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エピソード17 『名もなき町で』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月16日
  • 読了時間: 2分

エピソード17

家はすぐ近くにあった。古くて平凡な民家だった。

居間は畳で、蚊取り線香の匂いがして、年季の入った扇風機があって…

典型的な日本の田舎の民家だった。

奥さんはすぐにキッチンに入り、そしてチャーハンを作ってくれた。



ご飯を食べながら、タコ八は僕にいろいろと質問をした。

僕は、なるべく丁寧に正直に、それに答えた。


自給自足的なエコビレッジに興味があり、

できればお金の介入しない文化を築きたい。

その手がかりを求めて伊座利にやってきた。

そういうわけで、今もロクにお金を持ってない…


タコ八は、真剣に僕の話に耳を傾け、

僕が信頼に値するかどうか、懸命に見極めているようだった。


しばしの沈黙の後、彼は言った。

「ちょっとオマエ、ワシについてこい!」

タコ八はシルバーの車に僕を乗せると、3分ほど峠を上って走った。



集落の途切れたあたり、高台に大きな施設があり、車はそこに停まった。

海を見下ろす広大な斜面の一角に、体育館くらいのサイズの建物がある。

タコ八は僕をそこに招きいれ、玄関すぐの応接ソファに僕を座らせた。

そして、携帯電話で2つほど通話を入れると、

さらに2人の村人が、すぐに姿を現した。

1人は、60歳くらいの、メガネをかけたおじさん。

もう1人は、40歳くらいの精悍なお兄さん。

どちらも穏和そうだったので、僕はひとまず安心したよ。


4人がそろうと、タコ八は切り出した。

「あのな、この若造にこのキャンプ場の管理人やらせようと思うねん。

 どうやろか?」

何だこのおあつらえむきな展開は!?マジなの!?

「はっはっは!

 どうかなって言われても、彼、何者なんです?」

メガネのおじさんは、真っ当な質問で返した。

僕は、さっきタコ八にしたのと同じような説明を、彼らにもした。

「ハハ。フシギな青年ですねぇ。

 まぁ、ええんちゃいますか?様子を見てみましょうよ。」

メガネのおじさんは、僕の顔を見て親しげに微笑んだ。

「オマエはどうや?加藤。」

若いほうの男性は、加藤さんというらしい。

「僕は、何でもいいですよ。」

加藤さんは、無表情に答えた。

怒ってるわけでも疑ってるわけでもなく、基本的に、無表情な人なのだ。

「ヨシ!承諾は得られたが、 

 オマエ、どうや?やってみるか?管理人。」

「やりますやります!!

 僕、やってみたかったんですよ♪

 宿泊施設の管理人!」


『名もなき町で』

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