エピソード4 『沈黙のレジスタンス』
「デニー、今日は何考えてんの?」
デニーは、彼の自慢の2階の部屋で、
あぐらをかいて手をアゴにあて、じーっと外を眺めていた。
彼のお決まりのポーズなんだ。眼光鋭く、タカのような目をしてね。
「家出の計画を練ってる。」
「家出?なんでまた。」
「いや、これといった理由は無い。」
「またなんか、悪さをやらかしたの?」
「いや、本当に何も無いんだ。さしせまったものでもないよ。
でも、そのうち家出が必要になるかもしれないだろ?
我が道を行こうとするなら、勘当されることだってあるだろうよ。
そんなとき、雨風しのげる場所があるなら、
心置きなく、戦えるってもんさ。
保険がないとダメなんだ。大胆なことができなくなっちまう。」
「でも、別に家出なんてカンタンじゃない?
僕らには、雨風しのげる洞穴なんて、いくらでもあるよ。」
「そうでもない。」
「なんで?」
「ただ雨風しのげるだけじゃ、だめさ。
『親に見つからない場所』である必要があるし、
『たとえ見つかっても、連れ戻されない場所』である必要がある。
本気で家出するなら、そういうアジトが必要だよ。
ここはもう親にバレてるし、ハシゴかければすぐ連れ戻される。
すると、他にもどこか、アジトを持っておいたほうがいいんだ。」
「ふうん。
ねぇ?僕もそこに住めるかな?」
「なんだよエニス?オマエこそ、何かやらかしたのか?」
「そうじゃないよ。」
「そうじゃないけど、何なんだ?」
「僕、引越すことになったんだ。」
「引越し!?どこにだ?ギョメルか?」
「ううん。もっともっと遠くだよ。セルチュクってところだって。」
「セルチュク。ずっと西だな。
…すると、オマエ…」
「そうだよ。デニーに会えなくなっちゃう。
僕、デニーと離れるのイヤだし、この村離れるのもイヤだ!」
「さみしいな。
でも、行ってこいよ。」
「え?引き止めてくれないの!?一緒に家出しようよ!」
「家出なんつうのは、3日かそこらの篭城にすぎんさ。
オマエが成人するまで面倒見てやるようなこたぁ、オレにはできないよ。
それに、他の町を見るのは悪くないと思うぜ?
うらやましいよ。代わってやりたいくらいだ。」
「うらやましい!?僕が?
本気で言ってるの!?」
「本気さ。オレはこの村が嫌いじゃないけど、
かといって、死ぬまでこの村しか知らないんじゃ、そんなのヘドが出るよ。」
「うらやましい…のか。引越しって。」
「見てこいよ。外の世界を。」
デニーの「うらやましい」が本音だったのか、それとも気休めだったのか、
そんなことは僕の知ることじゃない。
とにかく、あのときあんなふうに言ってもらえたことで、
僕はあまり悲しむことなく、苦しむことなく、この村を離れることができた。
別れのときに別れを悲しむのは、誰の得にもならないんだ。
デニーはそんなことも、僕に教えてくれたらしい。
『沈黙のレジスタンス』



