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エピソード3 もっと楽しい学校

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月10日
  • 読了時間: 5分

エピソード3 もっと楽しい学校


新しい町の学校は、ロンドンのそれよりはマシであった。

しかしそれでも、ミシェルの満足に値するものではなかった。

ミシェルはその落胆(らくたん)を、ナンシーに打ち明けた。

ナンシーは、例の教会ゴスペルで仲良くなった地元の少女で、

ミシェルよりも年上の11歳であった。

「もっと楽しい学校を、ミシェルに紹介するわ♪」

満面の笑みを浮かべて、ナンシーはミシェルに言った。


その日の放課後、

ミシェルはナンシーに連れられて、川向こうまで遠出した。

ミシェルを待っていたのは、

広大な市民公園のはずれにある、ボロボロの天体観測場であった。

「これが学校!?」

ミシェルは目を丸くした。どう見ても廃墟(はいきょ)である。

「そうよ♪げんみつに言うと、学童みたいな施設でしょうけど、

 私たちは『学校』って呼んでるわ。いろんなこと学べるから。」

ナンシーはとまどうミシェルの手を引いて、扉(とびら)の奥へと入っていった。


エントランスに入って、ミシェルはさらにおどろく。

ボロボロの外観とは打って変わって、思いのほかきれいに飾りつけられている。

「いったいどういう施設なの!?

 町長さんはオンボロしか買えなかったの!?」

「あははは違うわ!町長さんが造ったんじゃないの。

 私たちが造ったのよ。子供たちが。」

「子供たちが?こんな立派なのを!?

 子供なのに、よくそんなことできたね!?」

「逆よ。子供のほうがやりやすいの。

 犯罪めいたことやっちゃったとしても、おとがめだけで済むでしょ?

 いつも重たいランドセル背負ってるから、体力もあるし。

 たぶん、12歳の女の子って、世界で一番強いのよ。」

「そうなの!?」

「そうよ。それで、二番目に強いのは小学1年生の子たちよ。」

「どういうこと??」

「(普通の)小学校がいかにゲンメツなところかって、一番よく知ってるから。

 だから1年生っていうのは、一番ステキな理想を持ってるの。

 大切なのは、その理想が間違ってないって賛同(さんどう)してあげることよ。

 そんで、あなたたちの頭の中にある理想世界を、12歳が手伝ってあげること。

 11歳でもいいけど。」


ナンシーは講釈(こうしゃく)を終えると、2つ目の重たいドアを押し開けた。

中は広いホールであったが、子供たちがところせましと遊びまわっていた。

学年はてんでバラバラと見受けられる。

遊具はたいていオンボロで、それかつたない手作りであった。

その遊具を、今まさに作っている者たちもいる。

中には、勉強にはげんでいる者もいる。教えているのは…やはり子供だ。上級生である。

とにかく、子供たちが作り、子供たちが教え、子供たちだけで遊んでいる。

「学童ね、やっぱり。学校じゃないわ。」ミシェルは言った。

「そう?でもここで、学校と同じくらい勉強していく子もいるわ。」

「このやかましい中で?」

「そうよ。人間、夢中になったら周りの雑音なんて気にならなくなるものよ。

 みんなで同じ授業やってるほうが、はかどるかしら?そう思う?」

「あ!

 そう思わない…。」

ミシェルはロンドンでの学校生活を思い出した。

みんながプリントを終えるのを待っているのは、おっくうで仕方なかった。

「まぁでも、やっぱりここは学童よ。放課後のヒマつぶし。

 勉強は基本、学校でやるの。それがいいわ。」

「どうして?私、勉強もここでやりたいかも。」

「ミシェルはここでもいいかもね。難しい本読めちゃうんでしょ?

 でも、たいていの子はそうじゃないわ。

 体育や図工はここで学べるけど、国語や算数はやろうとしないからね。

 学校で先生に引っぱたかれないと、やっぱ勉強しないのよ。たいていの子は、ね。」

「ふぅん。」

「学校にモンク言うだけじゃダメなのよ。

 学校はたしかに欠点だらけだけど、かといって子供たちだって、欠点だらけでしょ?

 自分ひとりじゃ起きれないし、字だって覚えられないし。

 学校にモンク言っていいのは、自分で何でもできるようになってからよ。」

「ナンシーあなた、何でそんなに頭がいいの!?

 哲学(てつがく)者か、それか仙人(せんにん)みたい!」

「うふふ。仙人じゃないわ。ホームレスよ!」

「え??

 ナンシーあなた、ホームレスなの?おうちあるでしょ?」

「うふふ。私がじゃないわ。ウィリアムスさんのことよ。」

「ウィリアムスさん?」

「そう。ここにも一人だけ、大人がいるの。まぁだれよりも子供みたいだけど!

 その人がウィリアムスさん。ウィリアムスさんはホームレスなの。

 市民公園の公衆トイレの裏で、レジャーシートの家作って、寝泊りしてるのよ。

 そのウィリアムスさんが、みんなに遊びを教えてくれてるの。

 ときには勉強も教えてくれるし、哲学も聖書も教えてくれる。」

「それで、いくら取るの?乞食(こじき)なんでしょ?」

「いくらも取らないわ!タダよ。ボランティアっていうやつ。

 そもそも、乞食じゃないわ。お金は持ってないけど、乞食したりしないの。

 でもお金ないのかわいそうでしょ?

 だから私たち、市長さんにお願いしに行ったの。

 『ウィリアムスさんにお給料はらってあげてください!』ってね。」

「無理でしょそんなの!乞食なんて汚らしいもの!お金払うはずないわ。」

「乞食じゃないんだってば!汚らしくもないの!」

「だってトイレの横に住んでるのよ?」

「そうよ?トイレの横だから、一日に100回も体洗えるわ。

 ホームレスでヒマだから、一日に100回もトイレ掃除できるし。

 とにかくよ。市長さんはちゃんと見に来てくれたの。

 ウィリアムスさんがいかに子供たちにしたわれてるか、いかにトイレ掃除してるか、

 いかに体を清潔にしてるか。

 それで、ウィリアムスさんにお金はらうことにしたのよ。」

「ウソでしょ!?乞食にお給料はらうの!?」

「だから乞食じゃないんだってば!ホームレスだけど乞食じゃないの。

 私たち、子供たちみーんなで、市長さんにお願いしに行ったの。

 そしたら市長さん、動いてくれたのよ。

 言ったでしょ?子供がやったほうが上手くいくのよ。こういうことって。

 さすがに、『学校』っていうことにはならなかったわ。制約がいろいろあるのよ。

 でも『学童』なら難しい決まりも無いから。学童の名目でお給料出ることになったの。」

 「信じられない…!!」

「なんでもカンでも、子供たちがやればいいのよ。

 エントランスのソファも、子供たちがゴミ捨て場から拾ってきたの。

 ウィリアムスさんがやったら犯罪になって捕まっちゃうけど、

 子供たちが『秘密基地造りたいの』って言ったら、だれも怒りはしないのよ。

 ホールにある物もエントランスにある物も、ほとんど拾ってきたものよ。それか手作り。

 あそこのチョウチョのシェードランプだってそうよ。拾い物。

 それでもこんだけりっぱに仕上げて披露(ひろう)してやったら、

 『まぁステキ!』って、ホメ言葉しか言われないの。子供って、何でもアリなのよ。」


ウィリアムスの学校は実際、学校であり学童であった。

たいていの子供は、放課後のひまつぶしや保護を求めて、ここに来る。

しかし中には、正規(せいき)の学校にはほとんど通わず、朝からここに来る者もいた。



『ミシェル』

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