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エピソード100 『天空の城』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2024年11月1日
  • 読了時間: 4分

更新日:7月30日

エピソード100


『天空の城』 アンリ
アンリ

さぁ街を出発だ。

本当に大丈夫なのだろうか?ハラハラするれいをよそに、なんとアンリは歌を口ずさみはじめた。呑気なのか強いのか・・・よくわからない女性である。

ア「だって私、いつだって歌を歌っていたいの」とアンリは笑った。

まぁいいか。特に問題はない。問題がないどころか、アンリが陽気に歌っていると、一緒にいるれいとしても機嫌がよくなるのだった。こんな陽気な冒険者を、れいは知らない。冒険者とは皆、もっとシリアスなものかと思っていたが。


平原の中の馬車道を歩いたが、やがて魔物が現れた!

ア「キャー!!」するとアンリは、大げさに悲鳴を上げるのだった。

そしてキャーと言いながらも自分の武器と役目はちゃんと理解しているようで、間髪入れることなく大げさに杖を振り回す!

ゴォォォォ!《ベギラマ》の閃熱が魔物の群れを包み込んだ!

れいは《破邪の剣》を振りかざした!《ギラ》のダメージが魔物群れを襲う!

魔物の群れをやっつけた!

ア「やったわ!私でもあんな強そうな魔物が倒せるじゃない♪」

喜怒哀楽のとても豊かな人であるようだ。まるでミュージカル役者のごとく。

ア「それに、私の炎のほうが大きかったわ」とアンリは得意気に言った。

れ「そ、そうよ。あなたに強力な武器を貸したの・・・」

れいは、その杖がいかに素晴らしい貴重品であるのか、ここに来るまでれいがどれだけ苦労したのか、それとなくアンリに話して聞かせた。

ア「へぇ、すごいわ!」何でも「すごい」と言いそうなアンリだが、理解したのだろうか、していないのだろうか。


しかし、不慣れな者を冒険に連れ出すにおいて、戦いに怯えられるのが最も面倒くさいものだ。怖がって泣いたり、攻撃も防御も出来ないようだと、戦力にならないばかりか足を引っ張りすぎる。

その点、魔物が出てくるたびに怖いもの知らずに《いかずちの杖》を振り回し続けるアンリは、ある意味ではやはり強い。頼もしい。

人の強さというのは簡単には計れないものだなと、れいは感銘を受けたりするのだった。

ア「ベラギマ!」アンリは楽しそうに得意気に、魔物をなぎ払っていった。

やはり豪快に魔法を撃ち放つことに、誰もが憧れるのだろうか。

魔法の名前を間違ったって強力な閃熱はほとばしり続ける。杖の中に潜む精霊か誰かは、とても寛大で気前が良いようだ。



やがて2人は森へとぶち当たった。

馬車道は森の中へも続いているようだが、広大な森が、というか山が、遠くまで続いている。

ア「そうよ!こういうところに飛び込んでみたかったの!

 れいさん、私の憧れを叶えてくれて、どうもありがとう!」

れ「え、えぇ。でも目的を達成してから喜んだほうが、いいかも・・・」


慎重にそろそろと、森に分け入っていく。

温帯気候のこの地域の森はジャングルとは異なるが、それでも平原とは全く異なる、ちょっと気味の悪い植物が乱立し、不気味なムードを持っている・・・。奇妙な生き物の鳴き声もする。

すると、ひとくいそうの群れが現れた!いかにも食虫、食人をしそうな植物の化け物だ。

ひとくいそう
ひとくいそう

ア「出たわね!悪しき魔物たちめ!」

アンリは《いかずちの杖》を振りかざした!

ゴォォォォォ!《ベギラマ》の炎がひとくいそうに襲い掛かる!もがき苦しんでいる!

れ「良かった!炎の魔法が効くわ!」

れいも《破邪の剣》の《ギラ》で続いた。2人の攻撃でひとくいそうは大体倒しきれるようだった。

魔力をほとんど消耗しなくても、ひとくいそうを倒しきることが出来る。れいは、アンリの気が済むまでこの森のひとくいそうの駆逐に付き合った。一体、根絶ということまで可能なのかどうかはわからない。何匹いるのかもわからない。

二人は森の中で2泊の野宿を行い、山を1つ越えて森の向こうに抜けるまでさすらい続けたのだった。そして同じ道を歩いて戻ってきた。


そしてアンリの正義感もとい冒険心は、なんとこの森のひとくいそうを絶滅寸前まで壊滅させたのだった。

それによってこの道は再び、巡礼者たちの聖なる道としての機能を、取り戻すことに成功したのだった。

後の世アンリは、マーディラスにおける宗教聖人の1人として、語り継がれていくことになる。

マーディラス大聖堂の地下にはアンリの墓が設けられたが、その石碑にはこのような言葉が刻まれた。

「見切り発車で旅立て!アンリ・ルーテル」



街に戻ると、教会の仲間たちは大層安堵し、喜んだ。

それはそうだ。冒険に出るといったってその日の夜か、せいぜい翌日には戻ってくるものだろうと思っていた。それが5日も帰ってこなかったのだから。

アンリはやはりミュージカル役者のように、道中の七転八倒を感情豊かに面白おかしく感動的に、仲間たちに話して聞かせるのだった。

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