エピソード10
―ワフルの里―
3人は足早に、その集落へと駆け寄った。
集落に辿り着くと、幾人もの住人がずらりとこちらを待ち構えている。
ハ「歓迎してくれるのかな?」
ゆ「いや・・・」
そういう気配ではなかった。
真ん中に立つ男性たちは毅然としてこちらを見ていたが、人だかりの端にいる女性や子供は不安げな表情で、互いが互いの陰に隠れながら、3人の様子を伺うのだった。
男「結局、辿り着いてしまったか・・・」
3人の住む国の民とは異なる、奇妙な格好をした者たちだった。
全体的に背が低く、ややずんぐりむっくりな体型をしている。肌は浅黒く、顔は丸い。
ハ「やぁ、おっさんたちエルフか?」
長「エルフではない」代表とおぼしき男は無表情に言った。
ゆ「歓迎されて・・・ないみたい」ゆなは不安げに言った。
長「当然だ。
自分の国を離れ、こそこそと山を抜けてどこへ行く?人間よ」
な「人間よ?」・・・ってことは、エルフじゃないけど妖精なのかな?ななはたくましい空想力を働かせた。
長「その通りだ。我らは人間とは異なる種族。妖精と呼ばれることもある」
ハ「妖精!妖精なんて本当にいるのか!?」
長「人間にこの森に立ち入られては困る」
な「妖精がいるってことは、魔物も本当にいるのかなぁ?」
長「当然だ。魔物の存在も知らぬのか?
噂通り、平和ボケした民族だな」
ハ「するとやっぱり、あの犬やサルは魔物だったのか!」
長「違う。おまえたちに襲い掛かったのは動物だ。
我々が仕向けた」
ハ「なんだよ殺されるところだったんだぞ!」
長「動物ごときで死ぬのか?やわな生き物だな。
殺すつもりはなかった。威嚇出来れば充分だ。
戦うつもりはない。引き返してもらいたかっただけだ」
ゆ「どうして?旅行もしちゃいけないの?」
長「人間は、生き物を殺す。自然を破壊する。
それ以上に理由を並べる必要があるか?」
ゆ「うぅ・・・」ゆなの心にはこうした言葉は重く響いた。
長「ここは人間に侵害されていない土地だ。無暗に侵略・・・いや、開拓されたくはない。
帰ってもらおう」
ゆ「でも、侵略の意図はないんです」ゆなは真っすぐに言った。
長「どうせ仲間を大勢引き連れて、再びやってくるのだろう。
『我々は調査団です』そんな詭弁は聞き飽きた」
な「おうちには、帰りたくないんです」
ゆ「私は帰りたいけど・・・でも帰りたくない気もします。ただ森を抜けたいだけなんです」
ハ「こんな村に用は無いぜ!もっとすげぇ城とか行きたいんだ」
長「・・・」
長は3人の様子をしばし眺めた。
長「なるほど。
『ただ通り抜けたいだけ』というのは本心であるようだ。
皆の衆、解散だ。無駄に騒がぬよう」
男がそう言って手を挙げると、民は少々ざわつきながら、家々に散っていった。
そして長らしき男も、自分の家へと引き返していった。
ゆ「あ、あの!」何か食べさせてほしい、と言いたかったがそういうムードではなさそうだった。
3人は広場にポツンと取り残された。どうしたものかとキョロキョロしていると、右方面の家の陰から小さな男の子がこちらを見ている。3人に興味を持っているようだ。
な「あは♪」ななは上機嫌になって、ニコっと微笑みかけた。
少年は咄嗟に顔を隠した。
ハ「おい!怖がってんぞ!」
いいや、赤面したのだった。
3人は少年に近寄っていった。
少年は向き直り、ワクワクやモジモジや様々な感情の入り混じった笑顔で3人を見つめ返した。
な「こんにちは♪あなたたちは、ドワーフ?」
少「そうだよ。僕はアミン」
な「私はなな。こっちはゆなで、ハヤト」
ア「お、おう!」
ハ「おまえは人間が怖くないのか?」
ア「男は怖いけどね。女は怖くない」
ハ「なんだよスケベか!」
ア「男はおまえみたいに武器を振り回すだろ!」
ハ「『おまえ』じゃない。ハヤトだ」
ゆ「ごめんね。あなたに剣は向けさせないからね。
ねぇ、何か食べ物を分けてはもらえないかしら?」
Yorumlar