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episode62 『王と悟り』

10 時間前
読了時間: 5分

episode62

馬車でやってきた他の観光客たちも、同じように終着点のカーテンから赤い神殿を見上げ、言葉を失くしている。

そして数分もすると、皆もと来た場所に引き返していくのだった。

ソ「あれ?ペトラ遺跡ってこれで終わりじゃないですよね?」神殿の右側には道が見えているし、ペトラは広大な遺跡だと聞いたことがある。

馬「えぇ、この先にも集落遺跡がありますよ。とても広いです。

 馬車があったほうが良いですよ。20ゴールド(約2,000円)です」

ソ「もういいよ!遺跡を歩き回るために体力を温存したんだから。もう頼まないよ」

ソロは今度こそ馬車を追い返した。


赤い神殿の先へと歩いていく。道が開けると日が射し、また汗ばむほど暑くなる。でもいいのだ。遺跡は汗をかきながら散策するものだ。少々苦しいからこそ楽しい。エアコンの下の遺跡など、遺跡ではないのだ。テレビやVRがどれだけ発達しても、旅人は旅をする。

観光客は途端に居なくなった。そして集落遺跡が開ける。


ソロはまるで、広大な原始的な赤い町の中にたった一人で居る!


たった一人で居る!


とても奇妙な、贅沢な感覚だ。

集落遺跡とは何だ?赤土の岩、崖、丘を横から掘って、洞窟住居を多数造っているのだった。または動物の彫刻が施されていたり、丘の上に階段が続いている。


およそ土しかない。しかし町がある。


土だけで、人の暮らす家があり、芸術があり、儀式をする神殿がある。これはとても奇妙な感覚だ。一体、とても原始的なのか、とても聡明なのか、よくわからない。

普通、文明とは高度になればなるほどたくさんの物を用いて暮らしを作り、たくさんのものに依存する。ここには、赤い土しかないが広大な町がある。



集落遺跡をぐるっと一回りすると、さらに奥に道が続いている。なだらかな登山道で、山というか丘というか、高いところに向かっている。

これが観光地としての遺跡の一部であるなら、ここまで歩き回れる一般人はあまりいないだろう。さっきも多くは神殿を見たところで引き返していたが、もっと興味があるとしても集落遺跡を一回りしたらもうヘトヘトになりそうだ。

世界とは奇妙なもので、分厚い扉など設けなくても人を追い返してしまうことが出来る。限られた夢追い人以外の脱落者たちを。


遺跡の入場ゲートをくぐったことを忘れてしまうなら、ここは山の中に見える。しかし魔物は出現しない。遠い昔に住んでいた誰かが、結界でも張ったのだろうか。

細く長い裂け谷を通らなければ見つからないこのペトラという町は、ポタロ宮のように隠された住み処だったのだろうとソロは想像する。きっと周囲の戦争文化から逃げてきた民なのだ。

遺跡を観光するうえで、その遺跡の歴史や背景をあまり勉強しないほうがよいかもしれない。そのほうが、「なぜここはこうなっているんだろう」と不思議を感じる余地がたくさん残る。自分で想像する面白さがある。その考察が正しくないとしても、その考察のほうが面白いこともある。遺跡とは壮大なオモチャであり、当人にとって面白ければよいのだ。



やがて上り道は終わった。

広い台地があり、そしてここにも大きな神殿がある!

先ほど、裂け谷のカーテンが演出するあの神殿が、すでに人から言葉を奪い去った。なのに、さらにこんな奥にまで隠し玉があるというのは、もうサービス精神が良すぎてたまげる。いやもちろん未来の観光客のために造ったわけではないのだろうが。

台地には強めの風が吹いていて、カーテンの前の神殿とはまた違ったワイルドな趣がある。ビュービューという風の音ばかり耳に響くが、しかしソロはその中で小さな違和感を持つ。


人の気配がする?


緊張するが、ソロは2つ目の神殿の入口へとゆっくり歩いていく。



なんとそこにはやはり、男性がたった一人で佇んでいた。カウボーイハットを被った背の高いひょろっとした男は、盗賊にも見えない。

ソ「あなたは・・・?」

男「君は?」

ソ「あはは。僕は観光旅行者です。ソロといいます」

男は、ソロを野蛮な盗賊ではないと察知した。

エ「私は、考古学者だ。エドムという。

 趣味と仕事を兼ねて見物をしているところだ」

エドム 『王と悟り』
エドム キャラデザ by 絵夢さん

年齢:40歳 身長:190cm


ソ「素晴らしいですよね!僕はペトラ遺跡のこと何も勉強していないんですが、ここは味わい深い文化があったんじゃないかって、ワクワクするんです」

エ「古代文明を伝え残す遺跡としても、価値があるがね・・・

 私の今回の目的は少し違う。

 いや、なんでもないんだ」男は口を滑らせたような小さな動揺を見せた。

ソ「え?」

エ「いや何でもないんだよ、ははは」

ソ「何か大きな謎を隠しているのですか?

 この遺跡は」ソロはエドムの目を見つめ、逃がさない。それはまるで最も無欲な女性が、運命の人を口説き落とすときの揺るぎない眼差しだ(人は皆人生で一度だけ、この技を使うことができる)。


エドムはその、静かなる信念に思わず気圧される。

エ「・・・・・・。

 まぁいいか。

 場合によっては、ここは世界の命運を握る」

ソ「えぇ!?」

エ「いいや、ここではないかもしれないんだ」

ソ「え?」

エ「考古学者は、まだ確かでないことを迂闊に話すべきではない。だからあまり話したくもないのだが・・・ここは世界の命運に関わっている、可能性がある」

ソ「というと!?」


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