episode50 『王と悟り』
episode50
山の上だ。峰の向こう側に出たようだった。
こちら側のほうが風が強いが、この台地にだけは雪がなく、植物も生えている。
向こうに集落が見える。

ソ「人が住んでるぞ!」
ソロは駆け寄る前に振り返った。こじ開けた穴はどうしよう?埋めようとしたが上手くいかない。集落があるならそこの人に頼むとしよう。
里に近づくと、もう人の笑い声が聞こえる。
そしてガーデンテーブルを囲んで男たちがトランプに興じる姿が見える。近寄ってみる。
ソ「あのう」
男「ほらやっぱり次も盗賊だよ!
賭けはオレの一人勝ちだ!へっへっへ~」
男「ちっくしょぉ~」
柄のあまり良くない男たちだ。
ソ「あのう、僕、盗賊じゃないんですけど」
男「え、違うのか?」
男「なんだ違うじゃねぇかよ!カネ返せほら!」
男「じゃぁなんだよ。戦士にしちゃガリガリだぜ」
ソ「いや、戦士か何かもわかりませんが、とにかく盗賊ではないです。モノ盗んだりしませんから」
男「ほら金返せ!」
迷いこむ人がちらほらいるのだろう。その対応に慣れている感がある。
ソ「ここはひょっとして、無政府世界というやつですか?」ポタロ宮殿の本に書いてあったものではなかろうか。
男「まぁそうだよ。
ここには王も税金も警察もない。自由の楽園だぜ!はっはっは!」
無政府世界ってこんなものなのか?ちょっと想像とは違った。
ソ「あのう、泊るところはありませんか?」
男「オレん家が宿だよ。500ゴールド(約5万円)だ」
ソ「ご、500!?」
男「そうだよ。こんな辺鄙なところで食い物恵んでやるんだからな」
ソ「高すぎます!」
男「持ってないことはないだろ?
持ってないならそこのロープから少し崖を降りるんだ。魔物がいるから倒して金策してこいよ」
こうして新しく迷い込んできた者たちから金をせしめるのだろう。それを取り締まる者が誰もいないから。
ソ「そうですか。じゃぁ金策考えてきます」
ソロは角が立たないように切り返し、その場を離れた。魔物を倒しにいくつもりはない。集落をもっと進めば、違う毛色の人もいるかもしれない。
彼らは人間だが、おそらくとても強い。戦わないほうがよい。
ソロはさらに奥へと進んでみた。土地は広い。まばらに家が見え、中にはもう使われてないような古い家も見受けられる。家屋の様子はセントベレスの手前の里の家に似ていて、白い壁の素朴な平屋が多い。
また高らかな笑い声が聞こえた。この殺風景な土地で、陽気なもんである。今度は女の声だ。
声のする方に歩いてみる。やはり庭先でガーデンテーブルを置いて談笑する男女がいる。
ソ「女の人もいるのですね」盗賊のようななりをしている。
女「カッコいい男じゃないか!あたいを探しに来たのかい?」

ソ「い、いえ」
女「なんだつまらないなぁ。もっと粋な返し言葉があるだろうよ」
男「なんだよアサ!こんなガリガリな男がいいのか?」
女はアサというらしい。
ア「妬くなよ~妬く男が一番キライっつてんだろぉ~。
あんた今来たの?ここで暮らすのか?
それならあたいん家でかくまってやるよ。騒がしいけどな!あっはっは」
ソ「いえ、ごめんなさい」美人ではあるが、性格がまるで合いそうにない。
男「絶対来るなよ!オレの部屋が狭くなる!」
ア「アンタもそろそろ自分で家建てろよ~」
男「それでまた他の男連れ込むつもりか!」
ソ「人生を楽しんでいらっしゃるようで・・・」
ア「そうだよ。人生は楽しんでナンボだ。
セックスより欲しいものがあるか?」
ソ「否定はしませんけどね。ご自愛くださいよ。女性はデリケートですからね」
ア「強ければいいんだよ、女だって」
女は連れの男を押し倒して、マウントを取るように上からのしかかった。
ア「はっはっはっは!」
ソ「子供が出来ちゃいませんか?そんな無防備で」
ア「望まない子なら、流せばいいさ」
ソ「え?」
ア「ここならそれが許される。法律もない、宗教もない、警察もないんだからな!」
思いがけない切り口で無政府世界を語る者が現れた!
ア「女はなぜ、妊娠したら産まなきゃいけないんだ?それを決める権利は自分にあるはずだ。
堕ろしたい精子もあるだろ。
なんで殺人だ不道徳だって言われなきゃならないんだ?
あたいは新しい世界を生きるよ!」
ソ「堕胎は自分の体も痛めませんか?」
ア「魔法はすべてを可能にした!今どき痛みを伴わずに堕胎なんか出来る。
性病だって魔法で防げるじゃないか。
宗教だけが未だに古い!」
ソ「あ、はぁ・・・」ソロはそれ以上言葉を挟まなかった。
とても危険な思想だが、彼女が強いのであれば、男に支配されていないのであれば、たしかに新しい性観念の世界を確立する可能性はある。そういう実験をする人間が少しは居てもよいのかもしれない。
ア「あたいを裁くのか?罰を受ける覚悟はある。
でもあたいを裁くなら政治家も社長も全部裁いてから来い。奴らが裁かれないなら、あたいだって捕まる筋合いはない」
彼女なりに、平等を主張している。
そして、正論にも聞こえる。
さらに歩く。
ソ「畑だ」ソロは畑を見つけた。
農業をせっせと行う人というのは、荒くれとは異なる気質を予想する。畑に近づいてみると、一人で腰をかがめて作業する男の姿がある。
ソ「あのう」ソロは声を掛けてみる。
男は顔を上げてソロを見る。
男「・・・見ない顔だ」
ソ「今来ました。ここは、無政府世界というやつですか?」
男「そうだ。でも君のイメージしている理想郷とは違うかもしれない。
話は長くなるか?」
ソ「はい。可能ならば」
男「茶でも淹れよう」男はソロを家へと招待した。
サザム

年齢:48歳 誕生日:11月22日 身長:174cm


