第8節 『世界のはじまり ~花のワルツ~』
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- 8月27日
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第8節
月日は流れ、海はますます青く鮮やかになった。夏が来たのだ。
例年どおり、コーミズ村では無事ほむら祭りが執り行われた。これは農業や漁業の豊作を祈願する、年に一度の重要な催しである。村の女たちはこの日のために懸命に踊りの稽古をしている。
コーミズ村の祭り、そして奉納舞いは、島のよその村からも見物客が訪れるほどだ。村はいつもよりもにぎわう。
村の中央広場では盛大な会食が営まれ、上等な魚で民は夏の疲れを労う。
それが済むとキャンプファイヤーの矢倉に火が入り、鮮やかな民族衣装に身を包んだ踊り手たちがその周りに円陣を作り出す。男たちは伴奏のスタンバイをする。
村長は儀式の音頭をとる。
モ「村の者たち、そして方々から遥々の来訪、まことにありがたく思う。
見つめてくれる人がいるから、人は輝こうとする。
コーミズ村は、人類の始祖が降り立った由緒正しき地。云われを背負い、降霊の儀はどの村よりも盛大に受け継いできた。それは神への礼節であり、民への楽しい催しだ。今宵もどうか、それぞれに楽しんでいってほしい。
それでは奉納舞いをはじめてもらおう!」
するとキャンプファイヤーの周りでは、華やかな奉納舞いが繰り広げられた!
いつもはその輪の中心、そのあたりにいたノアだが、今年は違う。結局はバックダンサーすらもしなかった。
キャンプファイヤーやその聴衆の輪の、そのまた外側で、なんとなしに仲間たちの踊りを眺めた。
しかし音楽が始まると、彼女の本能はうずきだすのだった。
体が動く。踊りたくなるのだ。しかし自分は選ばれし踊り手ではない。そのためらいは、彼女にくるくると回るあの奇妙な踊りをさせるのだった。
演目はだんだんと盛り上がり、太鼓のリズムはより一層速い鼓動を打った。大地を揺るがす太鼓の音色は人を興奮させる。するとノアは、いつもよりもさらに速く、くるくると回るのだった。
速く、速く、速く!
ノアは、いつもとは違う回転の鋭さに大きく興奮した。しかし体がよく動く。まっすぐ綺麗に回れる。やがてノアは、思わず目を閉じてしまった。それでもよろけない自信があったのだ。
すると・・・!
頭の中で声が聞こえるのだった。
「神は踊りを見ている。見ているとも。
しかし、踊りを見ているのではない。踊りながら、彼女は何を思っているのか?どんなことに留意して踊っているのか?いつもどんな努力を、どれくらいしているのか?その内側を見ている。
その内側を見ている」
思いがけず長文な、シリアスな啓示を受け、ノアははっと我に返った。
回るのをやめ、地面にへたり込んだ。
ノ「なんだったのかしら今のは・・・」
声はやんだが、まだ頭はぼーっとする。回転に酔っているからかしら。
奉納舞いが終わった。
すると火の矢倉の前には、装束を着たホンダラが現れた。
ホ「神よ~神よ~!」
ホンダラは神を呼んでいる。
それは降霊の儀の始まりにすぎない。彼は枯れた葉っぱに火を点けると、その煙を胸から勢いよく吸い込んだ。
ホ「神よ~神よ~!
今年も豊作の手がかりをお与えください!」
するとホンダラの体は、痙攣するようにわなわなと震えた。
ホ「お、お、お、お、お・・・。
海の魚 凶暴に化す。
もっと畑を耕せ。大地の実りに感謝せよ」
民「おぉ、神からの啓示だ!」
民「魚が凶暴になるだって?この村の民ならモリで倒せるんじゃないか?」
民「農業は面倒くさいよなぁ」
モ「これこれ、静まりなさい!
神よ。農作物だけで村の懐は満たせるじゃろうか?
何を植えるのが得策であろうか?」
ホ「お、お、お、お、お・・・」
ぐらぐら ぐらぐら
しかしホンダラはそれ以上何もしゃべらない。ホンダラに降霊したであろう神は、何もしゃべらない。
ホ「お、お、お、お、お・・・」
ぐらぐら ぐらぐら
モ「神よ?お告げを!」
何を植えるのが得策であろうか?」
ホ「お、お、お、お、お・・・」
ぐらぐら ぐらぐら
ホ「・・・・・・」
モ「皆の者、静まりたまえ!」啓示を聞き逃すまいと、モーセは周囲に静寂を促す。村の民も、島の民も、固唾を飲んで見守る。
すると・・・
「豆を・・・
豆を植えなさい。
豆をもっと。豆をもっと植え、育てなさい」
聴衆は一斉に振り返った!
そうだ!声の主は焚火の前のホンダラではない。後ろから聞こえたのだ。
そして後ろにいたのは・・・