56 「ヒロさんの意識」
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- 2023年3月3日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年1月8日
56 「ヒロさんの意識」
「…やってみます…。ヒッチハイク。」
私は、力なく、そう言い切った。
「そうかぁ?
じゃあな、
知り合いのおっちゃんに、当たってみるよぉ。
石垣から、神奈川の横須賀港まで、
貨物船を出しとるんよぉ。」
「おぉ!
横須賀やったら、
そこから総武快速線1本で、市川に戻れるんちゃうん?
4,000円もあったら、横須賀からは電車で帰れるわなぁ。」
慎さんは横浜のヒトだから、
あの辺の交通網に、詳しいらしかった。
おばぁは、
「そしたら、電話してくるわぁ」と告げると、
すぐに、家の中に駆け込んでいった。
5分も待っていると、
ドタドタと、玄関先に戻ってきた。
頭上に、両手で大きく丸を描き、満面の笑みだった!
「今夜、出りよるんじゃとぉ!
タイミング、バツグンやわぁ!
船は、いっつも走りよるわけじゃぁ、ナイもんなぁ。」
「良かったー♪」
ホントに、良かったー♪
おばぁは私に、
石垣島の港の場所と、船の名前、
友人男性のケータイ番号を、教えてくれた。
私は、そのメモ紙を受け取ると、
宿を出発し、竹富島も後にした。
夜までは、
石垣島の離島桟橋付近を、
ぶらぶらと徘徊して、過ごした。
「○○ゲストハウス」と書かれた宿を、いくつも、見つけた。
…そう言えば、
ヒロさんは、ゲストハウスという宿泊施設に泊まるのだと、言っていた。
いくつものゲストハウスを、地道に尋ね歩けば、
ヒロさんを見つけられるかもしれない。
けれども、
それは、しなかった。
したかったけど、ガマンした。
…かと言って、
石垣の市街地を徘徊しながら、
あちこちにヒロさんの面影を探している自分に、気付いた(笑)
本能というモノは、なかなか、セーブするのが難しい。
20時半の約束に合わせて、港に移動した。
港に着くと、
アッサリと、おじさんと落ち合うことが出来た。
おばぁが紹介してくれたヒトだけあって、
誠実そうで、気さくだった。
「ワシも昔は、アチコチを旅しとったよ♪」
と、おじさんは微笑んだ。
…どうしてこうも、旅人という人種は、
他者に手を差し伸べるのが、好きなんだろうか?
いや、
その答えは、私も、知っている。
昨日今日で、痛いほど良く解った。
彼らは、誰もが、
「見知らぬ誰かに助けられた経験」を、
いくつも、いくつも、持っている。
一期一会の出来事だったから、連絡先すら名前すら知らぬ、恩人。
その恩人に恩返しが出来ない代わりに、
新たに、見知らぬ「冒険者」に手を差し伸べることで、
「恩の先送り」を、するのだ。
そうして、「優しい旅人の血」みたいなのが、
脈々と、受け継がれていくのだろう。
貨物船の中で、私は、
2畳ほどの仮眠室を、与えてもらった。
食料すら、分けてもらった。
おじさんは、
「船員たちには話を付けてあるから、
好きなように、船内を探検すればいい」
と、言ってくれた。
けれども私は、
仮眠室に案内されると、すぐに眠ってしまった。
ムリもナイ。
今日もまた、炎天下の中を、ずいぶんと歩き回ったのだから。
家に帰った後は、
両親がゴネて、大変では、あった。
けれども、
チアキと沙織が上手く口裏を合わせてくれたので、
なんとか、こと無きを得た。
それからは、
「日常」に戻った。
ううん。ちょっと違う。
生活の舞台は、「一昨日までと同じ日常」なのだけれど、
何だか、違う世界を生きているようなカンジがした。
いや、
違ったのは、「世界」のほうではなく、
私の「意識」のほうなのだ!!
私は、この、
どんな「冒険」にも果敢に「チャレンジ」し、
そのプロセスの中に意義を見出す考え方のことを、
「ヒロさんの意識」と、呼んでいる。
私は、
今でも常に、
…いや、「常に」とまではいかないけれど、大抵は…
この、「ヒロさんの意識」と共に、生きている。
私がヒロさんと会ったのは、ほんの数時間であり、
彼に触れたのは、ほんの一瞬であり、
彼からもらった物質など、何一つ、ナイ。
けれども、
確かに、彼は、
今でも、そして、これからも、
私の人生に、寄りそい続けるだろう。
私がいずれ、「人生の配偶者」となる男性を見つけようとも、
それでもなお、私の人生に、寄りそい続けるだろう。
「意識」には、浮気も不倫も無く、
重婚も何も、ナイのだ。
…同じようにして、
おそらく、
何十人か、ひょっとしたら何百人もの女性の中に、
「ヒロさんの意識」が寄りそい続けているに違いない。
彼と3時間も話したなら、そのようになってしまうだろう。
彼は、
極めて誠実でありながら、究極の「浮気者」だ。
女性の胸にも股にも、指一本触れることなく、
ブランド財布の1つも贈ることなく、
数多の女性の心の中に、住み続けるだろう。
その女性が、彼氏を得ようが旦那を得ようが、
それでもなお、彼女の心の中に、住み続けるだろう。
そして、彼女の人生に、寄りそい続けるのだ。
彼は、
極めて誠実でありながら、究極の「浮気者」だ。
2012/07/09 完筆
『星砂の招待状 -True Love-』



