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エピソード8 『名もなき町で』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月16日
  • 読了時間: 3分

エピソード8

田舎のライブ喫茶だから、毎日ライブが組まれてるわけじゃない。

土日はたいてい埋まってるけど、平日はノーステージの日も多い。

ライブがなくたって、常連さんたちは代わる代わるやってくる。

ある人はギターの練習をしに、

ある人は試験勉強をしに、

ある人は夕飯を食べに、

ある人はようこママにお悩み相談しに、

この店にやってくる。

何の用事もなくたって、

仕事帰りにチョコっと寄って、

コーラだけ注文してジェシーにあいさつして、それで帰っていく。

常連さんたちにとって、この店は、

ライブハウスという枠を超えてるし、喫茶店という枠も超えてるんだよ。

学校に近いような日常性がある。学校というか、「部活」かな。

すごく面白い空間だよ!



ジェシーやようこママが、エロスも含めてノータブーだから、

常連客たちは、色んなことをこの店で試している。

際立つのは、たっちゃんだなぁ。


たっちゃんは、22歳の男の子で、教員免許を取るために勉強してる。

教師になりたいらしい。

そして彼は、教室の教壇に上がる前に、

この店のステージを利用して、教師風情なことにチャレンジしているんだ。


たっちゃんは、照れくさいのか、

そのイベントのときだけは、みっちり女装して「タツコ」を名乗る。

そしてマツコ・デラックスみたいな毒舌オカマキャラで、ライブイベントを仕切る。

音楽ライブなのに、まず最初に、お客みんなに小テストをやらすんだ(笑)

中学生レベルくらいの、フツウに難しい問題が10コくらい並んでて、

お客はみんな、そのテストに真剣に取り組む。みんな真剣にやる。

タツコはそれを回収すると、出演者がライブしてる間に、採点をする。

そしてMCのときに、珍回答を披露しながら客をつつき、笑いを誘う。

ほんの3時間の間に、

「ライブ」と「勉強」と「エンターテイメント」を、一挙に仕切ってしまう!

恐ろしく優秀な22歳だよ!

フツウ、22歳の教師なんていうのは、生真面目に授業やることしか考えてないさ。

たっちゃんは、22歳にしてすでに、

フリースクール的な総合教育の感性を、会得してしまってる!!



たっちゃんには、かわいい彼女がいるんだ。

ホントにホントに可愛い顔してて、ジェシーのお気に入りなんだ(笑)

チエちゃんは、幼稚園の先生をしてる。

すごく寡黙で、おっとりしてる。

効率主義のこの社会には不似合いな子で、だからあんまり自信が無いみたい。

でも、彼女もすごく多彩だったりするんだよ。

チエちゃんはよく、

店でレモンティーを飲みながら、幼稚園の日報を書いてるんだけど、

それがものすごくハイクオリティなんだ!

ものすごく時間をかけて、ものすごく丁寧に、ものすごく色鮮やかな日報を仕上げる。

幼稚園では、「作業が遅い!」とダメ出しされるらしいんだけど、

僕から見れば、彼女の日報は多彩な能力で溢れかえってる!



たっちゃんはジェシーを師匠のように慕っているし、

チエちゃんはようこママを母親のように慕ってる。

だから2人は、毎日のごとく店に来て、店番までやってたりする。

このカップルが2人とも教育関係者だってのが、興味深いよ。

ひょっとしたらこの店は、いずれは幼稚園や学校の機能も併設してしまうかも。

「店」を超えて「村」規模の複合性を、この店は網羅してしまうのかも!?


『名もなき町で』

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