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エピソード2 『私の彼は有名人』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月27日
  • 読了時間: 3分

エピソード2

…私のホンネとしては、

ライブのお知らせメールだけでなく、

「今日はありがとう」とか「名前はなんていうの?」とか、

プライベートなメールが送られてくることを、ひっそり期待していた。

路上ミュージシャンと友達になった女の子のウワサは、

周囲やメディアでも、ちらほらと見聞きしていたから。

でも、彼は、

プライベートなメールは、くれなかった。

その晩、夜中の3時までケータイを握って待っていたけど、

私のケータイは、ウンともすんとも鳴りはしなかった。



次のライブは、いつあるんだろう?

1ヵ月後かもしれないし、1年後かもしれなかった。

いずれにせよ、それまで待ちきれそうもなかった。

私は、翌週の同じ時間にも、同じ場所に立ち寄ってみた。

上手くいった!

彼は、また同じ時間に、同じ場所で唄っていた。


今度は私も、見知らぬサラリーマンの真似をして、

缶コーヒーの差し入れを持参した。

本当は、サイゼリヤのミラノ風グラタンくらいは差し入れしたいところだったけど、

それは好意が見え見え過ぎるから、缶コーヒー程度に抑えておいた。

彼は、私の顔を覚えてくれていた。


その日もまた、

1時間以上も、寒空の下で聴いていた。

私の背中に使い捨てカイロが4枚も重装備されていたことは、誰にも内緒である。

そして、彼が楽器を撤去するまで、ずっと見守っていた。

他の聴衆が去るまで、帰るわけにはいかなかった。

彼が片付けを追え、帰ってしまう直前…

臆病な私は、またそのギリギリまで戸惑いを続け、

それでも勇気を持って、話し掛けた。

そして、先週よりも1歩、踏み込んでみた。

「あの、もしお時間あるなら、

 サイゼリヤか何かで、ご飯をご一緒してくれませんか?」


彼は、一瞬おどろいた顔を見せ、

そして次には、頭をかきかき困惑してしまった。

「うーん。どうすればいいんだろうなぁ。

 コレがクラスメイトからの誘いだったら、一つ返事でOKするんだけど…

 お姉さん、ライブのお客さんだからなぁ…

 いちおう、ファンっていうことになるじゃない?

 ファンに誘われて食事しに行くのは、マズい気がする…」


私は、ビックリしてしまった!

正直、路上ミュージシャンなんていうのは、

女の子としょっちゅう、カラオケやら食事やら、行ってるものかと思ってたから。

友人はそうだったらしいし、雑誌にもそう書いてあった。

けれども、残念なことに、

私が好意をもった路上ミュージシャンは、違ったのだ…


しかし、どうもよく考えてみると、

彼がもし、その他大勢の路上ミュージシャンと同じようにファンの子と遊びまくるなら、

あんなに美しい曲は、つむがれてこないような気がする。



それにしても、参った!

彼に近づくには、ライブを観に行くしかないというのに、

ライブを観に行けばいくほど、私は、「ファンの一人」になってしまうのだ…

私は、もちろん彼の音楽のファンでもあるのだけれど、

ただのファンでは、物足りない…

もっと彼の特別になりたかったし、もっと彼と親密になりたかった。

しかし、彼の理論によれば、

ファンの女の子とプライベートな関係になるのは、許されないことなのだ。

うーん。困った。


『私の彼は有名人』

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