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エピソード14 『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月21日
  • 読了時間: 5分

エピソード14

僕は、アベさんの過去をもっと知りたいと思いました。

「つまり、

 このゲストハウスとやらに来る前までは、

 もっといろんなこと…教師業とかも、やってたんですね?」

「そうだよ。

 22で、新卒と同時に教師になった。高校教師だ。

 最初のうちは、

 今のオマエみたいに、クソ真面目に教えてたよ。それが正義だと思ってた。

 落ちこぼれの生徒に電話で教えたり、

 親父に殴られてる生徒を夜中に助けにいったり…

 でも、そのスタンスで吐くほど頑張っても、どうにも行き詰るんだ。

 まぁ、詳しい話はしねぇよ。長くなるからな。

 だが、かなりストイックにやったぜ。

 それこそ、金八さんも真っ青だ。

 オマエ、知ってるか?金八先生。」

「ももももももちろんですとも!

 僕、金八さんみたいな最高の教師になりたいんです!」

「そうなのか!

 オマエ、金八さんみたいになりたいのか!」

「そうなんですよ!金八さんこそが僕の理想像なんです!」

「はっはっは!

 金八になんてなりたがってるうちは、

 教師になるのは止めといたほうがいい。

 それこそウツになって、自殺したくなるだろうよ。

 …いや、訂正しとこう。

 最初の3年くらいは、金八さんみたいに一騎当千したらいい。

 体力の限界を超えて生徒の面倒見て、学校の腐敗体制とも戦ったらいい。

 3年も本気でやりゃ、そこで見えてくるものがあるだろう。

 手ぇ抜いたら意味ねぇぞ?本気でやるんだ。

 まぁ、つまり、若かりしオレもそうだったんだよ。

 3年も体張って、見えたモンがあった。

 それで、ガラっと教育スタイルを変えた。

 ちなみに、オレの担当科目は世界史と倫理だ。」


「どんなふうに、スタイルを変えたんですか?」

「オレの授業は、教科書を全く開かない。

 …とりあえず、文部省の教育カリキュラムと同じ辺りの題材を、使いはするが、

 教科書の内容とは全く違う。

 地域文献にしか書かれていない裏事情とか、

 敵国の教科書に書かれている見解とか、

 そういうマニアックな話ばっかりする。

 かといって、テストにはそれを全く出さない。

 すると、テストで点を取るためには、

 生徒たちは自分で教科書開いて、自主勉するしかねぇぞ。ヒーコラだ!クックック。」

「ひえー!!

 ハード過ぎませんか!?」

「そんなことばっかり生徒にやらす学校は、マズいだろうなぁ。問題になる。

 だがな、一人くらいはそういう教師が居ても良いだろう?

 学校に一人くらいであれば、ギリギリセーフだ。と、オレは思う。」

「それで、学校や親から怒られたりしなかったんですか?」

「怒られたよ。ずいぶん注意された。

 それでもオレは、オレの理念を貫き通した。

 すると、徳島の辺境の地の過疎学校から、連絡があったんだ。

 『ウチで教えてほしい』ってね。

 『君のスタイルのままでやってほしい』ってね。

 オレは喜んだよ。 

 でも、それは小中学校だったんだ。オレは高校教師だ。

 しょうがないから、小中学校の教職資格も取った。別に勉強は苦じゃない。」

「それで、徳島まで行ったんですか?」

「行ったよ。当然だ。

 そこでオレは、冗談みたいな授業ばっかり、やっていた。

 授業をやらないこともあった。子供を教壇に立たせたりしてな。わっはっは。

 しかし今度はなぜか、オレの授業は好評を博することになった。

 過疎の学校に、生徒がどっと流れこんできた。

 どうも、『安田講堂』の感性を持ってるような親御さんには、

 オレの感性はウケるらしかった。

 そしてオレは、弱冠28歳にして、校長に任命された。

 おそらく、

 現代教育がはじまってからは、前代未聞だろうよ。20代の校長ってのは。

 『伝説の教師』って言われたよ。

 地方新聞にはデカデカと載った。

 大手新聞は、見向きもしないがな。隠蔽に近いな。

 オレみたいな教育が流行ると、国は困るんだ。

 『ロボット・サラリーマン』が減っちまうからな。

 

しかし、

 90年頃だったかな。

 ようやく、国もオレの思考に追いついてきた。

 『学級崩壊』が社会問題になった頃だよ。

 生真面目に金八教育やってると、教師が潰れちまう時代になったんだ。

 すると今度は、

 都心や名門の校長たちが、オレを引き抜きにやってくる。厚待遇でな。

 しかしオレは、全部の誘いを蹴った。 

 そもそも、教育なんて小学校で充分だと感じたからだ。」

「小学校で充分なんですか!?

 『最低でも高卒』っていうのが、世間の風潮なのに!?

 中卒ですらなく、小卒で充分なんですか!?」

「あぁ、充分だよ。

 中学校の勉強なんて、ほとんど不要だ。社会に出ても使いやしないし。

 オマエ、理科の湿度計算とか、覚えてるか?

 …まぁ教員目指してるオマエなら、覚えてるんだろうがよ、

 世の中の大人はほとんど誰一人、覚えちゃいねぇよ。それでも何も困ってない。

 つまり、中学生たちは、無駄な勉強ばっかりやらされてんだよ。

 100時間も300時間も1,000時間も、

 無理やり机に縛り付けられて、無駄なことばっかり勉強してんだ。」

「そう…かもしれない…!」


「かといって、

 その1,000時間の湿度計算だって、無意味とは言わねぇぜ?

 あれはあれで、忍耐力を培う効果がある。

 教科書の中身が無意味なものであればあるほど、子供がそれに憤りを覚えれば覚えるほど、

 その授業には、『忍耐力を培う』という効果がある。

 そしてその忍耐ってやつは、

 国語よりも数学よりも大事な科目かもしれんよ。日本の社会を生きるうえで、な。

 受験勉強ってヤツも同じだな。

 あんな詰め込み式の試験じゃ、学力なんざ付きやしない。

 学力は付きはしないが、忍耐力は付くんだよ。受験勉強の過程でな。

 実際、偏差値の低い学校のやつらは、忍耐力が無い。努力をしないからだ。

 かといって、かといってだ。

 忍耐を磨く方法は、受験勉強だけじゃないし詰め込みテストだけじゃないだろうよ?

 スパルタの野球部でも忍耐力は磨けるし、ほかにもいろいろある。

 とにかく、

 型はまりな教育現場には興味がなくなった。」


『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

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