エピソード3 『「おとぎの国」の歩き方』
荷物を置いて一息ついたなら、散歩にくり出してみる。
目的地なんかいらないよ。地図もいらない。
宿の玄関を出ると、そこは細い路地だけど、
こうした細い路地には、観光地といえども、まだ生活の匂いが残ってる。
薄汚れた壁にはロープが張られ、洗濯物が干してある。
女性もののパンツやブラだって、おかまいなしに干してある。
その洗濯物のすぐ横で、
誰かが小さな焚き火をしてる。今はいた落ち葉を、燃やしてんのさ。
日本じゃ考えられないことだけど、
インドの住宅街の狭い路地では、そこかしこで小さな焚き火が燃えてるよ。
干したパンツが灰臭くなるけど、いいのかな?いいらしいよ。
細い路地裏には、女性の姿が多い。
パンツが灰臭くなっても気にしない割に、みんな煌びやかなサリーで着飾ってる。
清潔観念は低いけど、美意識は高い。
美意識は高いけど、清潔観念は低い。
そのように見える。
インドの女性は、普段何やってんだろう?
発展途上国の女性には、働き者が多いんだけどさ?
インドの女性はどうも、それとは違うように見えるよ。
男に養ってもらうことばっかり考えてるし、
新しいサリーを買うことばっかり考えてる。ように見える。
60歳くらいになると、働き者になりはじめる。
洗濯物干したりするし、道をほうきで掃いたりする。
若い女性は、何やってんだろう?
メイン通りまで出ると、とたんに騒がしくなる。
メイン通りには、男たちの姿が多い。
商店でサンダルを売るのも男だし、角(かど)でチャイを売るのも男。
そして、僕ら旅行者に声を掛けてくるのも、もっぱら男たちだ。
それはたいてい、リキシャのドライバーだよ。
狭い一角に、飽和するほどリキシャがいる。
そして、旅行者の気を引くためにクラクションを鳴らし、
また、前のリキシャをどかすために、クラクションを鳴らす。
だから、ものすごくうるさい!苦しいくらいだよ。うるさい。
牛も闊歩してる。
インドでは、牛は神聖な生き物だと言われていて、
神もモラルもないほどダーティに暮らしてるわりに、
牛は殺さず、蹴りも殴りもせずに、住宅街で共生してる。
牛は、神のようにお上品だったりはせず、そこかしこに糞尿を垂れ流してる。
ときどき、どっかの婆ちゃんが掃いて掃除してるけど、とても追っつかない。
さらに、男たちは道端のあちこちで立ちションをするんだ!
だから、コルカタの町はすっごい臭い。
排気ガス臭い街なら、発展途上国にいっくらでもあるけど、
さらに糞尿の臭さまで立ち込めるカオスは、インドくらいじゃないかな。
そのうえ喧々騒々やかましいんだから、カルチャーショックもこの上ないよ。
道で見かける動物は、牛ばっかりじゃない。
食肉にして売るんだろうか、
どっかの少年が道の真ん中まで出てきて、
見世物みたいにヤギの屑殺(とさつ)とかやってる。血が飛び散る。
ヤギじゃなければ鶏が、大量に網の中に入れられ、順番待ちをしている。
とにかく、色んなものを見るよ。
道端で眠ってるオッサンなんてそこかしこに居るし、
ホームレスの母子が、やたら幸せそうに笑ってるのを見たりする。
マニーマニー!と言い寄ってくるガキんちょたちはやたらしつこいし、
薄汚れた手で容赦なく、こっちの服を引っ張りまくる。
カレー屋で「ノンスパイシー、プリーズ!」って言ったって、
辛いカレーが出てくる。
カレーならまだしも、チョーメン(焼きそば)でさえ、
「ノンスパイシー、プリーズ」って言っても辛いのが出てくる。
廃車かと思えた泥だらけのタクシーが、不意に動きだしてビックリさせられる。
客から金取って走ってんのに、100年も洗車してないってことだよ。
清潔観念はとにかく低い。どんだけヒマがあったって、掃除はしないんだ。
男たちが道端でやるのは、ションベンだけじゃない。
なぜか、体の洗い場まで道端にあったりする。ポンプ井戸が4つくらい並んでんのさ。
もともとは、洗濯場なんじゃないかと思うけどね。洗濯主婦たちは追いやられて、
男たちがしこしこと、体を洗ってる。
つまり、家には風呂場とかナイのかもしれないよ。だから、国だか市だかが、
公共設備として、ポンプ井戸を設置してんだろうさ。
何の宗教宗派だかわかんない、白装束・白アゴヒゲの爺さんとか、見かける。
南インドに行くと、もっとスゴいらしいよ。
ジャイナ教の修行者は、素っ裸で町を闊歩してるらしいからね!
酔っ払いじゃないよ?熱心な求道者が、素っ裸で外をほっつき歩くんだ。
もっともっと色んなモノを見て、笑ったり悲しくなったり鼻つまんだりしたけど、
なにぶんけっこう前のことだからさ。もうけっこう忘れちゃったよ。
普通、東南アジアなどの発展途上国は、
時代が進むにつれて、快適になり、面白みを失くしていくんだよ。
今やバンコクなんて、東京と大差ナイしね。
でも、インドだけは違うんだ。
この国はきっと、時代が進めば進むほど、面白みを増してくよ。
この国だけは、大して変化しないからさ。
日本やタイがどんどん進歩しても、この国だけは相変わらず100年前のままでさ。
すると、相対的に、原始性が増していく。冒険性も増していく。
タイのトイレがウォシュレットになる日が来ようとも、
タイムスリーのトイレは便座が無くて、黒ずんだままだろうさ。
すると、世間との格差は広がる一方さ。カルチャーショックはどんどんデカくなる。
ヘンな国だよ。
でも、こういう国が1つくらいあっても、面白い。
…もちろん、
インドにもコルカタにも、高級ホテルはあるんだけどね?
『「おとぎの国」の歩き方』


