エピソード9 『大家族』
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- 2023年4月4日
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エピソード9
マユは、思いがけない場所に理解者を見つけて、
とても幸せな気持ちになった。
会話がこんなに弾んだのは、いつぶりだろうか。
そしてマユは、彼の姓名判断が面白かった。
「真の自由」その言葉を聞いたとき、
脳天を突かれるような衝撃を、喜びを感じた。
親からは、名づけの理由を、
「由緒」という意図で聞かされていた。
伝統を守る…正しく生きる…そういった名前だと思っていた。
そしてそれは自由とは正反対であり、
民宿を受け継いだり家名を守ったりするような使命だと思っていた。
さらにマユは、むしろそれを壊して生きてきた人間だった。
そこに、少なからず後ろめたさを感じていたのだ。
これまで「自由」という言葉にあまり興味がなかったのに、
急に、自由という言葉に愛おしさを感じるようになった。
そして、もっと自由に生きたいと思うようになった。
マユは、もっとこれが聞きたくなった。
「あの、ミユは?ミユはどういう名前なんでしょうか?」
「どういう名前って!
ミユちゃんの名前を付けたのは、マユさんたちご両親じゃないんですか?
名前の由来は、マユさんが一番ご存知なのでは?」
「いえ、そうでもないんです。
うちは宗教家庭なものでして。ミユの名づけは、学会の地区担の方に託したんです。
霊能の力のある方だったんで。
ミユ。『美』『結』という名前を授かりました。
私の名前に似せるなら、ユは『由』ではないかと思ったんですが…
地区担の方、間違えたのでしょうか?ずっと気になってたんです。」
「あはははは!
間違えたのかどうかは、僕にはよくわかりません。
でも、『結』という字は、ミユちゃんの人生に相応しいんじゃないですか♪」
「そうなんですか!?
『結』という字は、どういう意味があるんですか?」
「僕が知っている限りでは、
『結(ゆい)』というのは、日本の伝統集落に見られる『助け合い』の習慣です。
家族ではない人々と、家族同然に助け合うこと。」
「あ…!」
「そうですよ!交流館は、まさに、
『家族ではない人々との、家族同然の助け合い』の場ですよね。
ミユちゃんがこの交流館みたいな環境で暮らすことは、
彼女の天命だったのかもしれませんね♪」
「あぁ…そうだったんですね!
ミユ、あの方に、とても素晴らしい名前を授けて頂いたんだ…
それであの子はとても良い子なんだ…
あの方に感謝ですね…!」
「あははは!違うんですよ。
霊能者は、名前を『授けているわけではない』んです。
赤ちゃんの魂に、名前を『聞いている』だけです。
それに、
どんなに立派な名前を付けたところで、自動的に立派になれるわけじゃないですよ。
当人の努力や意識が、最も重要なんです。名前は、あくまで羅針盤に過ぎませんから。
田舎での寮生活は、誰にでも出来るものではありません。現代っ子には特にキツいです。
ミユちゃんが交流館に拒否反応を示さないということは、
マユさんはきっと、これまでの7年の歳月で、
ミユちゃんの天命に必要不可欠な技術を、たくさん授けてこられたのでしょう。」
「…!!」
マユは、自分のこれまでの人生が決して間違っていなかったと、
強く背中を押されたように感じて、感動の涙を流した。
『大家族』



