エピソード9 『沖縄クロスロード』
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- 2023年3月14日
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エピソード9
ユカたちは、キャリーバッグを置かせてもらい、
広いリビングの座卓に座らせてもらいました。
へぇー、ゲストハウスってこういう感じなのかぁ。
家を一回り大きくした感じ。友達の家にでも来たみたいな。
ゲストハウスって言っても、色々あるらしいけど。
ここは民家みたいなタイプのところっていうだけで。
この若いオーナーは、信悟さんというらしい。
東京生まれで東京育ちだけど、お祖父ちゃんが沖縄人なんだって。
お祖父ちゃんの家を改装して、ゲストハウスを始めたんだ。
信悟さんは、ユカたちに冷たいさんぴん茶を出してくれました。
ピンクの花びらが、可愛く浮かべられていました。
「いくらですか?後払いでいいの?」
「いくらって?お金なんか取らないよ!」
信悟さんは驚いて、お茶を噴き出してしまった。
「えー?お茶1杯200円は取らなきゃ、お店って潰れちゃうんでしょ?
チーフが言ってました。『200円以下には値下げできない』って。」
「あはははは!そりゃ人件費かけ過ぎてるから、そうなっちゃうんだよ。
用も無いのにレジに1人待機させるから、
お茶ごときにカネ取らないと、店が回らなくなるんだろうさ。
何でもセルフサービスにすりゃイイんだよ。そしたらどんどん安くできる。
ゲストハウスってそういうトコさ。細かいことにカネ取らない。
さんぴん茶、いくらでも飲んでいいけど、2杯目からはセルフだよ?
自分で冷蔵庫開けて注(つ)いでね。黄色いフタのがさんぴん茶だから。」
信悟さんは立ち上がり、その黄色いフタのを冷蔵庫に仕舞う。
「っていうか私たち、お客ですらないのに?」
「あはははは!『顧客』ではないけど、『客人』には違いないよ。
『顧客』か『客人』かなんて、どうでもイイことさ。
そんなのイチイチ区切ってるほうが、めんどくさくない?
お金払ってくれたかどうか見極めるためにいちいちチケット発行したりするから、
設備費かかるし人件費かかるし、めんどくさくなる。
『顧客』じゃなかろうと、疲れた旅行者にはお茶くらい差し出してやったらいい。
オレ、そう思うけど?」
「へぇー。うちのチーフとは気が合わなそう。」
きっと、信悟さんがうちのパスタ屋で働いたら、
いつまでも時給750円のままだ。
信吾さんは、話題を変えた。
「ところで、
何でホテル・ニライカナイを選んだの?キミら金持ち?」
「いや?キャンペーンやってたんです。運良かったんです。
それに、ヒヨリが『懐かしい』とか言うから…」
「懐かしい?子供の頃にも泊まったことあるの?
そんなはずないよなぁ。ホテル・ニライカナイって、まだオープン2、3年目でしょ。」
「違うんですぅ。
『ニライカナイ』って言葉が、懐かしいんですぅ。なーんとなく。」
珍しく、ヒヨリが自分で口を開いた。
「あははは!
キミ、『ニライカナイ』ってどういう意味か知ってんの?」
「ううん、ぜんぜん知らないですぅ。外国の言葉?」
「外国語っちゃぁ外国語かもなぁ。
琉球の言葉だよ。沖縄の古い言葉。
ニライカナイっていうのは、
はるか東の、神の国のことさ。」
「神の国?そんなの、東にあるんですか??」
今度はマリが食いついた。
「いや、神話や伝承の類だからなぁ。
東にある実際の国っていうか、『あの世』とか『霊界』とか、そういう意味じゃない?
それにしても、ニライカナイに懐かしさを感じるなんて、
ヒヨリちゃんだっけ?キミ、前世は琉球人だったのかもね。
アマミキヨの生まれ変わりだったりして!そりゃ無ぇか!あははは。」
「アマミキヨ…それも何か聞いたことあるかも…」
また、ヒヨリはヘンなことを言う。少なくとも社会の教科書には載ってなかったはずだけど。
「…!
ひょっとしてヒヨリちゃん、
やたらパソコン壊したりとか、しない?」
「あー、するする!このコすぐパソコン壊すんですよー!
Enter押しただけで電源落ちちゃったり。」
「えぇー?しないよぉー。」
いや、するする。
「やっぱりね!
ヒヨリちゃん、霊感が強いんだよ。
それで、沖縄に呼ばれたんだ。」
「霊感?呼ばれた??」
「そうだよ。知らないハズの言葉に懐かしさを覚えるのは、
霊感の一種らしいよ。
それに、霊的な啓示を受ける人、沖縄に腐るほどいるよ。
『ユタ』って言葉、聞いたことない?霊能者のこと。
沖縄は、琉球の時代から霊能者の盛んな土地さ。
今のユタはウサン臭いのばっかだけどね。商売してるユタは全部ウサン臭い。
本物の神人(かみんちゅ)は、御獄(ウタキ)の掃除しかしないよ。」
話がひと段落つくと、
信悟さんは食料品の買い出しに出かけてしまった。ユカたちを残して。
留守番役の常連客とやらは、まだ日中レジャーに出かけたまま、戻ってきてないのに…
初対面の、「顧客」ですらないユカたちを、全面的に信頼しているらしい。
ユカは、リビングの窓から外を眺めた。
涼しい風が絶え間なく吹いていて、その源は美しい海辺だった。
傾きはじめた陽が、水面を金色に染めていて、まぶしかった。
観光客はほとんど居なくて、商業施設もほとんど無かった。いいビーチだな。
ヒヨリはトイレに消えていき、その後シャワーを借りると言っていた。
綺麗好きなんだ。ヒヨリは。
マリは、壁の写真を夢中で眺めてた。
リビングの壁には、大小たくさんの風景写真が貼られてた。
沖縄の景色だけじゃない。モアイとかいるし、エッフェル塔もあるし。
きっと、信悟さんは色んな国を見てきたんだ。
ヒヨリがトイレに消えていき、マリが写真に夢中で静かになると、
波音だけがさぁさぁと、耳を心地よく刺激した。
沖縄に、昔からあった風景なのだろう。
ユカは、時間の枠の外に飛び出してしまったような、妙な気分になった。
素っ裸になったみたいな、心地よい気分だった。
『沖縄クロスロード』



