episode6 『王と悟り』
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episode6

荷馬車はいなくなった。まだ町は見えていないのだった。
ソ「ふう。結構歩きそうですね」
ト「そうだ。10回は魔物と戦っておきたいからなぁ」
ソ「そんなに!?魔物ってそんなに出るのですか?」
ト「出るよ。地域によってはね。
大丈夫さ。君が戦いに慣れるまではそばに居てやろうってことなんだから」
ソ「よーうし!」ソロは気合を入れると、《銅の剣》を両手でぎゅっと握って構えた。
ト「わっはっは!まだ臨戦態勢には早いな!
でもすぐに剣を構える覚悟はしておくんだ。
そうだなぁ。ちょっとエサでも撒いてみるか」
トルネコはそう言うと、干し肉か何かを千切ってぽいと放り投げるのだった。
すると、案の定だ!
「キキー!!」
3匹のいっかくうさぎが現れた!立派な角を持った、うさぎにしてはやたらと大きな獣だ。

ト「おぉ、初めての戦にちょうどいいんじゃないか?
ほれ、戦ってみたまえよ」
ソ「やぁー!」ソロは勇ましくいっかくうさぎに斬りかかった!
ザシュっ!
ピキーン!いっかくうさぎは消えてしまった!
ソ「おぉ!?」
ト「倒したんだよ。よしよし順調さ!」
するともう1匹のいっかくうさぎはソロに反撃に出てきた!角を前に出して突進してくる!
ソ「こうだ!」ソロは突進の角を、巧みに剣でいなそうと試みた!
ブスっ!
ソ「うぐっ!」しかしそれは上手くいかず、痛手を負ってしまう!
ト「ほらほら!まだ新米なんだからムリするなよ!かわせそうなものは身をかわすのさ!」
もう1匹のいっかくうさぎがトルネコに突進してきたが、トルネコは大きな体でひらりと飛び跳ねて、その攻撃をかわしてみせた。
ソ「すごい!」巨体とは思えぬ身のこなしだ。
ト「ほらほら!わしのお腹に見とれてる場合じゃないんだよ!わっはっは!」
トルネコは戦闘中ですら笑っている。
ソロは反撃に出た!
ブシュっ!
いっかくうさぎをやっつけた!
残りのいっかくうさぎはトルネコに突進してくる。トルネコは角の軌道を慎重に見極めながら、しかし背中の荷物から武器の1つも取り出さずに、なんとサンダルで敵の体に蹴りを食らわした!
ドスン!
いっかくうさぎをやっつけた!
ソ「け、蹴りだけで!?」
ソ「すごい・・・!」ぶくぶくと太った人間がこんなに軽やかに力強く動くのを、ソロはこれまで見たことがなかった。
ト「まぁ上出来だよ!2匹も自分でやっつけたんだからなぁ。魔物を見てもひるまないし、武器を握ることも、振るうこともひるまなかったじゃないか!」
魔物と戦う、ということがそれなりに必要になることはわかっていた。しかし、その上達は思いのほか長い道のりになるのだろうことを察した。それは面白いことに、いっかくうさぎとの対峙以上に、サンダルの蹴りで魔物をやっつける「商人」と名乗る太ったおじさんの強さを見て、思ったことだった。人はこんなにも強くなれるのか!
ト「まぁ大丈夫だよ。剣を振り回してりゃどうにかなるもんでさ!」トルネコは脱帽しているソロを励まそうと、肩をぽんと叩きながら言った。
しかしソロがわなわなとしている理由は、違うのだった。
ソ「た、旅が・・・楽しいです・・・!!」
ソロは目を涙でにじませながら言った。感動の涙だ。
ト「わっはっは。そうだな。戦う自信が付けば、旅はワクワクするもんだよ」
ソ「いいえ!それもあるけど・・・
トルネコさんと出会ったからです・・・!!!」
ソロは己の幸運を理解するのがとても早かった。そのとおりなのだ。戦闘の訓練をこんなに楽しく行ってくれる戦いの師は、世界中探してもそういないのだった。
トルネコの笑顔が見守る中、幾つかの魔物の群れを退治しながら歩を進めた。
そしてやがて町が見えてきた。
いつの間にか宵の闇色はすっかり抜けて、すっかり青空である。が、町としては朝食の時間帯だ。
ト「マイエラって町だな」
規模の大きな町だった。王都のようなものでもないが、一通りは何でも揃い、民は活気にあふれ不自由なく暮らしている、そんな雰囲気がする。早朝に町をほっつき歩いているのは働き者ばかりだが。
ソ「うわぁー!」ソロは感嘆の声を上げた。
ト「うわーっつったって、君がいた町のほうが大きいんだろ?」
ソ「それはそうですけどね。初めての外国の町ってのは感慨深いものですよ!」
ト「まぁそうだな。
さぁまずは両替え屋だよ。君、魔物を倒したときに手に入れた宝石は、袋にまとめてあるな?」
ソ「えぇ」
この世界では、魔物というのはやっつけたときに小さな宝石に姿を変える。それは町で売ればゴールドに換金できる。つまり、魔物を倒すことは金策になる。
ソ「でもこんなに早くお店が開いてるんですかね?」
ト「開いてるさ。船が早朝に着くだろ?すると旅行者はこれくらいの時間にやってきて両替えだの宿の確保だのって動くんだから。町ってのはその町の性質に合わせてスライムみたいに変形するんだよ。わっはっは!
あぁほら、あれが両替え商だ。こういうのは大体町の表にあるもんでさ」
トルネコの言うとおり、朝も早くから店を開けているのだった。朝ごはんを食べながら呑気なもんだが。
ト「自分でやれるな?」トルネコは促す。
ソ「この宝石を両替えしてください」ソロはカウンターに宝石の袋を差し出す。
両「ひぃふぅみぃ・・・、えぇと、ゴールドでいいんだね?」
ソ「え?」ソロはトルネコの顔を見る。
ト「そうだな。これからは大体ゴールドの国ばっかりになるから、ゴールドでいいだろう。円を使う国なんて世界に2つか3つしかないんだよ。たしかね」
両「はい、31ゴールドだよ」
ソ「これで足りるかな?」
ト「足りないな!手持ちのカネも両替えしてもらっておきたまえよ。そうだな。1,000ゴールドくらいは持っておくといい」
ソ「1,000ゴールドってことは、10万円だな。
・・・えぇ!もうそんなに使うのか!」
ト「はっはっは、使ってないよ。両替えしただけさ」
トルネコは両替え商に言った。
ト「おい。この青年からボッタクるんじゃないぞ!」
両「へ、へぇ」
ソ「ふぅ!」両替えは無事完了した。旅の基礎をまた1つ覚えた。
するとトルネコはソロに尋ねた。
ト「君あんまりお金を持ってないのかね?」
ソ「えぇ」
ト「幾ら持って出たんだ?」
ソ「200万円くらいです」
ト「200万円・・・すると2万ゴールドか。いやいや金持ちじゃないかよ!」
ソ「いえ、これで1年でもそれ以上でもさすらい続けるつもりなんです。だから安い宿に泊まって、安いものを食べるつもりなんですよ。えへへ」
ト「そうかそうか!いいなぁ。わしの若い頃を思い出すよ。
3ゴールドで泊まれる宿がこの町にもあるよ。相部屋でもいいんだろうね?」
ソ「えぇ、そのつもりなんです」
ト「ほら、向こうだ」
トルネコはソロを率いて歩き出した。
ソ「ありがたい話ですけど、いつまで付きあってくれるつもりなんです?」
ト「そうだね。わしだって君のために生きてるわけじゃないからな!もうすこ・・・」
男「やぁトルネコの旦那!」
不意に町の男に声を掛けられた。
ト「おーおーおー、久しぶりじゃないか!
あーソロ君よ。ほら真っすぐ行ったとこにある赤い看板がそれだからさ。ちょっと先に一人で行っておいてくれたまえよ」
ソ「えぇ、わかりました」


