episode9 『王と悟り』
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episode9
翌朝。
ソロは朝食の頃には宿を出た。
少し遠回りになるが昨日の薄暗い食堂に寄り、そして今日もまた竹筒のおこわと、そして緑の葉で包まれた総菜を買った。
町の西側にも入口があり、たしかに北西方向に道が伸びている。
町から少し離れると、魔物が出現しはじめた。
昨日遭遇したいっかくうさぎやドラキーだ。これらを倒しながら歩を進めるのも無理ではないと思えたが、面倒くさいなと感じた。別に戦うことが好きなわけではなく、戦うために家を出てきたわけでもないのだ。
しばらく歩くと分かれ道があり、立札が立っている。
「この先、船着き場」と書いてあるので、しるべの方向へと進んでみることにする。
やがて川に行きついた。大きな川だ。向こう岸まで50メートルはある。
そういえば船が出航する時間を考えてなかった!と焦ったが、幸運にも1台の船が着岸していた。胴の長い長いユニークな船だ。
三角の笠をかぶった小柄な船頭が桟橋にいる。この国は小柄な人が多いように見えるな。
ソ「ロンガデセオまで行けますか?」
船「あぁ。近くまでは行くよ。
一晩かかるぜ」
ソ「船の中で寝るの?」
船「あぁ」
カレンを出発した豪華客船の3等ベッドは粗末なものだったが、さらに粗末だ!もはやベッドすらない。しかし、これこそが楽しそうだ!とソロは思う。
ソ「いいですよ。幾らですか?」
船「30ゴールドだよ」
ソ「安いもんですね!」馬車が1時間の距離に10ゴールドを要したことを考えると、
一晩走って30ゴールドは安いと思える。少なくともボッタクられている気配はない。
ソ「・・・えぇと、いつ出発するのですか?」
ソロという客が舟に乗り込んだが、船頭はノンキにキセルを吹かしている。
船「それがなぁ、重鎮が到着するまでは出るわけにいかなくてさ。
近くの村の神父が北の町まで行く予定だって連絡が入ってるんだが、まだ来てないんだ。
あの神父さんは殺生を嫌うもんで、時々いっかくうさぎに追い回されてトラブってるんだが、今日もそうなのかもしれんよ」
ソ「えぇ!」
船「大人だからどうにかしてくるとは思うんだが・・・」
ソ「僕、ちょっと様子を見てきましょうか?」
船「本当かい!そりゃ助かるな!」
このまま1日も待ちぼうけするのはたまったもんじゃない。
船「川沿いに南に行ったところだよ。うっすらと道がある」
ソ「わかりました!」
ソロは人助けに赴いてみることにした。自分にそんなことが出来るのか?郵便配達の残業を請け負うならまだしも、魔物退治だ。しかしいっかくうさぎなら、このトルネコから譲り受けた《銅の剣》で倒せるはずだ。自分のチカラを試してみたい。
川沿いをしばらく南下していくと・・・
「来るな!こっちに来るな!」
誰かの悲壮な叫び声が聞こえる。
見つけた!神父が魔物に襲われている!
しかし!
いっかくうさぎじゃないぞ!?
人間の子供のように見えるが・・・!?
神父を襲っているのは、つちわらしと呼ばれる魔物だった。よく見れば手足の長さは奇妙で、とても長い舌を出している!

ソ「神父さん!助けが来ました!」
神「おぉ、なんという神の思し召し!」
ソ「てやぁーーー!!」《銅の剣》で斬りかかればどうにかなると踏んで、ソロは勇ましく振りかぶっていった!ブンっ!!
しかし!
「ケケケっ!」つちわらしはひらりと身をかわした!
ソ「なにっ!?」6歳児程度の背丈しかない魔物は、しかし予想外に軽い身のこなしを見せた!
ブンっ!
ひらり!
また器用に身をかわす!ソロは思った。自分が敵の立場だったら、こんなに威勢よく剣を振り回されたら器用に避けることなど出来そうにない。強いのでは!?
「ケケケっ!」つちわらしは不敵に微笑んでいる。
じりじり。ソロは尻込みと冷静さから、無暗に飛び掛からず間合いを持った。しかし斬りかかる以外に選択肢もない。
ソ「てやぁー!」再び駆け込み斬りかかる!
が!
「ケケケっ!」つちわらしはふらりとしゃがみこんだかと思うと、地面の土を掴んでソロに投げつけてきた!
ソ「うわっ!目くらましか!」
ソロの目に砂が入ってしまった!まともに目を開けられない!
ソ「まずい!」
「ケケケっ!」つちわらしはひょろひょろとソロの横手に回り込む。
すると神父が助けに入った。
神「《マヌーハ》!!
青年よ!目は見えるようになったはずです!」
ソ「本当だ!見えるぞ!」ソロは威勢を取り戻し、再びつちわらしの懐に飛び込んだ!
ひらり!つちわらしは素早く身をかわした!そして、長い舌をべろっと伸ばし、なんとソロの《銅の剣》を絡めとってしまった!
ソ「しまった!」ソロは武器を失う!さらにはそのはずみで尻もちをついて倒れ込む!
つちわらしはヨロヨロとソロに近寄って来る!
「シャーシャー!」両手を上から振りおろす動作で威嚇する!「ひっかくぞ!」と言いたいようだ。
ソ「ひぃぃぃ!」
剣を失い尻もちを付き、万事休すだ!どうする!?
ソ「はっ!!」しかしソロは諦めない。
ソ「こうだ!」
ソロは倒れ込んだ体勢のまま、武器ではなく己の脚で、つちわらしのすねに回し蹴りを食らわした!トルネコがやっていた蹴りを思い出したのだ。
「ギャー!」
つちわらしはすっころんでダメージを受けている!
神「神よ!感謝します!!」
ソロは立ち上がり、素早く剣を拾い上げると、敵が体勢を持ち直す前に豪快に斬りつけた!
ザシュっ!
パキーン!
つちわらしをやっつけた!
ソ「ふぅーーーー!!!」
ソロは大きく大きく息を吐きだした。昨日トルネコの前でいっかくうさぎをやっつけた際とは比にならないほど、深い息を吐いた。
神「ありがとうございます!」神父は駆け寄ってきて、ソロに深々と礼をいった。
ソ「よかった」
紳「勇ましい青年ですね!
神が私に遣わしたのでしょうか。こんな辺境の地の危機を嗅ぎつけるとは、もしやあなたは勇者様ですか!?」
ソ「えぇ?嗅ぎつけたんじゃないんです。船頭さんが言っていたんですよ」
神「そうでしたか」
ソ「神父さんが来ないと船が出せないんですって。さぁ船着き場に急ぎましょう」
ソロは思いがけず、世界の隅の小さな事件を解決してみせるのだった。
2人で船着き場へと向かう。
ソ「あんな魔物がいるんですね!最初、小さな子供かと思っちゃいましたよ」
神「つちわらしです。『わらし』というのは子供という意味で、古くからここらの民はあの魔物を子供と見間違え、厄介なトラブルをこうむってきました。
子供と見間違えるだけでなく、ときに怪しい術を使って幻を見せるようなこともあるのだとか」
ソ「へぇー、厄介な魔物ですね」
神「あなたは?旅の人ですか?」
ソ「僕は、ロンガデセオへ行こうと思っているんです」
神「ロンガデセオ!そ、そうですか。いえ、盗賊だろうが何だろうが、私の命を救ってくれたのですから恩人ですよ」
ソ「え?盗賊じゃないですよ」
神「いえいえ、よいのですよ。人には様々あるものです」
助けた神父を連れていくと、船はようやく出発した。その頃には10人ばかりも知らない乗客が集まっていた。ソロは出発を待たずして、朝買ってきたお弁当をもう食べてしまった。困ったな、昼食や夕食はどうしたもんか。
雄大な川を優雅に進む。川はどこまでも茶色い色をしていた。とても汚いのかと思いきやそうでもないらしく、川にはこの船を小型にしたような小さく細長い釣り舟が浮かび、三角帽の男が舟の上から釣りをしている。川岸には家が立ち並び、その家は川の上までせせり出ている。
カレンでは見ない風景を、ソロはずーっと風を浴びながら眺めていた。ソロは気持ちよく旅情に耽っていたのだが、知らない乗客はお節介な勘違いをするのだった。
乗り慣れた者たちは、弁当を持参して船に乗り込む。そして太陽が真上を過ぎた頃には昼食を食べている。何も食べずに外を向いているソロは、弁当の匂いにお腹をますます空かせるのが嫌でそっぽを向いているのかと、誰かは思った。
トントン。そしてソロの肩を叩く。
男「お食べよ」穏やかな顔をした中年の男は、ソロに肉まんのような白い塊を差し出してくれた。
ソ「あぁ、ありがとうございます!」
男「食べるものがないんだろう?」
ソ「そ、そうなんですよ。朝買ったものはもう食べちゃって」
男「ははは。こいつも食べなさい」今度はバナナを手渡した。
360度の大パノラマで見知らぬ風景を眺めながら、人に差し伸べられた肉まんを食べる。こんなに美味しいメシはない。カレンで食べたどんなに高級な飯よりも、美味いのだった。単なる肉まんが。
ソ「船旅って楽しいですね!」ソロは男にニコニコと言った。
男「そうかそうか。良かったな!」
少「はい」男の娘はミカンの皮を一生懸命にむいて、不格好なその1つを恥ずかしそうに
ソロの手のひらに載せるのだった。
2~3時間おきに、船は着岸した。何人かが降りて、また何人かが乗ってくる。先の神父も
最初の駅で降りていった。
神「あぁ先ほどの青年!私としたことが大切なことを忘れていました。
あなたにせめてものお礼です」
彼は降り際に、ソロに何かの葉っぱを2、3手渡していった。
ソ「何ですか?これは」
神「《薬草》ですよ。傷ついたらこれを使うのです。
これは《まんげつ草》。敵の攻撃で体が痺れたら使うのです」
そして、乗客ではない者まで乗ってくるのだった!
女「ちまき~ちまき~ちまき~!」
女「おこわ1ゴールド!1ゴールドおこわ!」
大きなカゴを持った女性たちが、どかどかと船に乗り込んでくる。
そうか。こんなふうにして着の身着のままでも飢え死にしないように、人の世は工夫がなされているのか。
ソロは1つだけちまきを買ってみた。マイエラの食堂のものとは少し違う味がした。
もう1つ何か買おうとしたが、船頭がそれを制止した。
船「1時間待てるか?次の町では1時間くらい停泊するよ。町の中の食堂でちゃんと食べてくる時間があるよ。トイレも行ける」
そうか。船旅というものの勝手もわかってきたぞ。
やがて日が暮れ始める。
左のほうに夕陽が落ちていく。その様をソロはずっと眺めていた。
夕陽の残り火を貰い受けるように、船頭は船のランプに火を灯した。空が闇に包まれても船はめげずに航行を続けるようだ。
この船頭は寝ずに船の番をするのかと思ったら、そうではなかった。次の駅では新しい船頭が乗ってきて、バトンタッチするのだった。朝番と夜番がいるのだ。船は川の流れを推進力に進むので、「漕ぐ」必要もないようだが、それでも微妙に舵を切り、色々見張っている必要はある。
乗客たちは星のきらめきに段々眠くなり、各々に御座の上で眠りに落ちていった。



