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エピソード1 『ハルトの初恋』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年4月3日
  • 読了時間: 3分

エピソード1

「山梨県って、山が無いの?」

って、ホントに聞いてくるヤツが居る。世も末だ。

オレっちが、「世も末だ…」って天を仰ぐと、

「よもすえって、どういう意味?」

って、聞かれる。毎回、聞かれる。世も末だ。人類は、滅びたほうがイイ。

山梨県民だけ、滅びたほうがイイのかもしんない。

他の県の連中のことは、オレっちは知らない。


とにかく、ゆとり教育っていうヤツの弊害は、甚だしいと思う。

オレっちが、「ゆとり教育の弊害は、甚だしいなぁ」って天を仰ぐと、

「そんなに画期的なことだったの?」って目を輝かせるヤツが居る。

「甚だしい」を「華々しい」とカンチガイしてるんだ。世も末だ。



「オマエごときが、ゆとり教育の何を知ってるんだ?」

って、食ってかかってくる連中も多い。

でも、オレっちには、12歳も離れたアニキが居る。

家の中で一緒に暮らしてれば、アニキが宿題したりしてるのを見てたし、

アニキの教科書をチラ見したりすることも、よくある。

だから、

円周率が「約3」じゃなかった時代があるのを、オレっちは知ってる。



3.14で計算することが、どれだけ大変で、でも重要だったか、オレっちは、知ってる。

つまり、

オレっちは、山梨県に住んでる。

「山梨県ってドコ?」なんて聞いてくるヤツには、ゴムゴムパンチを食らわす。

「オマエ、富士山の所在地も知らないのかよ?」世も末だ。


ゆとり教育の弊害って、ホントに甚だしい。そして、苛立たしい。

ゆとり教育の弊害で、大好きな駄菓子屋が、潰れちゃった。

オレっちの町には、

戦後くらいから続いてた、ボロっちい駄菓子屋があった。

子供は駄菓子が好きだから、みんなあそこに集まった。

店主は、80過ぎのばあちゃんだった。

耳が片っぽ聞こえなかった。

でも、いっつもニコニコしてた。たぶん、若い頃は美人だったと思うよ。


ばあちゃん、

耳が遠いし、ボケてるし、お釣りの計算間違えるしで、無防備極まりなかった。

それに気付いた野郎どもが、店で万引きを繰り返すようになった。


駄菓子屋で万引きしたって、得するのは、せいぜい100円かそこらだぜ?

でも、万引きされるほうは、一日20人もガキが集まれば、2,000円の損だ。


そんで、

1ヶ月もしない間に、駄菓子屋の商品は、カラッポになっちゃった。


店は、立ち回らなくなって、潰れちゃった…

ばあちゃんは、「監督不行き届きだ」って、家族とかに叱られまくったらしい。

ばあちゃん、何にも悪くないぜ?

なのに、怒られまくって、破産して、倒産したんだよ。

かわいそすぎる。


そんで、ガキたちは、

大好きな溜まり場を、失った。

駄菓子屋なんて、他に無いのに。

郊外のショッピングモールに行けば、味気ない、うさん臭い駄菓子屋があるけど、

あんなの、駄菓子屋じゃねぇ。

それに、放課後にダチと遊びに行ったりは、出来ねぇ。



「ゆとり教育」のせいで、ガキたちは、考えるチカラを失くしたんだよ。

「何をやったら、どうなる」っていう仕組みが、理解出来ない。

「万引きしまくったら、店が潰れる」ってことが、予測出来ない。

将棋やったって、「金」で「歩」を取りにいって、「角」に取られてる。

そういうのが、解らないんだ。世も末だ。


『ハルトの初恋』

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