エピソード4 『沈黙のレジスタンス』
- ・
- 2023年3月8日
- 読了時間: 2分
「デニー、今日は何考えてんの?」
デニーは、彼の自慢の2階の部屋で、
あぐらをかいて手をアゴにあて、じーっと外を眺めていた。
彼のお決まりのポーズなんだ。眼光鋭く、タカのような目をしてね。
「家出の計画を練ってる。」
「家出?なんでまた。」
「いや、これといった理由は無い。」
「またなんか、悪さをやらかしたの?」
「いや、本当に何も無いんだ。さしせまったものでもないよ。
でも、そのうち家出が必要になるかもしれないだろ?
我が道を行こうとするなら、勘当されることだってあるだろうよ。
そんなとき、雨風しのげる場所があるなら、
心置きなく、戦えるってもんさ。
保険がないとダメなんだ。大胆なことができなくなっちまう。」
「でも、別に家出なんてカンタンじゃない?
僕らには、雨風しのげる洞穴なんて、いくらでもあるよ。」
「そうでもない。」
「なんで?」
「ただ雨風しのげるだけじゃ、だめさ。
『親に見つからない場所』である必要があるし、
『たとえ見つかっても、連れ戻されない場所』である必要がある。
本気で家出するなら、そういうアジトが必要だよ。
ここはもう親にバレてるし、ハシゴかければすぐ連れ戻される。
すると、他にもどこか、アジトを持っておいたほうがいいんだ。」
「ふうん。
ねぇ?僕もそこに住めるかな?」
「なんだよエニス?オマエこそ、何かやらかしたのか?」
「そうじゃないよ。」
「そうじゃないけど、何なんだ?」
「僕、引越すことになったんだ。」
「引越し!?どこにだ?ギョメルか?」
「ううん。もっともっと遠くだよ。セルチュクってところだって。」
「セルチュク。ずっと西だな。
…すると、オマエ…」
「そうだよ。デニーに会えなくなっちゃう。
僕、デニーと離れるのイヤだし、この村離れるのもイヤだ!」
「さみしいな。
でも、行ってこいよ。」
「え?引き止めてくれないの!?一緒に家出しようよ!」
「家出なんつうのは、3日かそこらの篭城にすぎんさ。
オマエが成人するまで面倒見てやるようなこたぁ、オレにはできないよ。
それに、他の町を見るのは悪くないと思うぜ?
うらやましいよ。代わってやりたいくらいだ。」
「うらやましい!?僕が?
本気で言ってるの!?」
「本気さ。オレはこの村が嫌いじゃないけど、
かといって、死ぬまでこの村しか知らないんじゃ、そんなのヘドが出るよ。」
「うらやましい…のか。引越しって。」
「見てこいよ。外の世界を。」
デニーの「うらやましい」が本音だったのか、それとも気休めだったのか、
そんなことは僕の知ることじゃない。
とにかく、あのときあんなふうに言ってもらえたことで、
僕はあまり悲しむことなく、苦しむことなく、この村を離れることができた。
別れのときに別れを悲しむのは、誰の得にもならないんだ。
デニーはそんなことも、僕に教えてくれたらしい。
『沈黙のレジスタンス』



