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エピソード17 『イエスの子らよ』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月4日
  • 読了時間: 3分

エピソード17


ある日の午後、

3人で、鐘楼のからくり部屋に行ったわ。

何かおしゃべりしたいことがあるとき、エルサはここに行きたがるのよ。

一番人目につきにくいからね。

案の定だったわ。

たむろしてるハトをからかいながら、エルサは話し始めた。

「ねぇサラ?

 あなたこの間、教会であいびきしてなかった?見張りの修道士と。」

相変わらず、歯に衣着せず、ハッキリと言うわね…。

「あら、やっぱり見られていたのね。」サラはほっぺを赤くしたわ。

「赤くなったってことは、ホントにあいびきだったの!?」私はヤジウマ。

「まぁ、そんなようなものだわ。」

「禁じられてるのよ、恋愛は!」エルサはトゲトゲ。

「知ってるわ。お願いだから、みんなには内緒にしてくれる?」

「まぁ、いいけど。

 あなた一人ぼっちだから、アタシ守ってあげたいわ。」

どうもエルサ、弱者には気を許すし、優しいのね。

「うふふ。ありがとう。

 あなた男まさりだから、頼もしいわ。」

エルサは続ける。

「ナンパされちゃったの?サラ、美人ですものね。」

「違うわ。ピエトロは…彼、ピエトロって言うんだけどね、

 ピエトロは、まじめな修道士よ。女性を口説いたりしないわ。

 私のほうから、近づいたの。

 それが私の…私の家系の…鉄のオキテなのよ。話したでしょ?こないだ。」

「そうね。

 でも、どうしてピエトロなの?」エルサは尋ねる。

「私の天使様が、彼を指名したからよ。」

「それはわかってるけど、

 じゃあどうして天使様は、彼を選んだのかしら?」

「私が知っている中で、最も高い精神性を持った男性だからよ。」

「精神性?」

「そう。そこが重要なの。

 良い子を産むには…私たち一族の血と精神を継いでいくには…

 優れた精神性を持った男性を選ぶことが、大事なの。

 これは、私の一族に限らないことよ?

 エルサやマリアンヌが優しい利発な子を産みたいなら、

 あなたたちもやっぱり、精神性の高い男性を選ぶべきだわ。」

「田舎の庭園の庭師か、修道士?」

「そうね、そんな感じよ。」

「ほら見なさい、マリアンヌ! 

 アタシの言ったとおりだったでしょ!」

サラは話を先に進める。

「ピエトロには、ちょっと申し訳ないけれどね…。」

「どうして?」

「私は彼と、結婚できないわ。

 それどころか、いっぱしの交際もできない。

 それだけじゃないわよね。

 彼は、固い決意を持って、修道士の潔白を守ってきたのに、

 私は、彼のそれを汚さなくてはならないのよね。

 だから彼、とても葛藤しているわ。」

「彼には素性を話したの?」

「まだほとんど何も、話していないの。

 『好意を持っています』って、告白しただけ。

 たったそれだけでも彼、悩んでしまうのよ。まじめなの。」

「サラの素性、話すの?」

「話さないわ。話せない。だから余計に心苦しいのよ。

 私は、彼と一度だけ交わったら、

 それを機に、彼とは縁を切らなくては。」

「どうして!?」

「私生児を産むには、それくらいの潔さが必要なのよ。

 よっぽど肝のすわった男性でないと、一度交わったなら離れられなくなってしまう。

 私のほうだって、彼に未練を持ってしまうわ、きっと。」

「そういうものなの?」私は首をつっこむ。

「そういうものよ。どうやら、ね。」


「っていうか、修道女なのに男と交わっていいわけ?」

エルサが不思議そうに尋ねた。

「マグダラの子孫は多くの場合、修道院を出てから体を重ねたようだけど、

 もともと、『神の戒律』の中にセックスに関するものは存在しないのよ。

 誰が誰と交わっても罪ではなく、地獄に落ちるものでもないの。

 だから、天使様は、しかるべき時期、相手とあれば、

 どのような身分の者とも、私たちマグダラの子孫に交わりを命じてきたわ。

 ときには既婚者であるケースもあったみたい。

 キリスト教や修道院では純潔を課すけれど、

 それはあくまで、自制心を培わせるための訓練の意味合いにすぎないのよ。

 そもそも、キリスト教や修道院に純潔を課したのは、

 神でもなければイエス・キリストでもなく、ローマ法王よ。人間であり、時の権力者ね。」


「ところでサラ、

 あなた今、何才なの?」エルサは尋ねる。

「私は今、19才。もうすぐ二十歳をむかえるわ。」

「ということは…!?」



『イエスの子らよ』

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