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エピソード8 『星空のハンモック』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月20日
  • 読了時間: 2分

エピソード8

祈りが済むと、すぐに引き返す。

「少し、海見ながら休んでいってもいい?」

「いいですよ。」

私たちは、ヤハラヅカサの石碑が見えるあたりで腰を下ろした。

カツミくんは背負っていたギターを取り出す。

またチューニングをしてポロロンとやると、

今朝のとは違う歌を唄いはじめた。


すごい…!

何がすごいって、とても小さな声で唄うのです。ウィスパーボイスっていうのかな。

赤ちゃんを眠りにいざなう母親の子守唄みたいな、とても優しい声。

誰かに聞かせてやろうとか、波音に負けまいとか、

そうした気張ったものがまったく無いみたいだ。

本当に波音にも負けてしまうような小さな声なので、

私はそれをもっとハッキリ聞きたくて、たまらず彼のそばに近寄った。

耳元で聞くとそれは一層セクシーで、

また、距離が近くて彼の匂いがする。体温を感じる。

私は、ドキっとしてしまった。

私は目を細めて、恍惚の表情で、彼の横顔を眺める。

彼は、私のことなんてぜんぜん気づいてない。気にしてない。

歌に入り込み、景色の中に溶け込んでいる。

なんて優しい生き物なんだろう。


キャハハ!という黄色い声がして、

カツミくんははたと手を止めてしまった。

「行こうか。他のお客さんが来たね。」

私はそれに従う。

新しい客は若いカップルで、二人で仲良さそうに水かけ合っている。

私たちは自然と、カップルに目がいく。

二人は急に、豪快に抱きしめあってキスをする。

私はそれを見て、赤面してしまう。

「あはは。」カツミくんは笑っている。私のようにドキドキしないんだろうか?


『星空のハンモック』

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