エピソード13 『「おとぎの国」の歩き方』
僕はとりあえず、
バンが行ったのとは違う道を、歩いてみることにした。
近くに村があるかもしれない。
あんまりにも何もナイところで、人間を降ろすことはしないだろうさ。
歩くこと10分。思ったとおりだった。
つづれ折りを大きく曲がったところで、
三叉路からは見えない死角に、ストゥーパが見えた。
ストゥーパというのは、チベット仏教の宗教建築の1つで、塔のようなモンだよ。
そして、そのストゥーパを囲むようにして、小さな集落があった。
僕を一番最初に出迎えてくれたくれたのは、白い猫だった。
よそ者の姿を見ても警戒する様子はなく、小さな声でミャアと鳴いた。
「おや、来客かぇ?珍しい。」
猫の声に反応して、
畑をいじっていたお婆ちゃんが、僕のほうを向いた。
「お婆ちゃん、ネコとしゃべれんの?」
僕は、あいさつもしないで冗談まじりに尋ねた。
なんかもう、現実なのか夢なのかわかんなくなっててさ。
婆ちゃんはさらに、夢みたいなことを言う。
「そうじゃぁ?当たりまえじゃろ。」
「え!ホントにしゃべれんの!?」
「この子は番猫じゃぁ。無視するわけなかろう。」
「番猫って…番犬の猫バージョン!?
猫はガミガミ吼えないから、役に立たないんじゃないの?」
「問題あるまい。
来客を知らせるのに、ガミガミ吼える必要がどこにある?
人間様が騒がしく暮らしてんなら、番人も大声で知らせなけりゃならんが、
仏の心で静かに暮らしてんなら、鈴の声で鳴けば、合図には充分じゃろう。」
「…つまり、
婆ちゃんたちは、仏の心で静かーに暮らしてんの?」
「どうじゃろなぁ?自分で自分を仏とは言わん。」
「ふーん。」
「で、おぬし、よそモンじゃろうが?」
「あ、そうだった!道に迷ってんだよ!」
「おっほほ!のんきなモンじゃなぁ。
肝っ玉すわってんのか?パゥオじゃな。」
「パゥオ?」
「勇者のことじゃよ。勇敢な求道者じゃと、言うとるんじゃ。」
「なんかよくわかんなくなってきたけど、
アジナって、この近く?僕、アジナに行きたいんだ。」
「ぜーんぜん、遠いわ。」
「やっぱり…。」
なんだかよくわかんないけど、よそ者の僕を疎んではないみたいだな。
昨夜の爺さんみたく、快く泊めてくれるんじゃなかろうか?
「お婆ちゃん、一晩でいいから、泊めてもらえませんか?」
「ならん。」
「え!」ここでそう来る!?
「ならん。
この村の人間は、よそ者を泊めたらあかんしきたりになっとる。
ダライラマ様が、お泊めしよるに。」
『「おとぎの国」の歩き方』


