episode51 『王と悟り』
episode51

無政府世界とやらの中で、ようやく話の通りそうな男を見つけた。
ソ「ありがとうございます。
僕はソロと言います。世界を旅しています」
サ「私はサザムという。
まぁ話したいことは大体察しているがね」
ソ「村の入口で盗賊に会いまして、宿は500ゴールド(約5万円)だと吹っ掛けられました。
無政府世界って、もっと良いものかと想像していたのですが・・・」
サ「昔は、もっと平和な里だった」
ソ「盗賊が、割り込んできた?」
サ「そうだ。君は頭がいいな。話が楽だ。
昔、ここはポタロ宮の精神主義者が隠れ住む地だった。密裡道を信仰する者ではなく、さらにその中でも達観した者だけがここを嗅ぎつけて訪れた。宗教を超えたい者たちが。
それは理想郷、ユートピア、シャングリラと呼ばれ、しかし世界において伝説でしかなかった。およそ誰もこの場所を突き止められはしない。
その精神主義者たちは、王に支配されず、警察に支配されず、自由に大らかに暮らしていた。無政府世界の良い例だ。堕落もない、支配もない大らかな暮らしを、アセンションと呼ぶ」
ソ「そんな隠された土地が、本当にあるのですね!」
サ「しかし、望まざる来客が増えることになった。
近くの国で盗賊が増えてね。そのいきさつは割愛するが。
その盗賊たちの中でセントベレス山脈の冒険が流行り、ポタロ宮に達し、そしてここを突き止める者が現れだした。
その数は段々増え、盗賊たちがここを占領してしまった。古い住人たちはもうほとんど絶滅した。殺されたよ。
まぁ私とて余所者だがね」
ソ「サザムさんもポタロ宮の人ではない?」
サ「あぁ。下界からさすらってきた人間にすぎない。
ここは無政府世界というか、まぁスラム街だ。治安が悪い。
長居をしないほうが良い。あんな迷宮を引き返すたくましさがあるのならば、だが」
ソ「ははは。大変でした。
あのう、一晩でいいので泊めてはもらえないでしょうか?」
サ「もちろんだ。カネも取らない」
ソ「サザムさんは、密裡道の人の生き残りなのですか?」
サ「いいや、私も外の国から来た。トウキョというところの出身だ」
ソ「あぁそこ通ってきましたよ!
サザムさんはなぜ、盗賊たちから殺・・・いえ、虐められないのですか?」
サ「簡単だ。強いからだよ。
一度ケンカを売られたことはあるが返り討ちにしてやった。そいつは強くて有名だったのだろう。それ以降誰も私を襲ってはこなくなった」
ソ「居心地のいい村には見えないのですが・・・サザムさんは戻らないのですか?」
サ「はっはっは。戻りたいのは山々だが、あの迷宮をもう一度抜けるのは無理だろう」
ソ「だって強いのでしょう?」
サ「魔物に勝てても、迷路に勝てないよ。力尽きるだろう」
ソ「え!『最初は左手お次は右手』ですよ!」
サ「うん?」
ソ「わらべ唄のヒントですよ」
サ「なんの話だ?」
ソ「えぇー!ひょっとしてサザムさん、わらべ唄のヒント無しにあの迷路を抜けてきたのですか!?」
サ「あ、あぁ。何もヒントはなかったが」
ソ「それもすごいな!
でもそれなら助けてあげられますよ!僕、帰りの道順がわかります!」
サ「なに、本当か!?」
サザムは再び庭の畑に出ていった。食べられそうなものを収穫している。ソロも手伝う。
サ「もうこの畑も用済みになるからな」
明日にはこの家を捨てて出ていくからだ。せっかく整えたこの家にも畑にも、まるで執着がないようだった。
すると、アサとかいうさっきのワイルドな女が姿を現した。

ア「《毒消し草》を少しくれないか」
サ「・・・・・・」サザムは少し考えているようだ。
サ「持っていけ」庭に植わっているハーブを少し彼女に手渡した。
ア「ふん。またな」
サ「あぁ」
女は去っていった。サザムは明日にはいなくなることを彼女には言わなかった。
ソ「あの人、さっき見ました。すごいおてんばな人ですね」
サ「ははは。昔はもう少し素直で、可愛いところもあったんだがね。
統制されたくないのだ。そして自由に生きたい。
自由の質が、変わってくるといいのだがな・・・」
ひょっとして、2人は男女の仲だったことがあるのではなかろうか、とソロは思ったが、余計な話はしないようにした。
サ「もう少しこの里に、善い男がいればよかったんだ」サザムは遠い目をして言った。
今夜の寝床を得て安心すると、ソロは里を歩きに出た。
里の一角に掲示板を見つける。今では落書きだらけで、酷いものだ。落書きを凝視していると、面白いものを見つける。
『古の勇者ローシュの旅日記~シャンバラ編~』
今日は戦士と僧侶が仲間になった。どちらも男だ。
口説き文句はこうだった。「あんた面白い男だね!バカだよ」冒険ってそういうものだったかなぁ・・・
ソロは、《大金槌》を持ち、ちょっと胸を張って歩くことにした。この里では強く見られておいたほうが奇襲攻撃を受けたりナメられたりのトラブルが少なく済む気がする。
歩いていると、また女性に声を掛けられる。

女「見ない顔だな?
お前、この辺で龍を見たか?」可愛い顔して随分口調が荒い。自己防衛のつもりなのだろうか。
ソ「龍?」
女「ヘビのような長い体を持つドラゴンのことだよ。火吹いたりしてさ」
ソ「いやぁ、洞窟にも巡礼路にもいなかったと思いますけどね」
女「巡礼路じゃなくて山のこっち側のことだよ」
ソ「わかりません。全然歩いてないので。
龍って伝説上の生き物じゃないんですか?僕も見てみたいもんですけど」
女「いるはずだ。古代の石碑に書いてあるんだからな!」
ソ「えぇ!?」
女「『いつまでも愚かな地球人に愛想を尽かすならそれもよいだろう。
女は、龍の血を飲むことで老いぬ体を手に入れる。
龍は遥か西の地、セントベレスに多くいる。
そこから旅立つ勇気があるのか?』
だったかな。東の大陸の森の中に、そんな石碑があるらしい。
セントベレスというのはこの山脈のことだ。巡礼路には全然いないのだから、それなら山のこっち側に隠れているはずだろ。
情報料をやる。もし見つけたならあたしにだけ教えろ。いいな?」
ソ「あ、はぁ」
そういえば里の入口で会った者たちは、台地から降りると魔物がいるとか言ってたな。
ソ「龍かぁ。ちょっと見てみたいなぁ」ソロは好奇心が湧いた。



