エピソード4 『「おとぎの国」の歩き方』
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- 2023年3月5日
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僕はコルカタの喧騒に飽きると、
さらに北東の町ビハーリーに向かうことにした。
ビハーリーなんて、観光客は誰も行かないだろうけどね。
何でビハーリーかって?
ブータンに入国できる可能性があるからさ。
ブータンって知ってる?
「アジア最後の秘境」とか言われてる、マイナーで質素な国だよ。
よく知らないけど、質素で田舎な国さ。ラオスよりもさらに田舎だよ。
なにしろ、1999年まで、テレビが禁止されてたらしいからね!
そりゃいいコトだよ。なぜって?
人間、テレビを観るようになっちゃったら、みーんなアメリカのマネしはじめるからさ。
みーんな、どこもかしこもアメリカナイズされてっちゃう。個性が死ぬんだ。
アメリカナイズってわかる?
iPhoneとマックとスタバとナイキで埋め尽くされちゃう現象のことさ。
だから、テレビを観てない人たちの暮らしなんてのは、楽しいさ。個性がある。
テレビはさらに、あっちこっちの秘境を紹介しちゃうから、
飛行機が飛び交うこの時世、秘境なんてほとんどありはしないんだけど、
ブータンって国は、外国人観光客を煙たがる国なのさ。
入れないこともないけど、
旅行会社で予約して、ガイド付き添いじゃなきゃ入国できない。
入国したって、常にずーっとガイドの監視下でなきゃ、観光できない。
そのクセべらぼうな料金を取るから参加者はそう多くなく、今だにけっこう、秘境だよ。
チベットよりもさらに、観光客が少ないんじゃない?
別に、ただブータン観光したいだけなら、金払ってツアーに参加したらいいんだ。
でも僕は、それじゃ物足りなかったんだよね。
観光客の踏み荒らした道だけ歩いたって、面白くないさ。
ツアーガイドの知ってる町だけ歩いたって、面白くないさ。
だから僕は考えた。
それで、ビハーリーってわけさ。
ビハーリーからは、ブータンへ続く道が伸びてるんだ。
陸路で、ブータンに入国できるんだよ。たぶん出来る。
何かしら、抜け道があるんじゃないかってさ。
そして僕はまず、コルカタのサダルストリートから、
北駅を目指すことにしたんだ。
ビハーリー行きの列車は、コルカタ郊外の北駅から出てるんだよ。
北駅までは、リキシャで行こうと思ったら、そうもいかなかった。
ちょっと距離があるから、まともなタクシーに乗ったほうが良いと言う。
仕方ないから、まともなタクシーとやらを探して、大通りを歩く。
「タクシー?タクシー?」と声を掛けられるから、振り返ってみると、
どれも白タクばかりさ。自家用車でタクシーのマネ事してんだよ。
黄色い正規のタクシーを見つけて、乗り込んでみるけど、
料金メーターは壊れてる。結局、白タクと変わらないんだ。
白タクのほうが立派な車持ってる場合もあるから、
正規か白タクかなんて、あんまこだわんないほうがイイよ。
北駅までの相場は500ルピーだってことだから、
400ルピーでOKだというヤツが見つかるまでは、粘ったよ。
で、その400ルピーの車に乗ってみたんだけどさ。
乗ってみたら、妙なことを言うんだ。
「うーん。今は工事中みたいだなぁ。迂回しなきゃならない。
距離が長くなってしまうから、600ルピーに変更だよ。いいね?」
うっっっさん臭い顔で言うんだ。ダンスミュージックとかガンガンかけてさ。
「は?工事って何?」
「知らないよ。オレは工事夫じゃないさ。
とにかく、何か工事してて渋滞してるから、
迂回しなくちゃならんのさ。600ルピー、いいね?」
「よくないよ!約束と違うってんなら、降りるさ!」
僕は、すでに走りはじめてる車のドアをこじ開けて、
強引に車から飛び降りた。
よくあるんだ。この手口。
だいたい、実際に工事中だったりお祭りしてたりで通行止めになってて、
それでまんまと信じこんじゃって、ヘタな額、払わされちゃうのさ。
僕は他の白タクを拾って、なんとか相場額で北ターミナルまでたどり着いた。
タクシー乗るときは、荷物をトランクに入れちゃいけないよ?
常に自分で抱えてたほうがイイ。いつでも降りれるようにさ。
君、「おとぎの国」に行きたいんだっけ?
君がもし、リキシャにダマされちゃうような人なら、水先案内人が必要だろうなぁ。
アリスだって、シルクハットかぶったウサギについていったろう?
ああいうのがいないと、道に迷って途方にくれるさ。
少なくとも、インドを抜ける程度のとこまでは、
誰か歴戦の猛者に守ってもらったほうがイイよ。
『「おとぎの国」の歩き方』



