エピソード15 『ミシェル2 -世界の果て-』
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- 2023年3月24日
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エピソード15
バス停から10分歩いて、ようやくユースホステルとやらにたどり着く。
今度は中世建築じゃなくて、30年ものぐらいの現代建築よ。
「あら、広いじゃない?」昨日のホテルより広いくらいだわ。ビックリ。
「ロビーはね。共有空間は広めに出来てんだ。ユースは。」
彼の言ったとおり、ユースホステルは100マルッカだったわ。10ドルよ。
昨日のホテルの1/4!ちょっと安心。これなら少しは長旅できるかも。
部屋も思いのほかキレイでね。シーツにシミ付いてたりしないし、シワすらついてないわ。
もっと秘密基地のロビーみたいなごちゃごちゃしたとこかと思った。
ベッドは6つあって、そのうち3つは誰かが寝てる。良かった。誰もイビキかいてないわ。
私はそっと荷物を置くと、再びロビーに降りた。私の部屋3階なの。
ロビーにはマリウシュがいたわ。私を待ち構えてるふうで。
「行こう。朝食食べようぜ。」彼は親指で外を指す。
「あれ?朝食付くって、受付のお姉さん言ってたわよ?」
「それは明日のぶんだよ。今日のは付かない。」
「あ、そうか。」
外をぶらつく。
食堂を探しながら歩くけど、どこも開いてないのよ。なにせ朝7時だもの。
カフェは開いてるけど、彼、カフェには入ろうとしないの。
「どうしてカフェ入らないの?」聞いてみたわ。
「高いからだよ。簡単な理由さ。
カフェのコーヒー1杯飲む値段で、食堂で飯が食える。
まぁ、たまにはカフェも入るがね。暑い午後とか。」
「ふうん。」
そんな彼が選んだのは、やはり簡素な食堂だったわ。
しかも、まだ店開きしてないのに!
イスは掃除の後のままテーブルの上に上げられてて、
コックさんは厨房で仕込みをしてるのよ。
それでも彼、ドアが開いてるからってつかつか入っていっちゃった。
「おじさん。どうも!」
「なんだい?店は昼からだよ。」
「知ってるけどさ、オムレツとパンくらい出ないかな?簡単なのでいいんだ。」
コックさんの答えも聞かずに、マリウシュはもう、イスを床に下ろしてる。
「まぁ出せないこともないが…。」
「ありがとう!」
やがて、注文通りオムレツとパンが出てきたわ。
「マリウシュあなたスゴいのね!」
「褒めてんの?」
「うん?わかんない。ちょっとは褒めてるわ。」
「まぁそうだな。善い行いとも言えない。
でも、地元民向けの食堂の店主は、気の良い人が多いんだ。」
観光客向けの高級店やホテルの場合、
時間外のオーダーなら2倍の金をとるけどね。」
「幾らなのかしら?オムレツ」
私はテーブルの横にあったメニューを開いてみるけど、
オムレツってどこにも書いてないの。
「おじさま。オムレツって幾らですか?」
「そうだな。幾らにしようか。」
「え?」
「だって、オムレツなんてウチのメニューにないからさ。
値段なんてワシも知らないよ。」
「メニューに無いのに、作ってくれたの?」
「そりゃまぁね。」
「言ったろ?優しいんだよ。
メニューにあるとか無いとか、営業時間の内とか外とか、関係ないんだ。
困ってる人がいるなら助ける。それが地元向けの店さ。」
「なんかイイわ、旅って。」
「そうだよ。だから続けてる。
ところでキミ…ミヒャエルだっけ?」
「ミシェルよ。」
「そう、ミシェル。
キミ、どこに向かってるんだ?この町がゴールじゃないだろ?」
「あぁ、そうなの。まだまだ前途は多難なの。
ねぇ、エジプトってまだまだ遠いわよね?」
「エジプト?遠いな、そりゃ。
ピラミッドで瞑想でもするのか?」
「そうじゃないけど。ちょっと用事あってね。」
「ちょっと待って。」
彼はリュックから地図を取り出した。
「あとまだヨーロッパの国を3つ4つ縦断して、
トルコ越えて、さらに地中海も越えなきゃならんぜ。」
「そんなに毎日、夜行バスに乗るっていうこと?」
「別に夜行バスに乗らなくちゃならんってわけじゃないだろ。
列車だって飛行機だってなんでもある。
夜行バスが一番安上がりだろうけどな。」
「そうなのよ。飛行機に乗るお金があればいいんだけど…。」
「1ヵ月後の便でいいなら5,000マルッカで乗れるよ。」
「知ってるわ、それは。それだけは知ってるの。
でも1ヵ月も待てないのよ。」
「じゃぁ夜行バス乗り継ぐんだな。もしくは夜行列車のほうが幾分快適だよ。
…あ、ちょっと待て!
エジプトって言ったか?」
「そうよ。エジプト。」
「エジプトならパックツアーがあるな、きっと。」
「パックツアー?」
「そうだよ。航空券とホテルがセットになってるから安いんだ。
行動の自由は制限されるがね。」
「どのみち1ヵ月後でしょ?」
「そうじゃないんだよ。
パックツアーの場合さ、
直近の日にちで飛行機に空席が多いと、べらぼうな安売りするんだ。
航空会社はカラで飛ばしたくないから、そういうことをやる。
それならホテル代込みで5,000マルッカで飛んで、しかも帰ってこれる。」
「ホント!?すごいわ!!
でも私、ホテルは要らないのよ。帰りの便も要らないし。」
「いいんだよそれは、破り捨てればいい。
パッケージツアーってのは、とにかくセットで買わされるってだけで、
必ずしも泊まらなくたっていいんだ。」
「そうなのね!良かった。
あ、でも最初の日や2日目くらいはパックのホテルで泊まればいいのよね。
ドミトリーじゃなくて高級な個室でしょ?」
「いや、節約したいならホテルも破り捨てたほうがいいよ。」
「どうして?損じゃない。」
「損じゃないんだ。一見損のように見えるがね。
ホテルってのは、中や周りの食い物屋が高いからね。
何かと金が掛かるんだよ。
タクシー呼ぶにもマージン取るし、バスチケット手配するにも高いマージン取る。
それ考えると、ユースホステルにでも泊まったほうが、トータルで安くつくだろう。
それにキミの場合、情報源が必要だ。
安宿のほうがキミのような旅人が多いし、情報ノートもある。」
「なるほど。賢いのね、あなた。」
「賢いっていうか、経験だよ。色々やってきた。」
「エジプトにも一緒に行ってくれたり…しないわよね?」
「そこまではやらんさ。エジプトは前に行ったからね。
チケット取るのは手伝ってやる。食べたら旅行屋に行こう。」
「あなたいい人なのね。」
「いい人だよ俺は。田舎もんだからな。」
『ミシェル2 -世界の果て-』



