エピソード3 『「おとぎの国」の歩き方』
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- 2023年3月5日
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荷物を置いて一息ついたなら、散歩にくり出してみる。
目的地なんかいらないよ。地図もいらない。
宿の玄関を出ると、そこは細い路地だけど、
こうした細い路地には、観光地といえども、まだ生活の匂いが残ってる。
薄汚れた壁にはロープが張られ、洗濯物が干してある。
女性もののパンツやブラだって、おかまいなしに干してある。
その洗濯物のすぐ横で、
誰かが小さな焚き火をしてる。今はいた落ち葉を、燃やしてんのさ。
日本じゃ考えられないことだけど、
インドの住宅街の狭い路地では、そこかしこで小さな焚き火が燃えてるよ。
干したパンツが灰臭くなるけど、いいのかな?いいらしいよ。
細い路地裏には、女性の姿が多い。
パンツが灰臭くなっても気にしない割に、みんな煌びやかなサリーで着飾ってる。
清潔観念は低いけど、美意識は高い。
美意識は高いけど、清潔観念は低い。
そのように見える。
インドの女性は、普段何やってんだろう?
発展途上国の女性には、働き者が多いんだけどさ?
インドの女性はどうも、それとは違うように見えるよ。
男に養ってもらうことばっかり考えてるし、
新しいサリーを買うことばっかり考えてる。ように見える。
60歳くらいになると、働き者になりはじめる。
洗濯物干したりするし、道をほうきで掃いたりする。
若い女性は、何やってんだろう?
メイン通りまで出ると、とたんに騒がしくなる。
メイン通りには、男たちの姿が多い。
商店でサンダルを売るのも男だし、角(かど)でチャイを売るのも男。
そして、僕ら旅行者に声を掛けてくるのも、もっぱら男たちだ。
それはたいてい、リキシャのドライバーだよ。
狭い一角に、飽和するほどリキシャがいる。
そして、旅行者の気を引くためにクラクションを鳴らし、
また、前のリキシャをどかすために、クラクションを鳴らす。
だから、ものすごくうるさい!苦しいくらいだよ。うるさい。
牛も闊歩してる。
インドでは、牛は神聖な生き物だと言われていて、
神もモラルもないほどダーティに暮らしてるわりに、
牛は殺さず、蹴りも殴りもせずに、住宅街で共生してる。
牛は、神のようにお上品だったりはせず、そこかしこに糞尿を垂れ流してる。
ときどき、どっかの婆ちゃんが掃いて掃除してるけど、とても追っつかない。
さらに、男たちは道端のあちこちで立ちションをするんだ!
だから、コルカタの町はすっごい臭い。
排気ガス臭い街なら、発展途上国にいっくらでもあるけど、
さらに糞尿の臭さまで立ち込めるカオスは、インドくらいじゃないかな。
そのうえ喧々騒々やかましいんだから、カルチャーショックもこの上ないよ。
道で見かける動物は、牛ばっかりじゃない。
食肉にして売るんだろうか、
どっかの少年が道の真ん中まで出てきて、
見世物みたいにヤギの屑殺(とさつ)とかやってる。血が飛び散る。
ヤギじゃなければ鶏が、大量に網の中に入れられ、順番待ちをしている。
とにかく、色んなものを見るよ。
道端で眠ってるオッサンなんてそこかしこに居るし、
ホームレスの母子が、やたら幸せそうに笑ってるのを見たりする。
マニーマニー!と言い寄ってくるガキんちょたちはやたらしつこいし、
薄汚れた手で容赦なく、こっちの服を引っ張りまくる。
カレー屋で「ノンスパイシー、プリーズ!」って言ったって、
辛いカレーが出てくる。
カレーならまだしも、チョーメン(焼きそば)でさえ、
「ノンスパイシー、プリーズ」って言っても辛いのが出てくる。
廃車かと思えた泥だらけのタクシーが、不意に動きだしてビックリさせられる。
客から金取って走ってんのに、100年も洗車してないってことだよ。
清潔観念はとにかく低い。どんだけヒマがあったって、掃除はしないんだ。
男たちが道端でやるのは、ションベンだけじゃない。
なぜか、体の洗い場まで道端にあったりする。ポンプ井戸が4つくらい並んでんのさ。
もともとは、洗濯場なんじゃないかと思うけどね。洗濯主婦たちは追いやられて、
男たちがしこしこと、体を洗ってる。
つまり、家には風呂場とかナイのかもしれないよ。だから、国だか市だかが、
公共設備として、ポンプ井戸を設置してんだろうさ。
何の宗教宗派だかわかんない、白装束・白アゴヒゲの爺さんとか、見かける。
南インドに行くと、もっとスゴいらしいよ。
ジャイナ教の修行者は、素っ裸で町を闊歩してるらしいからね!
酔っ払いじゃないよ?熱心な求道者が、素っ裸で外をほっつき歩くんだ。
もっともっと色んなモノを見て、笑ったり悲しくなったり鼻つまんだりしたけど、
なにぶんけっこう前のことだからさ。もうけっこう忘れちゃったよ。
普通、東南アジアなどの発展途上国は、
時代が進むにつれて、快適になり、面白みを失くしていくんだよ。
今やバンコクなんて、東京と大差ナイしね。
でも、インドだけは違うんだ。
この国はきっと、時代が進めば進むほど、面白みを増してくよ。
この国だけは、大して変化しないからさ。
日本やタイがどんどん進歩しても、この国だけは相変わらず100年前のままでさ。
すると、相対的に、原始性が増していく。冒険性も増していく。
タイのトイレがウォシュレットになる日が来ようとも、
タイムスリーのトイレは便座が無くて、黒ずんだままだろうさ。
すると、世間との格差は広がる一方さ。カルチャーショックはどんどんデカくなる。
ヘンな国だよ。
でも、こういう国が1つくらいあっても、面白い。
…もちろん、
インドにもコルカタにも、高級ホテルはあるんだけどね?
『「おとぎの国」の歩き方』



