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エピソード11 『私の彼は有名人』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月27日
  • 読了時間: 2分

エピソード11

パワープレイの成果は、みるみる現れた。

次のライブでは、彼のお客が20人に増えた。倍増だ。

放送部の仲間たちも、ライブを観に来てくれた。

その後も、それぞれがバラバラに、3回に1回くらいのペースで、

一緒に観に来てくれる。


彼は、自分目当てとおぼしきお客さんに、丁寧にあいさつをして回った。

ホストのようにコビを売ったりはしない。

ただ丁寧に、あいさつをしていた。時々は、笑顔も見せる。時々は、鼻の下を伸ばす。

おかげで、私としゃべってくれる時間は、大幅に減ってしまった。

寂しい。そしてやはり、彼が誰かと笑顔でしゃべるたびに、私の胸はズキズキ痛む。

いいんだ。これでいいんだよ。

私なんか、どうなったってよいのです。



私はまた、路上ライブに顔を出す。

新しいフライヤーを作り、それを刷ってもっていく。

そしてまた、彼と同じ方向を向いて、ビラ配りに精を出す。

寂しい。彼の顔が見えない。

いいんだ。これでいいんだよ。

私なんか、どうなったって良いのです。



本当に、そういう覚悟でやっていた。

とにかく、彼のために頑張りたかった。


しかし、キセキは起きた!


「トモちゃん、今日も『打ち上げ』、いく?

 サイゼリヤくらいだったら、僕のオゴリで良いからさ。」

信じられなかった。

前回は、あくまで、私の強引な誘いに乗っかってくれただけだ。

しかし今回は、彼のほうから、デートに(じゃなくて打ち上げに)誘ってくれたのだ。

しかも、「僕がオゴる」とまで言ってくれている!


私は、喜んでついていった。

今日もまた、彼の瞳を独占しながら、会食ができた。なんという恍惚だろう。

しかし、オゴッてもらうことはしなかった。

彼は、「トモちゃんのお陰でお客さんが2倍に増えたしCDも売れたから、還元したい」

と言ってくれたのだけど、私は、その気持ちだけでもう、充分だった。

お金には困っていないし、

たぶん、いや絶対、私のほうが得ているモノが多いのだ。

オゴるのは、むしろ私のほうなのかもしれない。



「損して得取れ」ということわざがあるが、まさにその通りだと思う。

私が頑張って、ライブの観客動員を増やせば増やすほど、

私に分配されるおしゃべりの時間は、どんどん少なくなってしまう。損だ。

しかしその譲歩は、回り回ってこうやって、2人きりの会食を生んでくれた。

彼はファンのコとは食事はしない。カラオケも行かない。

すると、彼とこうして会食できるのは、私だけなのだ。やっぱり、得だ。


「北風と太陽」の童話も、思い出す。

「愛して!」「私を見て!」と怒鳴り訴えても、

彼の時間は割いてもらえない。むしろ、嫌われるだけだろう。

逆に、私が彼に尽くし、私の時間を割いてあげることで、

結果的に彼は、私と共有してくれる時間が、増える。


『私の彼は有名人』


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