エピソード19 『イエスの子らよ』
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- 2023年3月4日
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「恋愛ねぇ…」
今日は穀物倉庫で、
おばあ様に聞こえるように、ほおづえついてつぶやいた。
「ほっほっほ。
マリアンヌも、恋に恋するお年頃かえ?」
「恋ってものに興味があったわ。この修道院に来るまでは。
でも、エルサやサラの話を聞いてると、
なんだか恋って大変なのかなって、思えてきちゃったわ。」
「まぁ、大変というのも間違っていないが、魅惑的なものでもある。」
「おばあ様、恋を知ってるの?」
「おーほっほ!バカにしてくれるな!
大恋愛の1つや2つ、ワシにも身に覚えがあるわい。」
「おばあ様もサラみたいに、秘密の恋、しちゃったわけ?」
「そうではない。
ワシは青春時代には、修道院にはおらんかったでな。
恋の甘いも酸いも体験し、パリの甘いも酸いも体験し、
それから修道院に来た。」
「そういうの、アリなの!?」私は何も知らないのよ。
「むしろ、たいていのシスターはそうであろう。
幼いうちから預けられたとしても、16~7でいったん外界に出るじゃろう。
再び戻ってくる者もおる。戻ってこん者もおる。」
「そうだったの!ずーっと出られないのかと思っていたわ!」
「おぬし、母親から何も聞かされておらんのか?」
「小言ばっかり言うけど、かんじんなことは何にも教えてくれないの。」
エルサがお手洗いから戻ってきたから、この話は打ち切ったわ。
なんとなく、恋の話をエルサに聞かれたくなくって。
私は、話題を変えた。
「そういえば、
この小麦袋って、誰が買ってくるの?
小麦袋にかぎらないわ。修道院のものって、誰が買ってくるの?」
「たいていの物は、修道女たちが手作りする。
農作物をも自給する修道院もあるが、ここは土地が悪いゆえ、買ってくる。」
「でも、外出って禁止でしょ?」
「修道士たちが買出しに行く。
表の礼拝堂まで運んでくれれば、あとはシスターたちでどうにでもなる。」
「お金は?そもそも、この修道院は誰が建てたの?」
「昔々な、ある貴族が、私財を投げ打って建ててくれたらしい。
修道院というのは、たいていそうじゃよ。
サラやイエス・キリスト様と同じじゃ。
天使様に指示され、身を切る思いでご奉仕なさったんじゃろう。」
「ありがたい人がいるのね。
ふだんの小麦や野菜も、その人がお金を出してくれているの?」
「その貴族はもう亡くなられた。遠い昔のお方だと言ったじゃろが。
生活費に関しては、シスターたちの手作り品を売って、まかなっておる。」
「あなた、ホントに何にも知らないのね!?」エルサはあきれかえってる。
「ホントに何にも知らないのよ。私。」
『イエスの子らよ』



