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エピソード15 『人魚たちの償い』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月29日
  • 読了時間: 4分

エピソード15

4日目。

ヤシの葉を裂くことで、ヒモを得られることに気づいた。

私たちはそれで髪をしばったり、軽く編んでみたりした。

また、割れたヤシの実は、お椀の代わりとなった。

鋭利な小石を見つけると、ヤシの実を削り開くこともできるようになった。

これならジュースもこぼれない。渇きをうるおしやすくなった。

今日は服のまま池に飛び込み、服を洗濯することにした。

これだけ暑ければ、濡れたまま着ていることで暑さしのぎになるし、

夕方になる頃には、見事に乾いてしまうこともわかった。

それからは、ほとんど毎日、午前中のうちに服を濡らしてしまう。


その日の晩は、

父が一人で、人魚を探しに行った。

人魚は現れたけれど、父にこう告げるのだった。

「できれば、娘さんとお話させてください。」

私は父に代わって、岩場まで出ていった。


「生活は順調?」人魚は訪ねた。

「おかげさまで。」私は答える。

人魚は、あなたから話せと促さんばかりに、

ちゃぽっと水に浸かり、ぐるっと小さな輪を描いて泳いだ。

「そういえばあなた、名前はあるの?

 私たち人間には、名前っていうものがあるの。私はタニア。」

「名前はあるわ。私はイレーナ。」

「イレーナ。」

「今日は、私たちのことをお話したいと思って。」

「そうよ。人魚っていったい、何者なの?」

「タニアは、『アトランティス』って聞いたことあるかしら?」

「知らないわ。何のこと?」

「遠い昔、地球にあった文明の名前よ。

 今で言う太平洋のあたりに、昔は大きな大陸があってね。

 その文明は、今のスペインよりもずっと、科学が発達していたわ。

 馬車は空を飛んでいたし、床や階段は動いていたし、

 重いものは機械が運んでいたわ。

 人間はろくに体を酷使せずとも、何でもできてた。」

「そんなことがあるの!?」

「あるのよ。その兆しのようなものは、

 もうじき、あなたたちの文明にも見られるようになるわ。」

「すごいのね。進化した文明だったってことでしょ?」

「進化とは言えないでしょうね。

 科学は発達したけれど、人の心は荒んでいたのよ。

 快楽と怠惰のために、科学を濫用していった。

 そしてやがて、科学力の誤用によって、アトランティスは自滅したわ。

 レムリアという、罪無き文明を巻き添えにして、ね。」

「戦争っていうこと?」

「そうね。戦争も含めて。過ちを犯したわ。

 私たち人魚は、まさにその文明で、快楽と怠惰に溺れていた者なの。

 罪深きアトランティスでの償いのために、

 人魚という特殊な姿で、転生してきた者たちなの。」

「どこに暮らしているの?」

「海の中よ。詳しい場所は教えられないわ。

 ただし、バミューダ海域で私たちの目撃が多いということは、

 私たちはその辺りに住んでいるということよね。」

「バミューダって、船の事故がとても多いところでしょ?」

「そうよ。知っててくれて助かったわ。

「バミューダ海域で事故があったとき、私たちは顔を出すの。

 その中で、罪の少ない善良な人がいるなら、彼を助けるのよ。

 私たちが助けていることをわからずに、

 抵抗したり攻撃してきたりする人も、いるけれどね。

 そうした迫害もまた、私たちが背負うべき罰なの。

 たくさん悪いことしたのだから、どんな罰でも受けるのよ。

 感謝されなくても、罵倒されても、それでも人を助けるの。

 それが私たち人魚の、罪償い。」

「私たちのこと助けたから、イレーナの罪償いは完了?」

「これだけじゃ終わらないわ。何千人も、何千年も、助け続けなければ。」

「そんなに長生きするの?あなたたち。」

「そのようね。

 さて、一方的で申し訳ないのだけれど、

 これでしばらく、私たちは口を閉ざすわ。姿も現さないつもり。」

「そうなの?もっとお話聞かせてほしいのに。」

「もしあなたたちが、この島で生き続けるならば…

 ちょうど一年後の今日、また会いに来るわ。約束する。」

「ホント!?でも、一年後か…」

「そうよ。一年もここで生き続けることは、そうたやすくないわ。

 その義務も、あなたたちには無いことだし。

 ときどきは船が通るでしょうから、

 いつも浜辺で監視して、船が通ったときに大声で叫べば、

 あなたたちを救い上げてくれる船も、現れるはずよ。

 あなたたちの魂は、それを望んでいないけれど…ね。」

「え!?」

「私たちは、あなたたちの魂の要請に応じて、

 こうして手をさしのべているの。

 俗世間から離れ、この島で生き続けることを、

 あなたちの魂は、望んでいるわ。」

「どういうこと!?」

「そう。魂はそれを望んでいるとしても、

 あなたたちの表層意識は、それを自覚できていないわ。

 だから、表層意識が拒むなら、無理に従わなくて良いのよ。

 生まれた国に帰るか、予定通り開拓地に赴けば良いこと。」

「お父さんたちに、相談してみるわ…」

「それが良いわね。」


魂が、この暮らしを望んでいる…?

どういうことなのか、私にはよく理解できなかった。


『人魚たちの償い』

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