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エピソード17 『トランク1つで生きていく』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月9日
  • 読了時間: 4分

エピソード17


12月の沖縄は、思ったよりは肌寒くて、

関空でダウンジャケットを捨てようか迷ったので、危ないろころだった。

それでも京都や熊本よりはずっと暖かい。いいな、南国って。


私はあのノマドのおじさんにもらったメモを頼りに、新しいゲストハウスを探した。

空港からモノレールに乗り、牧志という駅で降りる。

降りてビックリ!沖縄ってこんなに都会なの!?

牛が鳴いてておじいが三線弾いてて、さとうきび畑が広がってるのかと思ってたので、

京都の中心部と変わらない騒々しい街並みに、私は面食らった。


牧志の駅から7~8分歩いたところに、それはあった。

ゲストハウス まりりん

「万屋」の京都風情とは大違いの、ペンキ塗ったくりの雑居ビル。

1泊1,000円だもんなぁ。

別にかまわない。バンの後部座席でも寝れる私ですから。


1階は食堂で、入り口は2階にあるらしかった。

私はトランクを抱えて、2階まで上っていった。

玄関をくぐると、内壁も一面、ペンキ塗ったくり。自由だなぁ、ゲストハウスって。

海を模しているのか空を模しているのか、壁は一面鮮やかすぎる青色で、

なんだかちょっと落ち着かないけれど、まぁいいか。

誰もいないので呼び鈴を鳴らすと、奥から叫び声が聞こえた。

「めーんそーれ!」

「いらっしゃい」の意味だ、たしか。

それはいいとして、声がでかい。コウセイくんの居酒屋並みのハイテンションだ。

私はまた、ちょっとひるんでしまう。


やたらと色の濃い、二の腕の太い、茶髪で笑顔の青年が、

私をフロントで出迎えた。

熊本では見ないタイプの男の人だな…。京都にも少ない。

私はとりあえず、1泊させてもらうことにした。ドミトリー、1,000円。


今度のドミトリーは、

「万屋」とは違って和室ではなく、二段ベッドだった。

でも、すべてのベッドにカーテンの仕切りがあり、さらに独占できるコンセントや読書灯がある。

貴重品は無料のコインロッカーにしまえる。

1,000円にしては、ずいぶんと優れものじゃないかとおもう。

シャワーは女性専用のものがあり、「万屋」よりも安心できた。

いろいろ個性があるのね。ゲストハウスにも。



荷物を置くと、私は偵察がてら散歩に出て、

お菓子を2~3買って、「まりりん」に戻ってきた。


「まりりん」にも広いリビングがあり、自由にくつろいで良いらしかった。

誰も見ていないけどテレビは点いていて、沖縄のローカルチャンネルを映している。

私は座卓に腰をおろして、ライターの仕事でもやることにした。



ときどき、お客さんが入ってくる。

チェックインのお客さんもいれば、観光帰りの既存客もいるみたい。

だいたいみんな、雰囲気が似ている。

女の子たちはやたら露出度が高く、

男の子たちはやたら色が黒く、テンションが高い。


17時過ぎ、リビングに、1人の男性がやってきた。

「こんにちは」と私に軽く会釈をすると、あとは黙々と、パソコンで何かしている。

彼もまた、ノマドなんだろうか?


18時になると、

受付のあたりが騒がしくなってきた。人がいっぱい集まってくる。

なんでも、これからみんなで、泡盛を飲みながらバーベキューをするらしい。

スタッフもお客さんも、みんな入り混じりで。

私はこの、居酒屋みたいなテンションにはついていけそうもなく、

集団が屋上に上がっていくまで、一人ひっそりとしていた。


一人じゃなかった。もう一人いる。

さっきリビングにやってきた男性も、バーベキューには加わらなかった。

彼も同じことを感じたらしく、私に話しかけてきた。

「あれ?バーベキュー、行かないんですか?」

「あ、はい。ちょっとテンション高くて…。」

「あははは、僕も同じ。ああいうのはパス。」

たしかに彼は、色も黒くないし文学系の服装をしている。

「なのに、ここに泊まったんですか?」私は不思議に思った。

「うん。安いからね。安けりゃどこでも泊まるよ。ビンボーだからね。あはは。」


私は記事書きに熱中していたので、会話を続けたりはせず、

パソコンに向き直って黙々と作業をした。

19時。お腹がすいてきた。

ここもキッチンが自由に使えるらしいので、食材でも買ってくることにした。

私は久しぶりに、彼に話しかけた。

「あの。この辺に安いスーパーってありますか?

 コンビニは、あるとこ知ってるんですが。」

「スーパー?あるよ。

 出てずーっと右行って、信号渡ったらすぐだよ。」

「ありがとうございます。出て右ですね?」

「あ、ちょっと待って!」

「はい?」

「ねぇ、自炊するってことだよね?

 あのさ、ちょっと図々しいお願いなんだけど…

 300円払うから、僕の分もついでに作ってくれたり、しないかな?」

「え!」ビックリした。そんな依頼を受けるとは思っていなかったから。

「僕、料理得意じゃないんだ。

 できないこともないけどさ、チャンプルーばっかりになっちゃうから。

 食材、100円でもいいよ。残ったお金はあげます。っていうか調理代で。」

「……わかりました。

 でも、凝ったもの作れないですよ?私も。」

「いいのいいの。ありがとう!」

いろんな人がいるんだな。ゲストハウスには。



『トランク1つで生きていく』

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