エピソード2 『星空のハンモック』
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- 2023年3月20日
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エピソード2
私はスニーカーなので、波打ち際までは行けない。
それを察して、麗子さんは私の都合に合わせて浜の内側を歩く。
「病院か。たしかに元気になりましたね、リナちゃん。」
「いいえ、気分だけの問題じゃないのよ?
タラソテラピーというのを、やっているの。」
「タラソテラピー?」
「そう。日本じゃまだ、まったく無名だけれどね。
海洋療法。代替医療の一つなの。」
「海が、人を癒すんですか?」
「色んな効果があるらしいわ。
リナの場合、アトピーの治療が主目的だけれどね。」
「アトピーが、治るの!?どんな理屈で!?」
「海水のミネラル成分が、肌から浸透していって、
新陳代謝を活発にしたり、排毒を促したりするらしいわ。
塩の成分は、かゆみ止めにもなるみたい。
本当に効果あるのかなって、私も半信半疑だったけれど、
リナのアトピー、確かに良くなってきてるのよ。まだ1ヶ月しか経ってないのに。
私が家探しに来てたとき、近所のおばぁも
『ここの海入ってたらアトピー治るよ』って言ってて。
彼女はアマミキヨが云々と言ってたから、
神秘的なチカラだと思ってるようだけど、
とにかく、アトピーが改善されてるのはリナだけじゃないのよ。
私のお肌も、スベスベになったしね。ウフフ。」
「え、それはどういうこと?」
「泥パックとか塩パックとか、聞いたことあるでしょ?
施術を受けに行ったら何千円もするようなものよ。
でもよく考えてみたら、
ビーチで水かけ遊びしたりカラダ埋めあいっこするだけでも、
塩パックや泥パックと同じような効果が、あるのね。
だから私も、リナを見てるだけじゃなくて、
なるべく砂や海に触れるようにしてるわ。」
麗子さんは、ミュールを脱いでハダシになった。
「ここの浜は手付かずで、サンゴがいっぱい転がってるから、
ちょっと危ないけどね。
でも気持ちいいのよ。慣れれば足の裏も強くなってきて、
傷もできなくなってくるし。」
私もスニーカーと靴下を脱いでみる。
恐る恐る、浜に足を踏み出す。
「本当だ。ちょっと痛いけど気持ちいい!」
「でしょう?気持ちいいのよ。マッサージ効果があるの。
それに、足場の悪いビーチを散歩すると、筋肉の強化にもなるわ。
1日30分くらいは、ハダシでビーチを歩くといいみたい。」
「至れり尽くせりですね!」
「まだあるのよ?
波の音も、癒しの効果があるの。
『1/fゆらぎ』って言葉、聞いたことない?
10年くらい前に、波の音のCDがたくさん売られてたわよね。
日光を浴びるのも健康に良いし、
海にしっかり浸かるのも健康に良いの。波の圧力がマッサージ効果を持つのよ。
しっかり泳ぐなら、全身の筋トレや肺の強化にもつながるわ。
海草も、カラダにすごく良いしね。
しかも、これだけの効果があるのに、一銭もかからないという!」
「タラソテラピーって、すごいんですね!」
「でも、どこの海でも良いってわけじゃないのよ?
汚い海はだめだし、騒々しい海もだめね。
だから湘南とか九十九里とかではあまり効果がないみたい。
波が高いと、波音聞いてても癒されないしね。
そう考えると、沖縄の海って、日本で最もタラソテラピーに向いてるのよ。
しかも、西側よりも東側。西側は、観光地化されすぎてて騒がしいものね。
さらに東側の中でも、この百名ビーチは人工開発されていないから、
本当に良いことづくめなの。
しかも、ひょっとしたら、
おばぁの言うとおり、アマミキヨの効果もあるかもしれない。」
「あ、そういえばさっきも、アマミキヨがどうとかって?」
「この辺りは、すごく霊的な土地なのよ。
向こうに見えてる久高島は、『神の島』って呼ばれているわ。
人類の祖先は、最初に久高島に降り立ったらしいの。
アマミキヨっていうのが、その人類の祖先のこと。
そしてこの百名の浜が、沖縄本島としては最初の上陸地点なのね。アマミキヨの。
だから、ほら、そこに見える『ヤハラヅカサ』っていう石碑は、聖地の証だし、
ちょっと入ったところには『浜川御嶽(うたき)』っていう拝所もあるわ。
アマミキヨを奉っているのよ。
聖地が2つもあるから、この浜は観光開発がされずに尊重されているの。」
「聖地でもあるんだ。」
「そう。すごくすごく条件の良いところなのよ。
『穴場』っていうのは、こういうところを言うのね。」
『星空のハンモック』



