エピソード16 『伝説の教師 -金八さんのその先に-』
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- 2023年3月21日
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エピソード16
僕は完全に、アベさんの話に引き込まれていました。
「…それで、沖縄に引きこもるようになったんですか?」
「いや、全ての誘いを蹴ったあとも、
徳島の校長業務はしばらく続けたよ。5年くらいはな。
過疎学校の場合、
校長の肩書きがあったって、教壇に立つことはある。
でも、ヘンな授業しかやらない。
『オマエら、水俣病について調べてこい』って言って、
それでもう、校長室に戻っちまう。くっくっく。」
「教えなくていいんですか?
何か、教えなくちゃいけないこととか、あるでしょう?」
「あるかなぁ。無いんじゃねぇか?
生徒の調べてくる事柄のほうが、オレの知識よりも重要かもしれんしな。
そうさ。
本当に偉大な教師は、『教える』なんてことはしないよ。
いや、『しない』ことはないが、
教えたって意味がないことを、わかってるさ。
どんだけ張り切って教えたって、わかりやすく教えたって、
生徒がボーっと鼻クソほじってんなら、何の意味もねぇ。意味ねぇんだよ。
すると、
教師は何をすればいい?
生徒が『オレ、学ぼう!』って思うように、仕向けてやるんだよ。
教師は、引き金を引いてやるだけで良いんだ。あとは答え合わせだな。
というか、
生徒が『オレ、学ぼう!』ってホンキで思ったなら、
ある意味、教師なんざ必要ないんだよ。
自分でだって学べるし、どこでだって学べる。
出会う人全てを教師にするし、草花だって教師になる。
そういうことに気付かないと、本当に何かを学ぶことは出来ないんだ。
いいか?
教室で受動的に授業受けてるうちは、何ひとつ、学べやしないのさ。」
「でも、親とか納得しないでしょ?
何も教えない教師なんて…
クズ教師のレッテル貼られたりしても、怖くないんですか?」
「それで良いと思った。
だってよ?普通の教育やったって意味ねぇんだ。手詰まりなんだよ。
だったら、バッシング受けるとしても大胆なことやるしかねぇ。
それで教壇から追放されるなら、それでいいと思った。
賭けだよ。
それしかやることねぇんだ、もう。
自分のことは、もうよかった。
教師が偉大であっても、何の意味もないんだよ。
教師の役目は、『自分が偉大になること』じゃねぇんだ。
『生徒を偉大にすること』だよ。
…それが出来たなら、結果的には、偉大な教師だな。
かといって、それを周囲に認知してもらう必要はない。
むしろ、『偉大な教師だ』なんて、思われていないほうがやりやすい。」
「そういうもんなのかな…。」
「そういうもんだ。いずれ解るよ。オマエも。
…いや、オマエの言いたいことはわかる。
世の中、信用ってのは重要だし、
オレがヘラヘラやってると、学校にも迷惑かかる。
だからオレは、
教員の肩書きは外すことにしたんだよ。
でもな?とにかくな?
教師や教育機関があれこれ血ヘド吐いたって、意味がないんだよ。
学習塾が万個もできて、家庭教師が兆人もいて、
55段階制だのマンツーマンだの、合格保障だの、
教育は呆れるほど過保護になった。
しかし、子供たちの学力は年々落ちるばかりだぞ?笑っちまうよなぁ。」
「たしかに…!」
つまり、『過保護な教育』は、子供の学力アップにはつながらないんだよ。
教師は、生徒を甘やかさないほうが良いんだ。
オマエ、アインシュタインの時代のドイツに、
55段階制なんてあったと思うか?赤ペン先生なんてあったと思うか?
本当に頭よくなりたいヤツは、自分で勉強するんだよ。
本当に偉大なヤツってのは、自分で問題解決するんだよ。
つまり、金八みたいな過保護な教育は、人間を偉大にはしないんだ。」
「…すごい!!
アベさん、本当に伝説の教師だ!!
やっぱりアベさん、教壇に立つべきですよ!
教壇ていうか、教師たちに向けて、学会で発表したりすべきですよ!」
「アホか!
だから、言ってんだろう?
教師たちのランチョンマットの上まで、オレが甲斐甲斐しく運んでやったところで、
ヤツらは、その情報のありがたみなんて、解りはしないんだよ。
55段階制の合格保障のほうが優れてると思い込んでんだから、
オレが提供する情報なんて、口もつけずに残飯行きさ。
オレが頑張ったって、無駄骨にしかならんのさ。
だからオレは、学会で発表したりはしない。
いいか?
オレは別に、オレが血ヘド吐いてまでして培ってきた極意を、
独り占めするつもりはねぇ。出し惜しみするつもりもねぇ。タダでくれてやる。
ただし、それは、
今のオマエみたいに、はるばるリスク背負ってまでして、足を運んでくれたヤツにだけだ。
そういう情熱があるヤツは、
オレの言葉も残飯扱いしたりはしないだろう。
いいか?
誤解を招くかもしれんから、落ち着いて聞けよ?
つまりだ。
教師なんてのは、自宅で鼻クソほじりながら待ってりゃいいんだ。
自宅じゃないんなら、辺境の地のゲストハウスだよ。くっくっく。
いずれにせよ、
わざわざ生徒の家までチャリンコに乗って出かけていく必要なんて、無いんだよ。
そういう甲斐甲斐しいことは、しないほうが良いんだ。
生徒が付け上がるし、努力をしなくなる。教師にありがたみを感じなくなる。
いいか?誤解すんなよ?
『教師はあぐらをかいてて良い』って言ってるんじゃねぇぞ?誤解すんな?
教師の話じゃねぇ。生徒の話だぞ?
学びたいなら努力しろ。自分から動け。
家庭教師雇うなら雇うで、親に払わせずに自分のお年玉から払え。
そこまで頑張るような子供は、絶対に大成する。保障する。
学歴が小卒どまりであったとしても、絶対に、大成はするぞ。
何らかの分野で、なんらかの功績を輝かすだろう。」
『伝説の教師 -金八さんのその先に-』



