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第16節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

第16節


3人は村の井戸場まで出てきた。

?「やはりお金を導入し、よその国と貿易をすべきだ!そうじゃないか?みんな!

 神の掟だかなんだか知らないが、古臭い文化をいつまでも続けるのは間違っているぜ!

 やはり村長は投票で決めようじゃないか!」

衆「わーー!」

衆「そうだそうだー!」

誰かが演説をし、それを十数人の村人が取り囲んでいる。

ア「また言ってんのかおめえは?」アギロは通りすがりに口を挟んだ。

?「うん?誰だその輩は!さっきの騒動の犯人か?」

ユ「僕らは、海で遭難したところをアギロさんに助けてもらいました」

ノ「盗賊じゃありません」

?「はっはっは!その細い腕じゃ盗賊なんて無理に決まってる!

 そうか遭難者か。せわしいな最近は。それで、クダカに住むのか?」

ユキはアギロを見上げてから言った。

ユ「わかりませんが・・・しばらくは」

?「そうかい。じゃぁ君らもお見知りおきを」男はキザなお辞儀をした。

バ「私の名はバーディー。次の村長になるべき男だ」

衆「わーー!」

ユ「あぁ、どうも」ユキは無難に相槌を打った。

ノ「お金が、神様の掟?」ノアはバーディーの演説の「お金」と「神の掟」という2つのワードが気になった。

ア「危険思想なんだよコイツは」

バ「なに?アギロ君。君も古臭いことを言い続けるつもりかね?なんだぁ失望するなぁ。私の専属ボディーガードに抜擢したいもんだが」

ア「勝手に騒いでいろよ。どうせおまえを支持するヤツなんて村人の1/10だ」

バ「ふふん。本当に頭の中が古いんだな!

 今では私の支持者は5割にも近いぞ!」

ア「なに!?

 おい!ホントにカネの導入なんて決め込んだら、神の怒りを買うんだぞ!」

バ「そんなの迷信にすぎんさ!」

ノ「どういうことなんですか?掟とか迷信とか」

バ「ようし。心の広い私が親睦ついでに話してあげよう。

 この村は、世界で最初に人類が降り立った由緒正しき地。

 だからな、神は我々に語り掛ける。そのうちの1つだよ。

 『この村で商売をしてはならない。カネというものを導入してはならない』ってね」

ノ「それで・・・何が困るのでしょうか?」

バ「カネがなくても困らないじゃないかって?

 そうだ。特に生きることに困りはしない。

 しかしだな。海の向こうの民は、珍しい食べ物や武器やなんかを見せびらかす。それを手に入れるにはカネが要るんだよ。カネがあれば、メロンや銃が手に入る!こんなに素晴らしいことがあるかね!?」

ア「そんでスープをやるのにも寝床をやるのにも、『カネをよこせ』って言うのか?

 村人の心が荒れる。それがわからないのか?」

バ「荒れるものかね!ものを得るのにカネを払うのは当然のことだろうが!

 より多くのカネを手に入れれば、より多くの銃が手に入る!クマが何匹入ってきたって負けないぞ!

 より多くのメロンを手に入れれば、より多くの女を魅了する!男の夢だろうがよ!」

ア「一人の女にも愛されたことがないくせに?」

バ「何を言う、失礼な!貴様だって多くの女をはべらせたいくせに!」

ア「そのためにカネを持つのか?神の掟に逆らって?」

バ「い、いや、それは言葉のアヤだ!

 銃を買ってクマから村を守るのだよ!」

ア「貴様が首に巻いている、そのギラギラ光るやつはなんだ?外の者から買ったんじゃないのか?」

バ「い、いや、これは!」

ア「おいおまえら」アギロは今度は、聴衆に向いて言った。

ア「おまえら、バーディーのような人間になりたいのか?」

衆「そ、それは・・・」

ア「行くぞ」

アギロは2人を連れて、そこを立ち去った。


その時、不意にすさまじい地響きが辺りを包み込んだ!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!

ノ「きゃぁー!」

ユ「なんだ!?」

2人は慌てふためいた。ノアとユキはお目にかかったことのない現象なのだった。

アギロはさして慌てず、しかし眉間にしわを作りながら振り返って言った。

ア「あぁ、またか」

アギロを真似て2人も振り返る。すると彼方にある山のてっぺんから、灰色の雲がもくもくと吹きあがっているのが見えた!

ユ「なんですかあれは!?」

ア「火山の噴火だよ。山は時々火を吹くんだ。煙を吐き出すし、石っころまで吐き出すこともある」

ノ「石が?飛んでくるのですか?」

ア「石ならまだいいほうさ。言い伝えによると、溶岩・・・炎の海を吐き出して島全体を飲みつくしたことすらあるらしい。昔はこの島にはポリネシアンレックスっていうでっかい恐竜がいたんだ。それが滅んじまったっていうんだからな」

ユ「炎の海が!?」

ノ「ひぃぃぃ!!」

ア「ひぃひぃひぃひぃひぃひぃじいさんくらいの話だよ。村長さんも誰も見た者はいないが、伝承が残ってる。

 島の奴らが悪いことすると、山の神が怒って火を吐き出すんだ。派手な噴火はいつも、人の堕落に時期を同じくするらしい」

ユ「バーディーとかいう人はそれを知らないのですか!?」

ア「知ってるよ。村のもんはみーんな知ってる。子供のときから聞かされて育つからな。

 でもバーディーみたいなヤツは信じないのさ。欲張りなヤツってのはさ、自分の信じたいことだけ信じるんだよ」

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