エピソード12 『「おとぎの国」の歩き方』
翌日僕は、朝早くに爺さんの家を発った。
まず、にぎわう国境に戻って、両替をし、防寒具を調達した。
目的地はアジナに決まったものの、どうやって行こう?
バスで行くのが定石だろうけど、バスターミナルらしきものはナイ。
少なくとも、この国境の賑わいの中には、ナイ。
僕は、車に乗ってる人や車のそばにいる人に近寄っては、
「アジナ?アジナ?」と、声をかけまくった。
バスである必要はナイんだ。タクシーだろうが物流トラックだろうが、
とにかく、アジナに向かってさえくれれば、何でもいいからね。
すると、案の定、
僕の「アジナ?」に「アジナ!」と返してくれるオッサンを発見!
「アジナ行くの?」と日本語で訊くと、
「アジナ!アジナ!」と大きく頷いている。よくわかんないけど、アジナに行くんだろう。
それは、8人乗りくらいのミニバンだった。
僕は促されるままにその車の助手席に乗ったけど、すぐに出発したりはしなかった。
やはり、簡易バスであるらしかった。他の乗客で埋まるまで、待つんだ。
20分もすると、バンは買い物袋を抱えた人でいっぱいになった。
お客たちの荷物を車の屋根にも積みこむと、
車はようやく、出発した。
車は、山道をくねくねと登っていった。
インド国境からチベットまで、標高がどんどん上がっていくんだ。
アジナがどの辺りなのかよくわかんないけど、
あまり高所じゃないといいなと、ドキドキしながら願っていた。
防寒具は買ったけど、やっぱり寒冷地はキツいからね。
およそ山しか見えない雄大な景色の中を、車は走っていく。
僕はやがて、心地よい揺れにいざなわれ、居眠りをはじめた。
2時間くらい経ったらしかった。
「アジナ!アジナ!」と、真横で運転手のおっちゃんが叫んでいた。
「あ、着いたの!?」とあわてて飛び起き、
いくらかのお金を払って、僕は車から降りた。
「あり!?」
よくよく周りを見渡してみると、まだ山道の途中じゃないか!
車はすでに、残りの乗客を乗せたまま、走り去ったあと…
なのにここは、
アジナじゃなさそうなばかりか、村さえナイ。停留所もナイ。
ここが三叉路であるところをみると、
おそらくここは、国境から見て、「アジナ方面」ではあるんだろう。
そして、あのバスの行き先が、ここからはアジナから反れるんだろう。
だから僕を、ここで降ろしたんだ。途中までしか行かないのに客を乗せるというのは、
東南アジアではよくあるよ。
うーむ。それにしたって、辺鄙なところに取り残されちゃって…
『「おとぎの国」の歩き方』


