エピソード24 『ミシェル2 -世界の果て-』
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- 2023年3月24日
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エピソード24
明け方は4時くらいかしら。奇跡が起きたのは!
ふいに、私の肩をぽんぽんとたたく人が現れたの。
私はハっと意識を戻して、フードをはずして見上げる。
そこにいたのは、色の黒い、私よりも若そうなエジプト人青年だったわ。
彼は笑みを浮かべて、私に言う。
「××△〇×」何を言ってるの?言葉がわからないわ。
「英語でお願い。私エジプト語はわかんないの。」震えるくちびるで伝える。
彼は少し考えると、
「カムカム。」それだけを言い、乗客車両を指さす。
「私、席がないのよ。」
「?」彼は彼で、私の言葉がわからない。
「カムカム。」
「席がないんだってば。」
彼は、ため息を1つ付く。
すると、今度は私の手を引っ張ろうとする。
「なぁに?私はここでいいのよ。」
「カムカム。」彼はそれしか言わない。完全に地元民なんだわ。
私は根負けして、彼の手引きについていくことにした。
足がしびれてかんじて、上手く立てない。
よろける私を彼は、小さな体で支える。
私は彼に支えられながら、乗客車両に入っていく。
暖かい!乗客車両は二等でも、天国みたいに暖かい。
彼は、その車両の一番うしろの、3列シートの通路側の座席に、私を座らせる。
「なぁに?どういうこと!?」
「〇△△×〇△」また何か言う。
隣に座る、彼の友人とおぼしき、若いのにおでこの薄い青年が、
「ギブ ユー。」とほほ笑む。
「…!?私に、座らせてくれるの?」
「イェス イェス!」おでこの青年は言う。
「わははは!」私を招き入れてくれた青年は、自分が席を得たかのように喜びの声を上げる。
そして彼自身は、シートと最後部の壁とのすき間に入って、しゃがみこむ。
「ギブ ユー。」不器用に、微笑みながら言う。
「ありがとう…!」私は泣いてしまったわ。あまりにうれしすぎて!
彼は、おでこの青年を通訳にして、
私に簡単な質問を、いくつも投げかけてきた。
「どこの国の人なの?」
「名前は?」
「何歳?」
「エジプトは初めて?」
「コシャリは食べた?」
私の答えなんてどれも平凡で他愛ないものなんだけど、
でもその一つ一つを楽しそうに喜んでくれるの。異国人との交流が楽しいのよ。
私はまた泣いてしまう。
こんなに純粋で善良なエジプト人がいたなんて…!
彼は名前を、アリというんだって。
30分も座っていると、身体は暖かくなってきて、私は元気を取り戻した。
「もういいわ。どうもありがとう!」
私は立ち上がって、アリと席を代わろうとした。
でも彼は、首を大きく振って「ノーノー!」って言うの。
「でも、今度はあなたが疲れちゃうわ。」私は心配してそう言う。
すると今度は、おでこの青年が立ち上がるのよ。
「交代にすればいいんだよ♪」
そして自分が後部座席の壁に寄りかかって座り、アリを真ん中の席に座らせる。
優しいのはアリだけじゃないのよ。おでこの青年だってそう。
そして30分くらいしたら今度は、一番窓側に座っていたメガネの青年も、
「今度は僕の番だよ」と言って壁とのすき間に入っていくの。
この夜は私にとって、最高にみじめで最高に感動の一晩だったわ。
『ミシェル2 -世界の果て-』



