top of page

エピソード6 『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月21日
  • 読了時間: 3分

エピソード6

4時間もすると、名護のバスターミナルに到着しました。

時間は昼の3時過ぎ。まだまだ暑い時間です。


バスターミナルに降りたのは、僕一人だけ。

結局あれから、誰ひとり乗っては来ず、

僕の専用送迎車のような格好になりました。


たった2,000円足らずで客1人だけを4時間も運ぶなんて…

いったい、儲けは出るんでしょうか。

要らぬ世話だとはわかっていますが、でも、心配にならずにはいられませんでした。

こんな非効率的な運営、超資本主義の都心では、考えられません。


僕がバス会社の経営者であるなら、

こんな過疎った路線は、すぐに廃止します。それが健全な効率経営というものでしょう。

お給料を払えなくなってしまったら、運転手がかわいそうだ。

…いや、どうなんだ?

そしたら、名護に行きたいお客さんは、

4時間もタクシーのメーターとにらめっこしなくてはならないのか?

4時間…何万円か、ひょっとすれば何十万円にも達するのか!?

それはいくらなんでも、かわいそうだ。


あれ!?いったい、どっちが正しいんだろう!?

どちらも正義のように思えるし、どちらも間抜けなようでもあるし…



僕は、このようなとりとめのないことを、

名護バスターミナルの待ち合いベンチに座って、

ぼーっと考えこんでしまっていました。

すると、

灰色の襟付きシャツの裾をだらしなく出したおっちゃんに、

声を掛けられました。

「おめぇ、どしたー?バス酔いでもなったかー?」

そして、冷たいポカリを1本、僕の前にそっと置いてくれました。

「いや、別に問題ありません。元気ですよ。」

僕は、苦笑いしながら答えました。

「元気じゃねぇんだよおめぇは。

 体は元気でも、心が病んでんだぁ。

 若ぇの、東京モンだろう?」

「いえ、違います。千葉です。」

「ばぁか!千葉も東京モンなんだよ!

 おめぇ、細かいことにこだわり過ぎてんだろう?早死にするぞ!」

「そうなんですか?じゃぁ、東京モンです。

 おじさんは、地元の方ですか?まだ昼間だけど、お仕事は?」

「バリバリ働いてんじゃんかよぉー。

 オレぁ、バスターミナルの職員さぁ。」

「おじさん、バス会社の職員!?」

僕はてっきり、ヨッパライの冷やかしかと思ってしまっていた…

「職員だよぉ!

 だからおめぇさんのこと心配して、声かけてんじゃねぇかよぉ。」

「あ、ありがとうございます!

 でもおじさん、シャツの裾を出してたりしたら、信頼を損ねてしまうかも…」

「アホかぁ!シャツに信頼もクソもねぇさぁ。

 このクソ暑いのに、几帳面にブレザー羽織る東京モンのバス会社のほうが、

 頭おかしいんじゃねぇかって、信頼できんわぁ。」

「でも、おじさん。

 失礼ですけど、僕、おじさんの格好見て、ヨッパライかと思っちゃって…。」

「かまわんさぁ。ヨッパライの何が悪い?

 ヨッパライと思われようが、オレはオレの仕事をするさぁ。」

「オレの仕事って?」

「だから、バスターミナルの職員よぉ。

 この敷地で困ってるヤツがいれば、誰でも助けちゃる。

 おめぇ、よぉ考えてみ?

 几帳面にブレザー着て、んでも何もせんヤツと、

 ヨッパライみたいな格好してて、んでも病人にポカリ差し入れるヤツと、

 どっちが真面目なん?どっちが、働いてん?」

「あ…!?」

確かに、

都心のバス停で体調崩して座り込んでいても、

ポカリを差し入れてくれる従業員なんて、誰もいない…

みんな、そんなのほったらかしだ。


『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

bottom of page