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エピソード13 『名もなき町で』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月16日
  • 読了時間: 3分

エピソード13

お寺寝体験に気が済むと、また大分の店に戻った。

そして、同じような音楽三昧の日々が続いた。

水曜日には、ビギナーの子たちが初々しい歌声を披露し、

土曜日には、プロ顔負けの猛者たちが美技を披露してくれた。

僕は、一銭も払わずに毎日毎日ライブを観覧し、

そして一銭ももらわずに毎日毎日誰かの手伝いをした。


店の常連さんたちは、おおむね、僕に友好的だった。

スピリチュアルな人は少ないのだけれど、

それでも僕みたいな変人を受け入れてくれていた。

中には、僕に人生相談するヒトもいたし、

オラクルカードのカウンセラーも居た。


でも、中にはやはり、

僕の滞在を歓迎しない人も居たんじゃないかと思う。

「なんでオレらはコーラ代払ってるのに、

 彼はお金を払わず長期滞在するんだ??」

僕はあきらかに特別扱いされてる状態なので、

それを快く思わない人がいるのは、当然だろうと思うよ。

「お金の介在しない暮らしを確立したい」という僕のビジョンは、

ようこママは理解してるけど、他のみんなはあまり知らないんだ。

ようこママもジェシーも、

「いつまでもココに居たっていいんだよ」と言ってくれていたけど、

それはきっと無理だろうと、僕は思っていた。



7月の半ばだったかな。

その時は訪れた。

「そろそろ、旅立ちのタイミングかもしれんで?」

ジェシーが例の目線で、僕にぼそっとそう告げた。

なんでも、なじみのツアーミュージシャンが、近々ここらに来るらしい。

毎年、彼には寝床とナポリタンを提供していたから、

今年もそれを踏襲するつもりのようだ。

すると、2階の寝室は空けておかなきゃならない。

1週間だけどこかに避難してまた戻ってくる手もあったのだろうけど、

僕は、このタイミングでの旅立ちを決めた。

ここでの生活は面白いし、お金も掛からないけれど、

しがみついてまでして続けるのは、それは違うと思った。


僕は、ミクシィの友人たちに、状況を報告したよ。

「次はドコに行ったらいいかなぁ?」ってさ。

すると、すぐにリアクションがあった!

「伊座利に行ってみてください!」ってさ。


「伊座利!?」

僕は、面食らったさ!

そんな地名、聞いたこともナイし(笑)


ケータイのネットで調べてみると、

それは徳島の南岸にある、小さな村の名前だった。

本当に小さな村で、地図に表示される建物といったら、

学校と役場と、「伊座利カフェ」なる喫茶店くらいなモンだった。



こんな辺境の地に行って、何があるんだろう!?

お金は残り少ないのに、まともに寝泊りできるんだろうか!?

頼れそうな知り合いなんて、もちろん一人も居やしないし…


行くべきか行かざるべきか、迷いながら、

もう少し地図をウトウト眺めてた。

そして、思いがけない文字を見つけた!


「美波町」


伊座利という集落は、美波町という地域の中にあるらしかった。

「美波町」がどうかしたかって?

どうかしたんだよ!僕にとっては!!

その当時、僕が名刺代わりによく歌っていた自作曲が、

「A beautiful wave」という名前だったんだ。

…気付いた?

そうだよ。日本語に訳すと、「美しい波」なんだ。「美波」なんだよ!

コテコテのスピリチュアリストである僕は、

「コレはシンクロニシティだ!」と確信したよ。「意味のある偶然の一致」さ。


風来は、俄然、面白くなってきた!

人生は、俄然、面白くなってきた!

「聖なる預言」さながらの何かが、僕を待っているに違いない!!


…コレ、作り話じゃないからね?


『名もなき町で』

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