episode60 『王と悟り』
episode60
3日間金策をして、所持金は7,000ゴールドになった。まだ7,000か!と思ったがこの近辺で戦闘を重ねるのはもう飽きてしまったので、先に行くことにする。
南に行く、と言ったら、おかみさんの娘はソロに薄いレモン色のショールをくれた。頭に巻く薄い布だ。暑い地域はまだ続く。せめて日差しを避けるものを頭にかぶったほうがいい、と母娘は言った。なんだか女の子らしい色なのでちょっと恥ずかしいが、まぁいいか。旅の恥はかき捨てだ。
旅行では、グルメも醍醐味の1つである。どうしてもいろんな店に入って色んなものを食べたくなるものだが、同じ店で何度も食べることも悪くはない。すると店主と仲良くなって、何かと情報をくれたりサービスをしてくれたりするものだ。
または逆に、健気に働くその店の店主を応援したりするのも楽しかったりする。ちょっとした知り合いになるのだ。数日で別れ、もう会うこともないのだが、一種の友情なのだ。
・・・あの母娘は違った!
リンガイアを出て歩いていると、後ろから荷馬車の音が聞こえる。それは日常的なことだが、さらに「ソロさーん!」と声がする。女性の声だ。
なんだと思って振り返る。
娘「ちょっとそこまで一緒に行きましょうよー」
なんと、あの食堂の娘だ。
●ローラ

年齢:17歳 誕生日:6月21日 身長:158cm
ソ「あぁ、食堂の!」
娘「乗せていってあげますよ。ほら乗って?」娘はソロに手を差し出す。
ソ「いやいいよ!遠出なんて危ないよ!」
娘「だって私だってお出かけするんですから!ついでに乗せてあげようと思って」
「お出かけするから付き添って」ではなく「お出かけするから乗せてあげる」と言っている。
ソ「ど、どこに行くの?」
娘「うふふ。ペトラまでは行けませんからね!
ちょっと先にある修道院です。ほら?後ろの食料品や、武器やなんかをたまに届けてあげてるの」
ソ「そ、そうなんだ」
娘「大丈夫よ。お出かけには慣れてるの」娘はソロを助手席に引っ張り上げた。
ソ「あ、ありがとう」
ロ「私はローラ。『おかみさんの娘さん』じゃないですからね?」
ソ「あぁごめんね。ローラ。
修道院のお手伝いなんて、感心だね!」
ロ「うふふ。暇つぶしみたいなものよ。
お家で料理ばっかりしてても飽きちゃうんだもん。
誰かに暇つぶし付き合ってほしかったら、その人を助けてあげればいいのよ」
ソ「なるほど」
ロ「ママのこと別に尊敬なんかしてないけど、それだけはママから教わって感謝してるの」
意外と似た母娘のようだが・・・ソロはそれは口にしなかった。
ソ「街のそばに、修道院があるの?」
ロ「そうよ。あれ?孤児院だっけ?いや両方なのよ」
ソ「どういうこと!?」
ロ「ほら、リンガイアって物騒な街でしょ?
子供産んでも育てずにほっぽりだしちゃう盗賊とかママとかいるの。
可哀そうな子少なくないから、孤児院みたいの出来たのよ。
でも孤児院の子育てって大変なの。だから修道女さんがやってるのよ」
ソ「なるほど!一石二鳥な気もする」
ロ「物騒な街だからね。街から出て静かに暮らしたいっていう人だって少なくないのよ」
ソ「やっぱそうだよね」
ロ「そういう人は修道院で暮らすのよ」
ソ「教会のシスターも修道院に行けばいいのにな」
ロ「あぁあの人はクヨクヨしてるから無理よ」
ソ「え?」
ロ「教会の前でいつも天に祈ってるシスターでしょ?
神様に助けてもらいたいだけなの。修道院は逃げ場じゃないわ。子供育てる面倒見の良さがなきゃ、暮らせないわ」
ソ「そうか!」
ロ「他の修道院は孤児のお守りなんてしないけどね。それでも畑耕したりするからね。逃げたいだけじゃダメなのよ」
ソ「君、頭いいんだね!?」
ロ「えぇ?別にぃ!あはははは!」
荒れた街にあって動揺しない、神経の太い陽気な子なのかと思っていたが、意外と色々考えているようだ。
道中には魔物が出る。馬車に乗っていればあまり襲いかかってこないが、0にはならない。しかし彼女はその魔物と戦う度胸すら持っているのだった。彼女は目くらましのアイテムみたいなものを投げつけて、可能なかぎり逃げる。魔物を打ち負かすことには興味がないようで、ただ身を守っているだけだ。しかしこれも「強さ」である。
ソ「なんかユニークな戦い方するね?」
ロ「うふふ。盗賊の街だもん。盗賊ってこうなのよ」
ソ「あぁそうか」盗賊は『姑息だ』という印象で語る者が多かったが、盗賊ののらりくらりとした戦闘スタンスは、見習うべきものもある気がした。
ローラはソロに話し掛ける。
ロ「ねぇ?ソロさんは苦手なこととかないの?料理とか」
ソ「苦手なこと?えーっと、いっぱいある気もするけど・・・でもそれなりには自己完結して生きてるかな。料理も、得意じゃないけど自分が食べる分くらいはやるよ」
ロ「ふぅーん、付け入る隙ナシかぁ」
ソ「え?」
ロ「いや!なんでもナイよ!
私はね、彼氏を守れるような女になりたいんだ。
『君を守るよ』って言ってくれるようなステキな男性が現れるとしても、それでも私も彼氏を守れるような強い女でありたいの。守る側でありたいの」
ソ「へぇ・・・」
このようなことを言う女性は、今まであまりお目にかかったことがない気がした。
少し山道を登っていくと、やがて修道院に辿り着く。
想像していたよりずっと大きな建物だし、想像していたよりずっと新しく見える。建造100年か200年か、とイメージしていたのだが、せいぜい10年程度ではなかろうか。
ソ「こんなに大勢住んでるの?」
ロ「うん?まだ空き部屋がいっぱいあるんじゃない?」
ソ「へぇ」
ロ「こんにちはーーーー!」ローラは元気いっぱいに挨拶をした。
しばらくすると戸が開く。
シ「おやおやローラかしら」
ロ「こんにちは!食べ物お届けにきましたー!」
シ「あら?今日はお連れ様が一緒のようだけど。男の人かしら?」
ロ「あぁ、今日は武器も持ってきたので、重いから手伝ってもらったんです」
シ「そうなのですね。お勤めご苦労様です」
ソロは感心した。ローラは咄嗟に嘘を付いたのだ。皆が安心するための、揉め事が起こらないための嘘を。修道院は一般的に、男性の来訪を嫌う。
シ「どうぞ、お入りなさいな。お茶をお淹れします」
シスターはソロのことも受け入れた。

応接間に通される。
子供たちのキャッキャと騒ぐ声が聞こえる。それを上品にたしなめる淑女たちの声も。
シ「おほほ。騒がしいですがご勘弁くださいね」
ソ「お話を、伺うことが出来るんでしょうか?」
シ「えぇ?大した話も持ち併せてはおりませんけれど」
ソ「修道院って初めてなんです、僕」
シ「えぇえぇ、よいのですよ」
ソ「とても大きな建物で、随分お金掛かりそうですけど、誰が建てたのですか?」
シ「おほほほ!いきなり大変な質問ですこと!
えぇと、そうね・・・。
悪い人が、お金を恵んでくださったのですよ」
ソ「えぇ!?」
シ「20年くらい前にね、盗賊の男性が『修道院を建てなさい』って、お金を恵んでくださったのです」
ロ「えぇ?創始者は女の人じゃなかったの?女の盗賊さん」
シ「おほほ。表面的にはそう話をするんですけどね、真相は違うの。もうローラにも話してもいいわね」
ソ「まさか・・・!」
シ「ヤンガスという盗賊です。
ローラと一緒に来たということは、リンガイアを知っているのでしょう。リンガイアの盗賊ヤンガスを」
ソ「はい。王様から大金を盗んで、戦争を回避した人!」
シ「そうです。ヤンガスは、その盗んだお金を修道院に回したのです。
彼は、治安の悪いリンガイアにそこから抜け出したい町人が大勢いることを知っていました。だから近くに修道院を建てればいいと考えました」
ソ「そんな話、街では誰も言ってませんでした!」
シ「えぇ、でも本当なの。
ヤンガスは盗賊です。寄付もしたけど、盗賊を生きてきた人です。
おまけにね、うふふ、人相の悪い人でね。あぁ失礼。でもその説明は必要なの。
人相の悪い盗賊の話なんて、誰も聞き入れはしないのです。信頼されにくいのです」

年齢:40歳(修道院創設当時) 誕生日:7月23日 身長:183cm
ロ「だから女性の盗賊って話になったんだ!」
シ「いいえ?女性の盗賊が関与しているのも事実なのよ。
ヤンガスのお友達で、ゲルダという人なの。彼女も盗賊だけど、ヤンガスよりは人から信頼されるみたい」

年齢:27歳(修道院創設当時) 誕生日:2月1日 身長:172cm
ソ「その人も英雄だ!ある意味で」
シ「そうね。ゲルダは私欲なくヤンガスを手伝いました」
ヤンガスはとてつもない額のお金を置いていきました。だからとても大きな修道院が建てられたのよ」
ソ「リンガイアから大勢の人が逃げてきても、かくまえるように?」
シ「『逃げたきた』ではだめなのです。
うふふ、ヤンガスは優しくて厳しい人。
ヤンガスは、『修道院と孤児院を兼ねるように』と注文しました。
修道院に入る人は、俗世から逃避したがる人が少なくありません。でもそれは修行の道ではないわ。でもこれまで修道院に、逃避的な人を咎める方法も、見極める方法もありませんでした。
でも孤児院を兼ねるなら?
自分の子ですらない、みなしごの面倒を見る覚悟のある人しか、ここには来ません」
ソ「すごい名案だ!」
シ「ヤンガスは言いました。
神に奉仕するのではなく、人に奉仕すべきだ、と。
彼自身はメシア教を嫌い、宗教を嫌います。でも修道院を建てました。
神に奉仕するのではなく、人に奉仕しろと言いました。
祭壇の掃除をするのではなく、人のおむつの洗濯をしろと言いました。
私たちは、ヤンガスの像を造ったりはしません。
毎日を、丁寧に生きます。
ヤンガスを善人だとも言えないのでしょう。複雑な話です」
ソ「すごいな・・・!面白い話です」
ロ「へぇー、ここにもヤンガスがいたのね」
ソ「でも、修道院のお部屋はあんまり埋まりませんね?」
シ「はい。心の病める人は、リンガイアに大勢いるでしょう。
でも修道院で暮らそうとはしません。
修道院の暮らしは慎ましいから。食べるものに困りませんが、ぜいたくを楽しむ暮らしではありません。ほとんどの人は、それじゃつまらないの。
だから柄の悪い盗賊や商人に振り回されていたって、それでも街での暮らしを選び続けます」
ローラはさらに、子供たちと遊び、畑の手伝いをしてから帰るという。
ソロは一人で、修道院を出た。



