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第21節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』

  • 執筆者の写真: ・
  • 8月27日
  • 読了時間: 3分

第21節


アギロの村を出て4日目、もう食料は尽きた。

今日こそは何かを見つけたいと思ったが、2人を出迎えたのは大きな島ではなく、大きな灰色の雲だった。天気が荒れはじめる。

波は高くなり、イカダは激しく揺れるのだった。オールで漕ぐのもはかどらない。

ユ「こういうときはどうすればいいんだ!?」

ノ「波が高いときは浜に戻って漁をやめるんでしょう?」

ユ「その浜がないときは!?」

海育ちの2人でも、経験したことのない海の試練はあるのだった。

高波は激しくイカダを揺する。2人はイカダから落ちないように懸命に体を支える。それだけではない。イカダが妙にギシギシとうるさい音を立てはじめたのをユキは察知した。

ユ「ノア!短剣を腰に結べ!」

ノ「え?あはい!」

そしてユキ自身はヤリを背中にくくり付けた。

雨が降り始め、波は益々高くなった。

するとついに、ノアはイカダから振り落とされてしまうのだった。

ザボン!

ノ「きゃぁ!」

ユ「大丈夫だ!イカダに捕まっていれば泳げる!」

そうだわ!この訓練をしてきたはずだ!

しかし・・・!

災難とはいつも、1つだけでは終わらないのだ。

ノアがザボンと体を落すと、海は驚いた。そしてその辺りを回遊していたマグロの群れの一部が、何事かと驚き、イカダに向かって海中から突進してきた!

ザパン!

4匹のマグロはイカダではなくその真横を跳ね上がったが、その衝撃でイカダはついに崩壊してしまった!

ノ「きゃぁぁぁ!」

ユ「うわぁぁぁ!」

2人は青ざめる!

ユ「丸太に掴まれ!掴まれ!」ユキは青ざめてもなお、ノアの命を守るために嘆きよりも指示の大声を上げた。

ユ「木は1つだって浮くんだ!」

ノ「はい!」ごぼごぼ!「はい!」

ノアは懸命に1つの丸太にしがみつく。ユキも手近の丸太にしがみつく。

マグロの群れは攻撃がないことに安心すると、すぐに回遊に戻っていった。

2人の命は助かったが・・・

ユ「イカダが・・・なくなっちまった!」

丸太を浮き輪にして、泳ぐしかない。


小雨に視界を邪魔されながら、それでも南とおぼしき方角へ黙々と泳ぎはじめる。

ゴロゴロ・・・と小さな雷が鳴ると、マグロが襲ったでもないのに大きな波が立った。ノアはその高波にあおられ、丸太ごと2メートルも体が吹っ飛ぶ。

ノ「きゃぁぁぁ!」

ユ「丸太から手を離すな!」

そしてノアは、上空から、奇妙なものを目撃する!

ノ「クモだわ!う、海の上にイカダよりも大きなクモ!!」

ユ「なんだって!?またモンスターか!?」

万事休すだ。もう体力もない。イカダという足場も逃げ道具もない。こんな場面で、魚ならまだしも魔物に襲われるなんて・・・。

ユ「チクショウ!」ユキは自分の勇み足と、それにノアを巻き込んでしまった事実を大いに悔いた。旅とは大変なのだ。そうか!だからテオさんだって誰だって、島から離れようとはしなかったのか!

2人が嘆きの叫び声を上げたことで、クモは2人の存在に気づいた。クモはするすると、2人に近づいていった。



何かが近づいてくるのはわかる。しかし雨に絶え間なく顔を打たれ、もう視界はろくに見えない。

?「何やってんだ?こんなところで」


クモがしゃべった!?

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