしユニークなので、充分ご満悦なのであった。

ソロ 右パーツだけの鎧
ソロ 右パーツだけの鎧

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