エピソード13 『「おとぎの国」の歩き方』
- 2023年3月5日
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僕はとりあえず、
バンが行ったのとは違う道を、歩いてみることにした。
近くに村があるかもしれない。
あんまりにも何もナイところで、人間を降ろすことはしないだろうさ。
歩くこと10分。思ったとおりだった。
つづれ折りを大きく曲がったところで、
三叉路からは見えない死角に、ストゥーパが見えた。
ストゥーパというのは、チベット仏教の宗教建築の1つで、塔のようなモンだよ。
そして、そのストゥーパを囲むようにして、小さな集落があった。
僕を一番最初に出迎えてくれたくれたのは、白い猫だった。
よそ者の姿を見ても警戒する様子はなく、小さな声でミャアと鳴いた。
「おや、来客かぇ?珍しい。」
猫の声に反応して、
畑をいじっていたお婆ちゃんが、僕のほうを向いた。
「お婆ちゃん、ネコとしゃべれんの?」
僕は、あいさつもしないで冗談まじりに尋ねた。
なんかもう、現実なのか夢なのかわかんなくなっててさ。
婆ちゃんはさらに、夢みたいなことを言う。
「そうじゃぁ?当たりまえじゃろ。」
「え!ホントにしゃべれんの!?」
「この子は番猫じゃぁ。無視するわけなかろう。」
「番猫って…番犬の猫バージョン!?
猫はガミガミ吼えないから、役に立たないんじゃないの?」
「問題あるまい。
来客を知らせるのに、ガミガミ吼える必要がどこにある?
人間様が騒がしく暮らしてんなら、番人も大声で知らせなけりゃならんが、
仏の心で静かに暮らしてんなら、鈴の声で鳴けば、合図には充分じゃろう。」
「…つまり、
婆ちゃんたちは、仏の心で静かーに暮らしてんの?」
「どうじゃろなぁ?自分で自分を仏とは言わん。」
「ふーん。」
「で、おぬし、よそモンじゃろうが?」
「あ、そうだった!道に迷ってんだよ!」
「おっほほ!のんきなモンじゃなぁ。
肝っ玉すわってんのか?パゥオじゃな。」
「パゥオ?」
「勇者のことじゃよ。勇敢な求道者じゃと、言うとるんじゃ。」
「なんかよくわかんなくなってきたけど、
アジナって、この近く?僕、アジナに行きたいんだ。」
「ぜーんぜん、遠いわ。」
「やっぱり…。」
なんだかよくわかんないけど、よそ者の僕を疎んではないみたいだな。
昨夜の爺さんみたく、快く泊めてくれるんじゃなかろうか?
「お婆ちゃん、一晩でいいから、泊めてもらえませんか?」
「ならん。」
「え!」ここでそう来る!?
「ならん。
この村の人間は、よそ者を泊めたらあかんしきたりになっとる。
ダライラマ様が、お泊めしよるに。」
『「おとぎの国」の歩き方』



