top of page

エピソード25 『沖縄クロスロード』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月14日
  • 読了時間: 5分

エピソード25

「信悟さん、ただいまー!」

ユカは、勝手に玄関に上がりこみ、そしてフレンドリーにあいさつをした。

大丈夫。沖縄は、信悟さんは、こういうフランクさを歓迎してくれる。

「あれぇ?どしたのー!?

 タクシーの運ちゃん、また道間違えた??」

信悟さんは、ユカたちのことを覚えてくれているようだった。そりゃそうか。


「ううん!今度はゲストハウスのニライカナイをご指名して、タクシー乗ったの♪」

「え!なんか忘れ物でもしてった?何かあったかな…」

「忘れ物?違いますよ。いや、そうかも!

 恩返しするの忘れてたから、だから戻ってきました♪」


「恩返し?恩返しって、何のこと??」

信悟さんはきょとんとしている。

「えー!?ユカたちのこと覚えてくれてるんじゃないの!?

 たくさんお世話になったじゃないですか?

 宿泊客でもないユカたちに、お茶いれてくれて、休ませてくれて、

 情報たくさんくれて、おまけに東海岸まで送ってくれて!」

「え?そのハナシ?

 そんなの別に、恩返しなんてしなくても良かったのに(笑)」

信悟さんは、あっけらかんと涼しい顔をしている。

信悟さんにとっては、あの施しの数々は日常茶飯事だったのかもしれない。

貸しも何も感じていないのかもしれないけど、

でもそれでも、いや、だからこそ、ユカたちはちゃんと恩返ししなくちゃいけないよ。

「とにかく、今日はお客として泊まりますので、ヨロシクー♪」



飛び込みだったけど、幸い、部屋は空いていた。

個室も空いてたけど、ドミトリーを選んだ。ドミトリーをもっと経験したかった。

今夜ドミトリーで相部屋するのは、スタッフさんだとのことだった。

女の子のスタッフが、泊り込みで働いているのだ。


彼女が憎い!

なんでかって?

だって、信悟さんのお手伝いをしようと思ってたのに、

仕事という仕事は、スタッフである彼女が済ませてしまっているんだもの。



シーツを変えたり、洗濯したり、布団を屋上に干しにいったり、

館内を掃除したり、お客さんからの電話に対応したり…

ゲストハウス業務の大半を、住み込みスタッフさんが手伝ってる。

仕事の量はそう多くないようだけど、拘束される時間は日に10時間以上になる。

それが週に5日間。

「失礼だけど、

 それでいったい、幾らお給料もらってるのですか?」

ユカは、ワカちゃんに尋ねてみた。彼女は和歌子というのだ。22歳の大学4年生。

「お給料?一銭ももらってないよー(笑)」

「えー!!ウソでしょう!?」

「ほんとほんと。

 ドミの宿泊がタダになって、キッチンの食材が使い放題だから、

 それをお金に換算するなら…月給5万くらいとも言えるかなぁ?」

「月給5万!?週5日で残業ばかりで、月給5万!?

 それってブラック企業じゃないですか!信悟さんってブラック社長だったの!?」


「あははは!確かに、ブラックな待遇かもしれないけど…

 でも、ゲストハウスの住み込みスタッフって、どこも同じようなモンだよ?

 ニライカナイは賄い(食材)が付くから、親切なほうだよー。」

「マジですか!?それって軽く、ボランティアですよね?」

「うん。ボランティアって思ってる。みんなそうじゃないかなぁ。

 ゲストハウスで住み込みスタッフやるヒトたちは、みんな、

 お金なんて求めていないんだよー。」


「えー?じゃぁ何を求めてるの??」

「うーん。どう言えばいいんだろ…

 『生きがい』かなぁ。」

「生きがい!?」

「うん。生きがい。

 ワカ、この宿でスタッフやらせてもらったこの1ヶ月間が、

 ひょっとしたら、人生で一番楽しかったかも?

 ううん、1ヶ月スパンで言うなら、間違いなくそう。

 ワカの前にスタッフやってたミキティも、そう言ってた。そういう笑顔してた。」


「どうして?どうして無給なのに幸せ??」

ユカは、200円下がるだけでもブルーなのに。

「えー、わかんないかなぁ?

 『お金で買えない幸せ』っていうのが、世の中にはあるでしょ?

 っていうか、

 ユカちゃんたち、ゲストハウスに泊まったことないの?」

「え、ありますよ。

 でも、まだ昨日が初めてなんですけどね(汗)」

「1日でも経験したなら、タブンすぐに理解できるよ。

 昨日、楽しい体験しなかった?宿のヒトとおしゃべりしたりしなかった?」

「あー!

 …あー!!

 泣くほど…死ぬほど…ステキな思いをしました!!!」

「でしょう?

 お洗濯とかしていない時間は、

 お客さんと同じようにくつろいで、おしゃべりしていられるんだ。

 それで、楽しい出会いやおしゃべりがたくさん。

 それが毎日続くんだよ?どんだけ幸せだと思う!?

 みんなが1泊2,000円払って経験してるハッピーを、

 ちょっとお手伝いするだけで、無料で体験できちゃう!

 それって、ブラックっていうか、むしろメチャクチャお得だったりしない!?」

「そうかぁ…!」


「たいていどこのゲストハウスでも、

 ステキなお客さんがいっぱい来て、ステキな出来事がいっぱいある。

 だから、どこのゲストハウスでも、

 無給のスタッフ枠が、いっつも埋まり続けてるんだよ。

 誰もみんな、無給でも不当に感じないんだ。

 それってつまり、『得るモノのほうが大きい』って思ってるってコトでしょ?」

「…でも、

 たとえば1年も無給スタッフを続けたら、貯金がカラッポじゃないですか?

 みんなそんなにお金持ちなの?」

「だから、どこの住み込みスタッフも、1ヶ月とかの期間設定があるよ。

 どんなに楽しくても名残惜しくても、1ヶ月で終了。で、交代。

 でも1ヶ月程度であれば、貯金がカラッポになること、ないでしょ?

 だから誰も、大きく困ったりはしてないよ。

 1ヶ月も普通に沖縄滞在したら10万くらいはお金飛んじゃうから、

 宿泊費食費が無料になるだけでも、むしろお得だったりするんだよ。

 沖縄の安宿は、そういうシステムで回ってるんだぁ。

 東京では考えられないことだけど、沖縄のゲストハウスは、それがアリなんだよぉ。」



ワカちゃんは、笑顔のステキな女性でした。

別に何の特技もなくて、高学歴でもなくて、

ユカとよく似てる。

ワカちゃんはユカにとって、とても身近に感じられました。


『沖縄クロスロード』

bottom of page