エピソード11 『「おとぎの国」の歩き方』
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- 2023年3月5日
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エピソード11
「お願いします!」
僕は、若社長ではなく爺さんの家に泊まることにした。
若社長の家のほうが、100倍は立派で快適なハズだ。
爺さんの家なんて、トイレすらナイかもしれない。
それでも僕は、爺さんの家を選んだ。
「お前、本気か?」若社長は尋ねる。
「うん。そうします。お金は返さなくていいよ。
国境越えさせてもらっただけでも感謝してるから。」
「好きにしろ。」
僕は爺さんのあとについて、爺さんの家に入っていった。
やっぱり小さな、しなびた家だった。
玄関先には、駄菓子屋で売ってるような簡素なオモチャが、大量に転がってた。
爺さん家はたぶん、こういうのを作って生計を立ててるんだよ。
爺さんの家には、妻であるらしき婆さんもいたけど、
婆さんはとても無口な人だった。声を失っているのかもしれない。
婆さんは、僕に茶菓子だけ出すと、奥の部屋に消えてしまった。
「おぬしは、ジャパニーズか?」
薄いお茶をすすりながら、爺さんは話しはじめた。
「はい、ナオヤといいます。泊めてくれてありがとう。」
爺さんは、恩義など気にもしない様子で、
手持ちぶたさにオモチャ作りをはじめた。
「おぬし、ブータンの国旗を知ってるか?」
「はい。龍のやつでしょ?」
「いかにも。
この国は、龍の国じゃ。昔から。今もなお。」
「龍の国…?」
「いかにも。」
「それって、どういう意味なんですか?」
「………。
ワシは、あまり多くを語らんほうが良いじゃろうな。
ときに、尋ねるが、
おぬし、ブータンに何を求める?
おぬしもまた、『幸せ』を求めてこの国に憧れる者か?」
「幸せ?そいうのはあんまり考えないな。
目的とかってあんまりナイんだけど、
しいて言うなら、『冒険』とか『刺激』かな。」
「ふむ。宜しい。
して、次のアテはあるのか?無いじゃろ。
アジナを目指すがよろしい。」
爺さんは、壁のボロボロの地図を指して言った。
「アジナ?
首都ティンプーからだいぶ離れてるけど!?」
「龍は都には向かわない。」
「え?」
「古い格言の一つじゃ。
とにかく、大都市に行っても大したものは見つかるまい。」
「まぁ、言わんとしてることは何となくわかるけど…。」
「そうじゃろうそうじゃろう。
おぬしは、話が早い。」
爺さんは、目を細めて笑った。
「人の見分け方を、知ってるか?
じゃぁまず、問う。
若者と老人、どちらが信頼に値する?」
「うーん。老人?」
「そうかな?老人は保守的じゃ。
おぬしが異なる衣装を着ている、それだけの理由で、
おぬしに猟銃を向けてくるやもしれんぞ?
若者は、そんな狭いことはせんじゃろう。」
「じゃぁ、若者?」
「そうかな?若者は白痴じゃ。
何でも知ってるといきがって、その実、何もわかっとらん。
交番がどこにあるかすら、野菜の作り方すら、知らん。
そんな輩が、おぬしを助けることができるかな?」
「えー!じゃぁどうすればいいの?
ブータンの衣装を着て歩けばいいの?」
「なかなか冴えた答えじゃが、その必要は無い。
旅人は旅人らしくしておったほうが良い。
スパイをやってのけるほどの機知があるのでもないかぎり、な。
老人は、保守的で排他的な者が多いが、
まれに、よそ者に対して寛大な者がおる。ワシのようにな。
そのようなカカシを、見逃さんことじゃ。きっと、おぬしの力になってくれる。
美女に着いていってはいかん。
これがハリウッド映画なら、美女がおぬしを極楽に導くが、現実は、そうではない。
美女や若者は、おぬしを真の目的地には導かぬ。
…いや、そうとも言えない。
若者の中にも、真理に達する者がいる。
彼もまた、人を助け、哲学を語るであろう。
しかし社会は、彼の言葉には耳を傾けないであろう。若者は信頼されない。
そうして必然的に、若い仙人は迫害され、居なくなる。
おぬしもまだ若い。気をつけなされ。」
「よくわかんないけど、
とにかく、アジナに行ってみるよ。」
「防寒具だけは、しっかり揃えていくようにな。山は、寒い。
それと。
古い格言を、もう一つ、授けよう。
『自分の龍を育てなさい。人は経験を積んで強くなる。』
…まぁ、インドを抜けてきたおぬしには、あまり必要のない言葉じゃろうが。」
爺さんは、それだけ言うと、やはり奥の部屋に閉じこもってしまった。
…ちなみに、
パンかと思って買ったあの白いヤツ、チーズだったよ(笑)
『「おとぎの国」の歩き方』



