episode48 『王と悟り』
episode48
その日は本当にゆっくり過ごした。
洗濯物がたなびく下で、小川のちょろちょろという音を聞きながら、向かい側の壮麗な山脈を眺めていた。
翌日。ソロは動いてみようと思った。
玄関の大きな階段を上り、2階に行く。2階にも多くの部屋があるが、さらに3階に上る。
そこにはやはり王の間のような空間があった。
ここも荒らされているが、魔物にメチャクチャにされているふうとも違う。盗賊は金目のものを盗りたいのであって、建物を壊したいわけではないのだろう。
王のデスクと思しきものがある。そのデスクの上には、大きな立派な本が数冊、乱雑に置かれていた。
ソ「本か。この宮殿にも本がある」
王が読んでいたであろう本に目を通すと、外国の文化・歴史を記すものや、高山植物の事典のようなものや、医学書のようなものだった。王は住民の生活のために自らも本で勉強をしていたと見える。
さらに徘徊すると、図書室があった。
壁に建てつけられた本棚にはたくさんの本が並ぶ。本もその一部は誰かに持っていかれたように見える。
何か面白い本があるんではなかろうか?
ソロは幾つかを手にとってみる。
『魔法使いの盲点』
魔法の使い方は攻撃や戦闘ばかりではない。
天候を操ったり、宝箱の中身を調べたり、姿を他人に変えたり、はたまた竜に変身するものまである。
魔法の可能性は無限大だ。これまでは戦闘に使おうと企む者ばかりだったというだけ。
ソ「まだ僕の知らない魔法がたくさんあるんだろうな」
『戦わぬ戦士』
魔物と戦わずとも、友と取っ組み合いをせずとも、体を鍛える方法はいくらでもある。
たとえば農業をしたり、道路工事をしたり。
ソ「肉体労働者は、自覚してないけど強いってこと、あるよな」
『無政府世界』
私たちには、「誰にも支配させない」という政治を選ぶ権利もある。
王も警察もなく、法律も懲罰もない。
それこそが、完全なる自由だ。
あなたは、自分にとっての王だ。
各々が、己にとっての警察だ。
ソ「上手くいくのかな?そんなの」
ソロはこの一文を読んで、とても冷静にそう思った。
しかしソロの前にこれを読んだ者は違ったようだ。この一文に赤いペンでしっかりとマーキングがしてある。とても興奮したのだろう。
隅の勉強机には1冊の本が投げ出されている。
ソロはそのページに目をやる。
緊急時、抜け道から民を避難させた後には必ずそのドアを塞いでおかなければならない。指導者は絶対にこれを忘れてはならない!
ソ「抜け道!?」
これはニュアンス的に、この宮殿に秘密の隠し通路があるという意味ではないのか!?
たしかに城というのは、敵に攻め込まれたときのために外に脱出するための抜け道が隠されている、なんて聞いたことがある。
ソロはワクワクしてきた。この宮殿の抜け道はどこに通じているというのだ?ただ外に出るだけか?そうかもしれないが・・・そうじゃないかもしれない。
他の部屋も見てみよう。
積み木やぬいぐるみの転がる部屋がある。子供たちの保育所のようなものだろうか。
そのテーブルの上にも、開かれた本がある。ソロは目をやる。
わらべうた
最初は左手 お次は右手 もう一度右手 そしたら左手
まだまだお日様見えないけれど 明日は晴れるよ 晴れるよ~
最初は左手 お次は右手 もう一度右手 そしたら左手
ほーらお日様見えてきた 暗闇出口は見つかるよ~
ソ「子供の手遊び唄かな?」
それぞれの地域が独自にユニークな手遊び唄を持っているものだ。
『古の勇者ローシュの旅日記~ポタロ編~』
すみませーん、誰も知らない国に行きたいんですけど、どっちにありますかね?
誰も教えてくれない。みんな不親切なものだ!
この宮殿に秘密の抜け道があるとすれば・・・?
地下に向かう階段か。たとえば食品貯蔵庫のような地下室の、そのさらに下に道が続いていることが想像できる。
ソロは食堂に戻ってみた。床をくまなく調べてみるが、扉のようなものは見受けられない。戸棚の奥にも何もない。
次は・・・
この宮殿は崖に面している。すると、建物の一番奥には、崖の向こうに掘られた穴に通じた扉が、なんてことも想像できる。
ソロは1階の奥に行ってみた。そこは大きな食堂だった。隠し扉はなさそうだ。
2階に上り、奥に進んでみた。そこには音楽室らしき空間がある。放置された楽器も、珍しい形で煌びやかな装飾のされた、金銭的価値の高そうなものがごろごろある。しかし今はそういう問題ではない。
正面の壁には、楽譜の書かれた大きな黒板が・・・大きな違和感を持って横にずれている。
そしてその背後には・・・なんと抜け道が見えているではないか!
ソ「マジかよ!!!」
ソロは驚き興奮した!
ソロの前にこの抜け道を見つけた者は、入口を隠さずに行ってしまったのだろう。


