episode81 『王と悟り』
episode81
そろそろ宿の確保だ。オリンピアはものの少ない暮らしをしており、物価は全体的に安いようだったが、宿は安くないのだった。相部屋でも20ゴールド(約2,000円)する。これもスポーツが関連しており、スポーツ目的で他所の国から来る人が少なくないらしい。そんな人からはカネを取ればいいじゃないか、という考えで宿代は高くなる。
宿は5階建てで、屋上に上ると景色がよく見えた。
一角に川が見える。川と城壁が交差したところは、城壁が大きく崩れていた。大雨による川の氾濫か、津波か、なんらかの影響で城壁は非常に大きく壊れている。部外者の侵入を呆気なく許してしまえるように見える。危険だ。しかしスポーツ優先で、災害復興すら誰もしないようだ。
ソロは宿選びにおいて、よく古い建物を選ぶ。それは値段が安い傾向にあるから、というだけではない。古い建物のほうがその国らしい風情を保っていることが多い。
理由はさらにある。古い安い宿は、公共事業的な側面を持っていることが多い。商売優先ではなく、何か自国や他国のために良心的に場所を提供している。たとえばマーディラスの安宿は巡礼者を安い料金で応援するためにある。オリンピアの5階建ての宿も、若者のスポーツ合宿を応援するような目的で建てられたらしい。オリンピアは元から、スポーツの盛んな国であった。
1階はやはり食堂スペースを兼ねており、暇つぶしのための本棚もある。その本棚はスポーツ学生を意識したものも多い。
ソロはやはり本棚を漁る。
『文武両道』
スポーツをやるなら勉強もせよ。スポーツに長けても頭が悪いなら、その腕力は愚かなことに用いられるだろう。
スポーツをやるならバイトもせよ。金メダルのスポーツ選手よりも店長のほうが尊敬できると気付くだろう。
『裸一貫で勝負!』
スポーツとは、道具の性能を競い合う競技ではない。
『古の勇者ローシュの旅日記~オリンピア編~』
これからはお使い係になろうかな。
お使いを辿るのは面白い。予想外の展開になるんだから。
翌日。
2人は次に、神殿の1つに行ってみることにした。巫女たちが結界を張って国を守っているという、その神殿だ。
大きな石柱が立ち並ぶ、立派な神殿だ。これが4つもあるとすれば、素晴らしい公共事業である。この民はそれを昔は行っていたのだろう。
神殿の表には立派な石碑がある。石碑の類は普通、神殿の中ではなかろうか?外を歩く人にまで見せてやりたかったのか、はたまた中に置いても誰も見に来ないから外にしつらえたのか。
石碑にはやはり、文章が刻まれている。
エデンの園はどこにある?東でも西でもなく、「昔」にあった。
探せば探すほど、見つからない。なぜなら「探す」という言葉のない時代にあったのだから。
エデンの園で、人は幸せに暮らしていた。愛とフルーツに溢れていた。
しかしあるとき、ある女は人よりも多くの愛を欲しがった。誰かを傷つけてでも、誰かを騙してでも自分が一番多くの愛を食べたい。
その時だ。楽園が崩壊したのは。
爆弾がなくても、楽園は崩壊するのだ。

グ「金も服も、何も同じだな」
ソ「どこの国の石碑にも、同じようなことが書かれてる気がするよ。
人が真理みたいなものを欲しいと思ったとき、別に遠くの国まで行く必要もないんじゃないかな」
グ「しかし目の前にあるものの価値に気付かないのだ」
ソ「うん」
正面玄関らしき場所には、司教服を着た男が内を見て立っている。
グ「神官の長であろうか?」小柄で童顔だが、どことなく威厳もある。
ハ「はい、私は神官長のハーゴンと申します。
旅の方、何かお困りごとですか?私は持ち場から離れられませんゆえ、教会のほうに行っていただきたいのですが」

年齢:50歳 誕生日:4月7日 身長:167cm
グ「いいえ、神殿を見に来たものでして」
ハ「そうですか。いかがなさいました?」
ソ「男たちの代わりに女性たちが、結界を張って国を守っていると聞きました」
ハ「はい。これがその現場です。どうか気を散らすことのなきよう」
ソ「気を付けます」
グ「他の国のやり方に口を出すべきではないが・・・あまり良いことではないように思えるのですが」
ハ「はぁ・・・。私もそう思っています。そう気を病んで数年が経ちます」
神官の視線の先には、多数の女性たちが居る。皆で輪になって、手を高く掲げている。
グ「魔法を放っているな」グレイグは目を細めながら言った。
ソ「何か見えるの?」
グ「あぁ微かに。彼女たちの手からは魔力が放出されている」
巫女だ娘だと聞いていたから意表を突かれたが、巫女たちは多くが180センチくらいはあった。ソロの国の女性たちは160センチくらいだ。だからとても大きく見える。この国は男性だけでなく女性も背が高いらしい。
視線を神官に戻す。
ソ「お話を聞かせてもらえませんか?」
ハ「そうですね。吐露をしたい気持ちもあります。
この国はスポーツに熱中しすぎてしまいました。そして男たちが働かないので、巫女たちが代わりに国を、日々を、命を守っています。
これは良いことではないと思います」
グ「ではなぜ?」
ハ「王の命令ですから。
オリンピアは王もスポーツに夢中です。男たちにスポーツをさせるために、女が結界を張ればいいと、王はそう命令します。
昔は・・・この国は神官に存在感がありました。神官や巫女が神の言葉を聞き、王はそれを参考に政治を行っていました」
グ「立派な4つの神殿から、その時代が伺えますな」
ハ「この国が自衛を辞め、スポーツに熱中する頃から、王は神事や啓示を辞めました。その代わりの仕事として、結界を張っていればいいだろう、という主張です」
グ「王が、腐敗しているな・・・」
あなたは王に逆らえばいいのに、と他人には言えないグレイグだった。それはそれで辛いものを背負うことになると、痛いほどわかっているから。
ハ「人は、必ずカルマの制裁を受けるのです」
ハーゴンは遠くを見つめて言った。


