エピソード20 『イエスの子らよ』
数日後のある日のこと。
「あらあなたたち、
小麦袋が届くから、礼拝堂まで取りにいってちょうだい?」
最近しょっちゅう穀物倉庫に行ってるから、
すっかり私たち、小麦当番だと思われてるわ!
言われたとおり、エルサと二人で教会に行ったけど、
だーれもいないわ。シーンとしてる。小麦も置いてないし。
「どうしちゃったのかしら?
着くのが遅れてるの?
それとも、誰かがもう運んでくれたのかしら?」
「アタシ、倉庫を見てくるわ。」
エルサはそう言うと、一人で走っていっちゃった。
私は、教会の大きな扉を開けて、
誰かがやってこないか、眺めることにしたわ。
ギィィィィィ。自分で開けちゃった。
出歩かなければ大丈夫よね?まだ扉の下に出ただけだもの。
見張りの人たち、どこに行っちゃったの?お手洗いかしら。いないの。
キョロキョロしていると、
向こうから、粉袋を担いで歩いてくる、修道士さんが見えたわ。
わざわざ担ぐの?大変ね。
しばらくその様子を見てたんだけど…
まぁ大変!
その修道士さん、転んでしまったわ!!
私、思わず、駆け出してしまったの。
外に出ちゃいけないのに、出ちゃったわ!
でもしょうがないじゃない?緊急事態ですもの!
「大丈夫ですか!?」私は、駆けよって言ったわ。
「イタタタタ。
でも大丈夫です。どうもありがとう。」
彼はそう気丈に言って、立ち上がったんだけど、
粉袋をかつぎ上げたとたん、また倒れちゃったわ!
「イタタタ。足右に、チカラが入らないや。」
右ひざを出血してるもの、無理ないわ。
そして今度は、左足までくじいてしまったみたい!
「動かないでください!」
私は、ハンカチを取り出して、右ひざの傷の止血をしたわ。
左足は…どうしましょう!?
何も持たない私にできることは、1つしか思い浮かばなかったわ。
「教会まで、歩きましょう!肩を貸します!」
「だ、だめですよ!いけません!」
彼は必死に抵抗したけれど、私は聞く耳を持たなかったわ。
私は修道士さんの体を慎重に起こすと、自分の肩に彼の手を回した。
そしてよたよたと、でもけんめいに、彼を支えて歩いたわ。
「もう少し、もう少しですからね!」
扉の前まで着いたあたりで、エルサが戻ってきたわ。
「ちょっとアンタ、何やってんのよ!!」
「いいから、そこをどいて!」
「どいてってアンタ、男の人を…」
「どいてー!」
「もう!知らないからね!
アタシ、大人のひと呼んでくる!」エルサは駆け出した。
教会の一番うしろの長イスに彼を寝かすと、私も一安心したわ。
「ふぅ。」
「お嬢さんありがとう、でも…」
彼がそう言いかけたとき、エルサと大人のシスターが駆けつけてきた。
「何やっているのマリアンヌ!彼から離れなさい!」
??どうして私、怒られているの??
ほめてほしいとは思っていなかったけど、怒られるとは思わなかったわ…。
立ち尽くす私を見て、エルサは言ったわ。
「あなた修道女のオキテ、忘れたの!?
男の人に触れちゃいけないんだってば!」
「えっ!」
触れてもいけないの!?
恋愛禁止というのは知っていたけれど、触れることすら許されないなんて…
『イエスの子らよ』


