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エピソード1 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月8日
  • 読了時間: 3分

プロローグ


子供の頃は、この風景が当たり前のものだと思っていた。

この、異星みたいな、キノコ岩ばかりの風景が。

世界の裏側から、はるばるここまで観光しに来る人がいるなんて、

まったく理解できなかった。信じられなかった。


子供の頃は、

なんでも当たり前だと思いこむものだ。目の前にあるものを。

「父親とは口を開くたんびにガミガミ怒鳴る生き物なんだ」と思いこむし、

「母親とは出産を終えても妊婦みたいにぶくぶく太ってるもんだ」と思っていた。

3歳にもなれば、他の家の事情を知るようになるけど、

かといって、どこの家も同じようなものだった。

見渡すかぎりどこまでも、キノコ岩が広がっているし、

父親たちは誰もがガミガミうるさいし、

母親たちは誰もが、運動不足で肥満ぎみだった。

だから、

先祖代々、父親はガミガミうるさいし、

先祖代々、母親はちょっと太りすぎだった。

延々と、くりかえしていく。


だから、子供に何を見せるかが、大事なのだ。

子供は、見せたものをそのまま真似ていく。それを理解しなくちゃいけない。

子供ってのは、すごく素直なのだ。

え?子供は素直なんかじゃないって?

それは、周りの大人がひねくれているからだ。

だから、その子は、「素直に、ひねくれた」のだ。

やっぱり素直だ。見たまんまに育っていく。


だから僕は、子供に良いものを見せられる大人に、なってやろうと思った。



エピソード1


田舎ってのはどうしてこうも、古臭いんだろう?

昔話と同じように、父親が乱暴者で、

昔話と同じように、母親が太っている。

だからウンザリしてしまうけど、この町はいくぶん、ラッキーなほうだろう。

キノコ岩だからね。

ヘンな地形なんだよ。柱みたいな岩が、そこかしこにそびえ立っている。

百本も千本も万本もあって、大きいのは100mも超える。

岩は岩だが、思いのほか柔らかい。

だから、この町の子供たちは代々、

そこらのキノコ岩をくりぬいて、かまくらみたいのをこしらえる。

最低でもかまくらだ。根気のあるやつは、秘密基地くらいは造り上げる。

もっと根気のあるやつは、家一軒くらいは造りあげる。

本当に実際、そのキノコ岩ハウスに住んでしまうやつもいる。


家に帰って来ず、宿題もやらずに、穴ばかり掘っているのだから、

それは当然、親たちは怒りだす。

でも、子供が悪いのか?

そうじゃない。

言っただろう?子供っていうのは、親を真似るだけさ。

その実、その怒ってる親にしたって、

子供の頃には、かまくらだか秘密基地だかを掘って、遊んでいたんだ。


普通、町の中心には公園ってものがあるが、この村は違う。

子供たちが方々、その集落で最も大きなキノコ岩に目をつけて、

それを巨大な遊び場へと掘り上げていく。

僕らはそれを「城」と呼んだが、文字通り、僕らにとっての城だった。

一人じゃないし一世代じゃないから、そうとう巨大だよ。

となりの兄ちゃんから掘り方を教わり、

またとなりの幼な子に掘り方を教えていく。

そんなふうに、世代を超えて助け合い、世帯を超えて協力し合ってきた。

学校なんか行かなくたって、社会性なら身につくね。



『沈黙のレジスタンス』

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