エピソード115 『天空の城』
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- 2024年7月22日
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エピソード115
れいは1週間の滞在中、頻繁にこの屋台で食事をした。この親子に愛着を持ったのだった。
「明日はもう旅立つつもりだ」なんて話すと、お互いになんだか寂しい気持ちになるのだった。
女「旅をしているって言ったね?
海はもう見たのかい?」
れ「海?大きな大きな湖のことですか」
女「そうさ。内陸から来たなら海を知らないだろう。
もっと北へ行ってごらん。大きな海があるし、海沿いにも幾つか町があるさ」
れ「ありがとうございます!」
こうして次の目的地も定まった。
1週間の後、れいは温泉街のラオを出た。
一度くらいは隣町の豪華な温泉宿も泊まってみようかと思っていたのだが、れいはあの屋台の少女の健気な笑顔の方が気に入ってしまった。100ゴールドで食べるご馳走よりも、1ゴールドで食べる屋台のラーメンが良かった(発展途上国には本当に100円で食べられるラーメンやチャーハンがある)。そして海の噂を聞いたら、隣の温泉町はもうどうでもよくなってしまった。
北へ北へと進む。正確に言えば少し東へ。北の海辺の町へは、ラオよりも大きな東の観光の町から道が伸びているのだ。なんとなく北東向きに歩いていたら、途中でその馬車道に合流できた。
素朴なものを繋いで歩く旅人にとって、「道を見つける」「幹線に戻る」ということは非常に重要だ。そうでないと野垂れ死んでしまう。
賑やかなほうの温泉街と海辺の町との間は、まばらに荷馬車を見かけた。海で獲れたものを温泉街に届ける、そんな商人が多いのだろう。
やがて向かい風が強くなり、そして空気の匂いが変わった。
潮風の匂いなどというのも、れいには初めてのものだった。
「わぁ、何があるんだろう!」潮風が何を意味するか、れいにはまだわからない。
そろそろなはずだけど、海はまだかな。そんなヤキモキを1日間も焦らした後、大地は急に、れいの目の前に海を開けた。
そうか。山と違って海は、こんなにも急に目の前に現れるのか。
どこまでも広く、どこまでも遠く青い海が広がっている。いいや、海よりも空のほうがずっと広いのだが、れいは視界の先にも、水平線の先にもこの青い色が広がり続けていることを、想像で補うことが出来るのだった。
道なりに進むと、海岸ではなく町へと辿り着いた。