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エピソード28 『名もなき町で』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月16日
  • 読了時間: 3分

エピソード28

僕は、店造りから急転直下、大急ぎで出ていく準備をはじめた。

オーラソーマをここに置いていきたくはないので、

ようこママに寄贈することにした。デジタル一眼レフと一緒に。

ようこママならきっと、有効活用してくれるだろうさ。

ようこママなら、タダであげても納得できるさ。(50万円以上するんだよ)


その2つの宝物を手放してみると、

僕はこの際、もっと身軽になりたくなった。

持参していたリュックサックをひっくり返して、

中の物をあらかた焼却炉に捨ててみた。

リュックサックそれ自体も、捨ててしまった。

学生時代から愛用してた、思い入れの深いリュックだったんだけどさ。


残ったのは、

ウェストバッグとパスポート、せっけん、歯ブラシ、

長ズボンが1枚。Tシャツとトランクスが2枚。タオルが1枚。

財布の中にはお金が1万円ちょっと。

それだけ。

僕の所持品と資産は、およそ、それだけになった。



次に行くアテは無かった。

イザリーヌの坂を200mも上れば、お遍路道に突き当たるから、

当初のアイデア通り、とりあえずはお遍路歩きをしてみることにしたよ。


最初は日陰が続いた。峠を少しずつ少しずつ、下っていった。ラクなもんだ。

途中で海が見えて、また山の中に入った。

車通りは結構あるよ。そんなに辺鄙じゃない。

歩きお遍路さんの姿は、全く見えない。前にも後ろにも。

シティマラソンとは違うんだ。ランナーが沿道を埋め尽くしてたりはしない。



不意に、ピピ!っとクラクションが鳴った。

呼ばれてると感じて振り向くと、

高級そうな白い車に、40歳くらいの女性が一人で乗ってた。

「どこまで行くの?乗せていってあげようか?」

ソバージュをはためかせながら、女性はそう、愛想よく言った。

不審者だとは思わなかったけど、僕は丁重にお断りした。

お遍路ってのは、どこかにたどり着くために歩いてるわけじゃない。

歩くために歩いているのだから。

まぁ、もっとも、

彼女は僕をお遍路だとは思わなかったのかもしれない。

僕の格好は、フツウのお遍路さんとはあまりにもかけ離れてるから。


フツウ、お遍路さんってのは、

ハッピみたいな白装束を着て、三角の帽子をかぶって、

杖をつき、大きなバックパックを背負って歩いてる。

バックパックじゃなければ、中学生の学生カバンみたいのを、たすき掛けにしてる。

対して僕は、

Tシャツに綿パン、腰にウエストバッグを巻いてるだけ。

三角笠もかぶってなけりゃ、杖もついてない。

およそ、近所の兄ちゃんがコンビニに行くような格好だ(笑)



歩きはじめたのは昼の12時頃だった。

そして4時間も歩くと、僕はもうバテバテだった。

とても恥ずかしいハナシだけど、それが僕の現状だった(笑)

フツウ、お遍路さんたちは一日に14時間くらいは歩く。40キロは歩く。

イザリーヌでけっこう体力作りしたつもりだったんだけど、

たかが知れてた(笑)


粗末な浜辺があったから、寄り道してみた。

トランクス一丁になって、ザブンと海に飛び込む。

真夏の日差しで火照り汗だくになった体には、とても気持ち良かった。


どこに行きたいわけでもなく、急いでるわけでもない。

けれども、何かしらチェックポイントのようなものには達したかった。

道ばたで寝るわけにもいかないし(笑)

だから、まだまだ頑張って歩いた。



すっかり日も暮れた頃、

僕は、なにやら見覚えのある場所に辿りついた!


由岐駅だ(笑)


お遍路道は、伊座利から由岐駅へと伸びていたんだ。

僕は1ヶ月も掛かって、またココに戻ってきちゃった。

もう、この駅の硬いベンチで寝ることなどナイと思ってたんだけどなぁ(笑)

「やぁ、久しぶりだね!」

僕は、由岐駅の無数の蚊たちにさわやかにあいさつした。


『名もなき町で』

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