エピソード22
ルクソールに到着したのは、
翌日の昼過ぎだった。
僕は、「日本食の食堂を持つ」と、ガイドブックに書かれていた安宿に、
チェックインすることにした。
屋上が食堂になってるんだけど、
屋上に行ってしばらく待ってても、だーーーれも来ない…
ようやくヒトを見つけて、
「何か食べさせてもらえる?」って尋ねたら、
「今は食事の時間じゃナイから、シェフは居ない」
と、言われてしまった。
そうかぁ…日本料理をウリにしてんだもんなぁ。
「他のヒトが代わりに…」
ってワケには、いかないよなぁ。
仕方なく、僕は、
表通りを歩いて、15時でもメシを食わしてくれる店を探したよ。
なるほど、
エジプトには、
ランチでもディナーでもナイ時間帯には、店じまいしちゃう飲食店が多かった。
個人営業の小さな店であればあるほど、その傾向は強いなぁ。
こういう時には、
チェーン店か、そのような雰囲気を持つ効率的なカンジの店に、
お世話になることになるんだよ。
それぞれ、上手く住み分け出来てんだよなぁ。
食事を済ますと、宿に戻ったんだ。
宿の主人らしき男は、
深緑のムスリム服(ワンピースみたく、ストンと着るヤツ)を着てて、
よく笑顔で話してたけど、目の奥が笑ってナイ人だった…
彼は僕に、
「国際学生証を作らないか?」と、持ちかけてきた!
バックパッカーなら、たいていは知ってると思うよ。
特に、タイなんかでは、盛んだろうなぁ。
国際学生証を「偽造」する、闇商売があるんだ(笑)
世界各地の遺跡やら美術館やらは、
「学生料金」ってのを設けてるところが、多いんだよ。
そういう時、学生証を持ってると、格安で入れることもあるから、
「海外放浪の玄関口」とも言われるタイのカオサン・ロードなんかで、
国際学生証を偽造しちゃうバックパッカーは、かなり多い。
僕は、「カルマの法則」ってモノをよく理解している人間だったから、
偽造してまでお金を節約することには、興味が無かった。
…ただ、
「国際学生証の偽造」というプロセスは、
バックパッカーの登竜門みたいな、おかしな風情があるから、
一度覗いてみたいなぁと、思った。
僕は、彼の誘いに応じることにした。
彼は、僕を後ろに引きつれ、メイン通りを向こう側に渡ると、
路地を幾つか曲がって、目立たない写真屋に入っていった。
写真屋って、
受験生が願書の写真を撮るときや何かに、
プロの写真家に3,000円だかなんか払って、撮ってもらったりするだろう?
ああいう店のことだよ。
深緑の店主は、
その写真屋のオヤジと悪どい笑みで挨拶を交わすと、
「オマエ、ココからなら、宿まで一人で戻れるよな?」
みたいなことを吐き捨て、
僕の返事を聞きもしないで、帰ってしまった。
僕は、5ドルほど払って、
国際学生証の偽造とやらを体験した。
まずは、カウンターに座って、
自分の身分を書き綴った。住所とか生年月日とか、そういうヤツさ。
学校の名前をローマ字で書けと言われたから、
その通りにしようと思って、躓いた!
僕が最後に出た学校は、
東京ナンチャラカンチャラウンチャラホンチャラ…
っていう、長ったらしい名前なんだ。
「ねぇオジサン、
マスの中に納まり切らないよ?」
って言ったら、
「アタマの『Tokyo』って字以外は、省いてしまえ!」
と、なんとも大雑把なことを言われた。
その通りにしてみたら、
僕は、「東京大学」の生徒ということになってしまった(笑)
僕は、この偽造学生証を、
この旅の間中、何回も、遺跡やなんかに提示してみた。
結果的には、全部の場所で学割の恩恵を受けられたけれど、
そのほとんどの施設で、疑わしい顔をされたよ(笑)
僕の外見自体は、ヒゲが薄いために、
外国人からは若く見えるようなのだけれど、
その学生証が、「偽装したのがバレバレ」という稚拙さだったようだよ(笑)
いつ、どこの正義感溢れる受付スタッフに、
警察に突き出されるかわかったモンじゃナイから、
くれぐれも、ご注意を(笑)
『導かれし者たち』



