episode63 『王と悟り』
episode63

神殿の静寂の中、考古学者エドムは語る。
エ「世界のどこか、広大な遺跡の下に、『地獄の帝王』が眠っている、という伝承がある」
ソ「地獄の帝王!魔王のことですか!?」
エ「わからない。伝承というのは曖昧な表現でボカすものが多いからね。
魔王のことに思えるが、そうでないかもしれないよ」
ソ「地獄の帝王・・・」
エ「それに、厳密に言えば『遺跡の下』ではないんだ。『古代の遺物の下』と書かれてある。それは大抵遺跡のことだろうが、遺跡ではない似たようなものかもしれない、と私は慎重に考えている」
ソ「今この下から、魔王がボコッと出てくるかもしれないんですか!?」
エ「その可能性が少しはある」
ソ「・・・!」ソロは恐れから身震いした。
エ「いや、候補の1つだよ。
広大な遺跡、広大な遺物は、世界には他にまだ幾つもあるだろう」
ソ「そうか。候補の1つ。
ここは聖なる集落だったのかなって、僕は想像しちゃうんですが」
エ「そうだな。
でも聖なる土地のすぐ下に悪が眠っている、ということだって無いとは言えない」
ソ「そうか!!」聖地と断言できる場所など、ないのかもしれない。
この人の見解は面白い!ソロは興奮で胸が震える。
ソ「魔王を倒せるほど、強い人なのですか?」
エ「私か?はっはっは。まったくだ。
私は一介の考古学者にすぎない。ナイフを持って害獣を撃退するくらいの覚悟はあるが、戦闘に長けてはいない」
ソ「では危ないですよ!」
エ「そうだな。でも考古学とはそういうものだと思っている。
発見の傍らに、恐竜に踏みつぶされたってかまわない、そういう覚悟がなければ荒野の調査などできないよ」
ソ「へぇー!
・・・それで、何かわかったのですか?」
エ「何もわからない。
が、なんとなくの感覚としては、ここではない気がしている。
遥々来たことは無駄だったのだろうか?
いいや、ここに立ったから感じ取ったことだ。
でもそんな感情論は発表には値しない」
ソ「残念ですね・・・」
エ「だから私的な休暇で来ている。
良いのだ。感覚は、物事の優先順位を決める役には立つ。
何かを本格的に調査するなら、大勢の学者や護衛を連れてくる必要があるが、次に動くべきはこの遺跡ではないと感じた」
ソ「へぇー」
魔王が眠っているなら、ソロはここで戦うべきなのか?そんな怖い目には遭いたくない。が、自分も何かしなければいけないような気もする。これは複雑な問題だ。ソロは別に強いわけではない。まだレベル20か、せいぜい22くらいのものだろう。
考古学者の男は、神殿の入り口の下に立ってずっと景色を眺めていた。ただこの丘の風に吹かれながら。それは彼にとっての「調査」だったのだろう。
学者というのは左脳的な人間だと思っていたが、この人は左脳ではない感覚で物事を洞察しようとしている、とソロは感じた。
ソロもしばらく、そこにしゃがんで静かに風を浴びていた。

エ「そろそろ行くか?」
気が付けばもう、夕陽が沈みかけて暗くなっている。
ソ「あ、えぇ」
エ「町まで乗せていってあげよう」
ソ「え?」
エ「私は馬を持っている」
そう言うと彼は、台地の隅に停めた馬へ歩み寄り、縄を解き始めた。

エ「山道は足場が悪いから、最初は歩いてもらうぞ」
ソ「これ、馬というか・・・」
エ「はっはっは。そうだ。この子はロバだよ」
ソ「かわいいですよ」
エ「ロバはね、馬よりも安いんだよ。
小柄で短足で頼りなく見えるが、意外と力強い。そのギャップがまた愛おしい」
ソ「わかります」テムール川までソロを運んでくれたのは、ロバだった。
エ「わかるのか?はっはっは」
ついに赤土の神殿まで辿り着いたわけだが、その催しも1日で終わってしまった。
この観光者向けの小さな町に他に用事もない。またすぐに次の町に移動か、と複雑な気持ちになったが、考古学者エドムは「1日2日のんびりしていきなさい」と言った。
体力があるとしても遺跡歩きは、熱中症にかかったり、日焼けで体が怠くなることがあるから、きちんと休息をとったほうがいい、と。
ソロはそのとおりにした。せかせかしないほうがいい。のんびりするための自分への良い口実を貰った。
どのみちもう少しの滞在が必要だった。次にどこに行くか、まるで考えていない。
数日前から頭は赤い神殿のことでいっぱいで、その先のことなど考える隙間もなかった。
魔王と戦うなど現実的でないが、もう少し強くなる必要があると感じていた。強い武器や防具、魔法も欲しい。そんな話をしていたら、ガンディーノという軍事国家が遠くないという情報を得た。
ガンディーノ?なんだか聞き覚えがある。1度か2度か。
思い出せないが、あまり良い印象でもない。しかし強くなるための何かはありそうな感がある。
西へと進む。ガンディーノへと向かう馬車の姿は少なくなかった。
「乗せてやろうか?」という声も幾つか貰ったが、ソロは自分の足で歩くことにした。魔物と戦って経験を積みたいからだ。強くなり、お金を貯めたい。
4日のさすらいを経て、ガンディーノの城が近付いた頃。
ソロはそろそろヘトヘトになりながら、それでも気張って魔物と戦っていた。
しかしガンディーノ周辺に出没するがいこつけんしに、ソロは苦戦し、ピンチに陥った。
なんと六刀流の魔物である!手が6本もあり、それぞれに剣を構えて襲い掛かってくる!

ソ「やばい!
奥の手だ!《ベギラマ》!!」
ソロはやむなく必殺の《ベギラマ》を繰り出した!
しかし骸骨の魔物に《ベギラマ》は効かない!怯むことなくこちらに飛び掛かってくる!
ソ「うわぁ!」
すると!
ズシャァ――――!!
「ぐわぁぁー!」がいこつけんしは一撃で葬り去られた!
ソロの前には大男の背中が見える。
男「無理をしないことだ。若者よ」
野良作業のオノを持った大柄の男が、ソロの命を助けた!
ソ「き、木こり!?」
男「さらばだ」
しかし男は、《薬草》を2つ3つソロに放り投げると、すぐに去っていってしまった。
ソ「あぁ!」
愛想というものを知らないのか。



