エピソード13 『全ての子供に教育を』
- ・
- 2023年3月15日
- 読了時間: 3分
エピソード13
4時間ほど歩いたろうか。
急に、パっと視界が開ける。
山頂の台地に、小さな集落が広がっていた。見事だった。
高床式の木造家屋が、20ばかしはあるだろうか。
「ここ。ですか?」
俺は、息を切らしながら、やっとの思いで口を開く。
もう、ヘトヘトだった。
「残念!ここはまだ、ゴールじゃないんだ。
君、他にも村が見たいって言ってたでしょう?
だから、ここを通ることにしたんだよ。ノラ族の村だよ。」
俺はガックリした。まだゴールじゃないのか…
目的地まで歩きとおせるんだろうか?自信がなくなってきた。
「疲れたでしょ?少し休もうね。
もう少しだけ、歩ける?向こうに、旅行者用の東屋があるから。」
俺は無言で、とにかく脚だけ動かした。
ほんの30メートルだが、それがずいぶんキツかった。
やっとの思いで東屋に腰かけると、
小柄で太ったおばさんが、俺に紙コップを突き出してくる。
何か茶色い飲み物が入っている。
「これ、くれるの?」
俺は、ついつい日本語で尋ねる。
くたびれていて、英語は口をつかなかった。(英語が通じるのかはわからないが)
おばさんは、
「うんうん」とうなずきながら、笑っている。
何の飲み物やらわからなかったが、
俺は、ぐいっと豪快に、それを飲み干した。
…なんだ。コーヒーか。安いインスタントコーヒーだろう。
「ありがとう。」
と精一杯の笑みでコップを返すと、意外な言葉が返ってくる。
「1ダラー。」
性格の悪そうなガラガラのダミ声が、ぶっきらぼうにそう告げる。
「え?」俺は耳を疑った。
「1ダラー。カフィ、1ダラー。ヒャクエン。」
商売人だったのか…
俺は仕方なく、代金を払った。
ドルは持っていなかったので、40バーツを払った。だいたい1ドルのはずだ。
…1ドル…?
物価が日本の1/10の国で、
不味いインスタントコーヒーが1ドル。
日本で、不味いインスタントコーヒーに1,000円払わされたのと同等な計算だ。
なんというボッタクリだろう。
しかし、山歩きにくたびれ果てた先進諸国民たちは、
1ドルくらい、何のことなしに払ってしまうのだろう。
彼女らはその辺のことまで全て理解したうえで、足元をみるのだ。
10分も風に吹かれていると、少しは体力も回復した。
俺は、集落を少し散歩してみることにした。
よく見れば、俺以外にも旅行者がちらほら居る。
他のトレッキングツアーでも通るルートなんだろう。逆周りしてるのか?
だから、
集落の人々は、誰も、俺に見向きもしない。
「ハロー」とか「ヤホー」とか声を掛けられ、珍しがられるものかと思っていたのに、
そういうことは全く無い。
「よく来たね!」としわくちゃの村長が握手を求めてくるかと思っていたのに、
そういうウルルンなことも全く無い。地酒で乾杯したりもしない。
時々「ハァイ」と声を掛けられたかと思えば、
物売りである。民芸品のブレスレットやらを、売りつけようとしてくる。
俺は、ずいぶんしょぼくれてしまった。
軽く、人間不信だ。
ちょうど、向かいの軒下に犬がうずくまっていたので、
そいつと戯れて、気を紛らわそうとした。
…が、
「ガウっ!!!」
むき出しの牙で吠えられてしまった…。怒っているらしい。
あやうく、手を噛まれるところだった。
…どうやら俺は、この集落に、まったく歓迎されていない。
この村は、旅行者の来訪など、まったく喜んでいない。
一部の商売人だけが、金持ち客に愛想を振りまいているだけだ。
他の村人たちは、「無関心」という態度でそれを訴えていたが、
俺は、それを上手く汲み取ることが出来なかった。
だから犬が、とてもわかりやすい言語で、俺にトドメを刺したのだ。
この集落の様子は、
俺が抱いていた土着民族のイメージとは、かけ離れすぎていた。
ウルルンの見過ぎなんだろう。あれは演技で、これが現実だ。
『全ての子供に教育を』



