エピソード8 『沈黙のレジスタンス』
- ・
- 2023年3月8日
- 読了時間: 3分
僕は父に、「たまには里帰りしようよ」と提案した。
2年も戻っていなかったから、父も思った以上に乗り気だった。
帰省中の滞在は、親戚の1つが受け入れてくれることになった。
ガットキアに戻ると、
僕は、一目散にデニーの「2階」に向かった。きっとここにいる。
久しぶりの再会に、僕の胸は高鳴った。
あのタカのような強い瞳に、僕は飢えていたからね。
しかし…
デニーは激変していた。
「2階」に居たには居たけれど、
彼はたくさんの酒を持ち込み、のんだくれていたのだ…
「デニー!いったいどうしちゃったんだよ!」
「おぉ、エニスか。よく帰ったな。
オマエも1杯飲むか?美味いぞ、この酒。」
その目にはクマができ、うつろで、昔の覇気は感じられなかった。
「飲むわけないだろ!何やってんだよ!」
僕はデニーの胸ぐらに掴んでかかった。
「うっせぇな。色々と、事情ってもんがあるんだよ。」
「事情?どんな事情があるっていうのさ!」
「仲間がな、いないんだよ。同志がな。」
「仲間?」
「そうさ。
オレについてくるようなヤツが、一人も現れない。オマエが去ってからはな。
何をやるにしたって、仲間が要るさ。
その仲間が、オレにはいないんだ。やさぐれもするさ。
僕は、デニーの襟首から手を離した。
僕は、無理やり話を変えた。
「この部屋、物が増えたね?」
本棚とかちゃぶ台とか、こまごまとした家具が並んでいた。タンブール(ギター)まである。
壁には幾つも、小さな棚が掘り開けられ、
珍しい舶来品の置物や、みやげ物が飾られている。
「そうだな。ヤツのおかげでさ。」
デニーは、部屋のすみっこを指さして言った。
今まで気づかなかったけど、
部屋のすみで、男の子がぶるぶる震えながら、僕らのことを見ていた。
見たことのある顔だ。「チャゴス…?」
「そうだよ。」チャゴスの代わりに、デニーが答えた。「コイツん家、金持ちだろ?」
思い出した。ケンカの弱い少年だ。
「デニー!弱虫チャゴスから巻き上げたのか!
いくらデニーでも許さないぞ!」
僕はふたたび、デニーに食ってかかった。
「待てよ待てよ。早とちりすんな。
オレは何も巻き上げちゃいない。
チャゴスをいじめてもいない。むしろ逆さ。な?チャゴス。」
チャゴスはなおも震えながら、でもデニーの問いかけにうなずいた。
「チャゴス!口裏あわせなんかいらないんだぞ!
いくらデニーだって、僕がやっつけてやる!」
「待てよ!落ち着けよエニス。
いいか?話を聞け。
チャゴスは金持ちの坊ちゃんだ。そのうえ弱虫だ。いじめられることも多い。
家に帰ればベッドもソファーでもなんでもあるが、
かといって、コイツの親父も、チャゴスに辛く当たった。
こんなんじゃ家業のあと取りになりっこないからな。
チャゴスは、いじめられてもかばってくれるヤツがないし、居場所をなくした。
それで、オレに助けを求めてきた。」
「デニーに…?」
「あぁ。オレもビックリしたがな。
オレは、『オマエのためにケンカはしねぇぞ』と言った。
ケンカはもう、ウンザリなんだ。親父のようにはなりたくねぇ。
だから、『ケンカはしねぇぞ』と言った。
チャゴスは、『それでいい』と言った。『ただ、かくまってくれればいい』と。
コイツは別に、親父やいじめっ子に復讐をしたいわけじゃない。
ただ、平和に暮らしたいだけなんだ。
だから、オレはオレの部屋に通してやった。『いつでも来い』と言った。
それだけだ。オレが言ったのもやったのも。
オレが拳を振り上げないとしても、
オレにケンカ売るヤツなんて、最近は居ないからな。
チャゴスは、ときどきこの部屋に来るようになった。
一人でおっとなしく本でも読んでやがる。それか棚を掘ってる。
そのうち、菓子や食い物を持ってくるようになった。
オレは何もせびってないぞ?勝手に持ってくるようになったんだ。
『お礼だよ』と、チャゴスは言った。
それがいつしか、家具になりタンブールなった。それだけだよ。」
僕は、チャゴスの顔を見た。
チャゴスはなおも震えながら、でもハッキリとうなずいた。
「そうなのか。」どうやらそれが、真実らしい。
『沈黙のレジスタンス』



